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第72話 マネキン包囲網



 金網の上のマネキンが違う場所を向いている間に、ワタシとマウは扉の場所まで移動することができた。


 扉に手をかける前に振り返って見ると、マネキンは先ほどまでワタシたちがいた場所に懐中電灯を向けていた。

 移動が遅れていたら、また下水の中に身を潜める必要があったかも。


「これって、あの女の子の手下が下水の通路を見張っていることになるよね……」


 マウが下水道に響かない程度の小さな声でつぶやく。


 だけど、先ほどの制御室のような安全な場所が、再び見つかるとは限らない。

 シープルさんの助けを待てる部屋を探すか……最悪、この下水道から抜け出す必要がありそうだ。


 ……マネキンたちの警備を、かいくぐりながら。






 扉の先は、通路。


 下水道と別の下水道をつなぐ、通路だ。

 やっぱり左右の壁は狭めで、奥でT字の分かれ道がある。




「!!」


 そのT字の分かれ道に出ようとした瞬間、マウの耳の動きに合わせて、ワタシとマウは1歩足を引っ込めた。


 分かれ道に突然現われた光が、動き、消えたのを確認してから、ワタシは壁から顔を出す。


 通路の奥に向かって、懐中電灯を持ったマネキンが歩いている。

 隠れるのが遅かったら、見つかっていた。


「!! イザホ、階段があるよ……!」 


 マウが指さす方向には、階段のマークが書かれた扉があった。


 マネキンが背中を見せている時がチャンスだ……!!











 扉の先にあったのは、金網でできた……上に続く階段。


 そして、壁に貼られた……非常口への道を知らせる、地図だ!


「……結構近い! この通りに行けば、脱出できる……!」


 後ろの扉の奥で、足音が聞こえてくる。

 マネキンが来る前に、非常口に向かわないと……!


 ワタシは義眼に埋め込んだ目の紋章で地図を撮影すると、マウとともに階段を駆け上がった。









 階段を上がった先にもあった通路を走りながら、スマホの紋章のモニターに先ほど取った写真を映す。


 非常口への道をしるした地図が、モニターに表示されていた。

 写真だから現在位置はわからないけど、非常口への道を迷わずに進めることができる!




「イザホ! あの扉!?」




 合ってる! マウ!!


 あの扉をくぐれば、あとはまっすぐ走るだけでいい……!!










 扉を開けた瞬間、ワタシとマウは思わず後ずさりをした。




 下水の流れる音が、響く。




 扉の先に広がっていたのは……




 金網の通路。

 下は下水。




 そして、前方には……




 懐中電灯を持ったマネキン。




 ワタシたちの進行方向に立っていたマネキンは、こちらに懐中電灯を向けていた。




 マネキンののど元に埋め込まれた声の紋章が、緑色から青色へと、変わった。










「K゛O゛K゛O゛N゛I゛I゛R゛U゛Z゛O゛ーッ!!!」









 うなり声のような低い叫びとともに、マネキンは猟銃を構える!!


 それとともに、マウが駆けだしたッ!!




「間に合えッ!!」




 マウの右腕に埋め込まれたスタンロットの紋章。それによって指先から出てきた黄色の半透明の棒を、マネキンに振りかざす!!




「……ッ!」




 マネキンが引き金を引く前に、マウのスタンロットの紋章が触れた!




「……しまった!! マネキンだから、電気を通さないんだ!!」




 引き金が引かれ、ワタシの左胸に銃弾が1発……飛び込んでくる!!




 !!


 ワタシの体は銃弾によって、後ろに倒れ……後頭部を打つ……




 間に合った!! ワタシの意識は、まだある!!


 左腕の甲に埋め込んだ盾の紋章。それを起動し、ワタシは左胸を覆っていた!

 左腕を包む半透明の壁が、銃弾をはじいたんだ!




 すぐに起き上がると、再び銃声が聞こえてきた。


 前方では、後ろに向かって猟銃を構えるマネキン。

 その後ろで、マウが飛び上がっていた!! マウに狙いを変えたんだ!!




 マネキンが振り返る前に、ワタシは走り出し、




 大きな左腕で、マネキンの頭部をはらうッ!!




 マネキンの首は案外もろく、下水へと向かって宙を舞った。


 頭部をなくして手すりにもたれかかったマネキンの方を、




 ワタシは小さな右手で、押した。




 バランスを崩したマネキンは、手すりから落ちて、




 頭部、猟銃とともに、水しぶきを上げて、入水した。





「イザホ! ケガはない?」


 下水に広がる波紋を眺めていると、マウが駆け寄ってきた。

 マウの方もだいじょうぶ?


「ボクはジャンプして回避できたから、平気だよ! ……ほんと、奇跡的っていうぐらいギリギリだったけどね」


 よかった……

 思わず、胸をなで下ろす。




「K゛O゛K゛O゛N゛I゛I゛R゛U゛Z゛O゛ーッ!!!」


「K゛O゛K゛O゛N゛I゛I゛R゛U゛Z゛O゛ーッ!!!」


「K゛O゛K゛O゛N゛I゛I゛R゛U゛Z゛O゛ーッ!!!」




 !!

 マネキンたちの叫びが、下水道の中でなんども聞こえてくる!


「さっきので仲間を呼ばれちゃったんだ! 早く逃げよう!!」


 ワタシはマウと一緒にうなずいて、すぐに奥の扉へと走り出した。











 扉を開き、


 通路の曲がり角を曲り、


 また扉に入る……!!




「!! やった!!」


 義眼から映し出される視界に入ったのは、左に続く曲がり角に、壁に貼られた矢印の看板……!!


 その矢印の隣には、階段に向かって走るピクトグラムの絵が描かれていた!!


 マウは先行して、曲がり角の先にあるものを確認してくれた!




「イザホ! 早く!! 階段が――」





 マウは、右方向へと吸い込まれた。




 階段のある、左ではなく、右に。




 右にあった扉が開き、そこから腕が出て……




 たった今、マウを引っ張っていった!!




「イザホッ!!」


 ワタシはその扉が閉じる前に、その隙間から部屋に上がり込むッ!!










「入っちゃダメ!!!」









 部屋に入り込んだ瞬間、ワタシの胸になにかが突きつけられていた。




 その細長いものは……猟銃……




 目の前には、マウの耳をつかんだ、白髪の少女が立っていた。





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