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第34話 鳥羽差瑠渡絵私立小中一貫校



 フジマルさんに起こされて、リズさんは慌てて鳥羽差瑠渡絵私立小中一貫校とばさるどえしりつしょうちゅういっかんこうの校舎へと走って行った。


 その後、ワタシたちは瓜亜探偵事務所の近くのアーケード街で適当に時間をつぶし、授業参観が始まる4時間目の時間帯に間に合うように学校へと向かった。












「やっぱり、小中一貫校というだけあって、大きい校舎だね」


 校門を過ぎると、マウは背伸びをしながら校舎を見上げた。


 古すぎず、だからといって近代的でもない、想像していた通りの校舎。

 だけどマウが言うには、他の校舎と比べて大きい方みたい。ワタシにはよくわからないけど。


 それにしても……来客用玄関の周りにいろんな人が出入りしているけど、想像していた学校となにか違うような……


「イザホ、学生が出入りしているところを思い浮かべていたでしょ?」


 学生服姿のマウにずばり言い当てられてしまった。

 マウはワタシと相思相愛だから、顔を見ただけでワタシの思っていることがすぐにわかる。

 ワタシはうなずいて、マウの頭をなでてあげた。


「学生が登校する時間帯はもうとっくに過ぎているな! しかし、場に似合わぬ保護者たちがぞろぞろと校舎内に入っていく光景……学生の時の私にとっては刺激的に感じたものだ!」


 フジマルさんの大声に、周りの人たちの視線が集まってきた。

 ……本人はまったく気にしていないみたいだけど。











 来客用玄関で靴を脱ぎ、スリッパに履き替える。

 周りには人が埋め尽くすほど来ていたから、なんだか緊張する……


 ふと、頭の中で昔の景色を思い出す。

 そういえば、お母さまの親戚の葬儀の時も……このぐらいの人たちが来ていたような気がする。




 階段を上がっている中、マウは確認したいことがありそうな手つきでフジマルさんの足をつついた。


「ねえフジマルさん、リズさんのクラスはたしか3年1組だったよね?」

「ああ! 南校舎の3階に教室がある! アンの教室は北校舎2階の“4年B組”と離れているから、早めに――」




「――いどぅっ!?」「っど!?」




 3階の踊り場で廊下に曲ろうとした時、フジマルさんは誰かとぶつかって尻餅をついた。

 廊下には3冊の本が落ちた。


「ど……どうもすみません……」


 フジマルさんとぶつかった人物は急いで落ちた本を拾い始める。


「……あ、ありがとうございます!」


 ワタシの足元に落ちた本を拾い上げると、その人物は何度もおじぎをした。


「ねえ、イザホ……」


 うん、わかっているよ。マウ。

 ワタシは手に取った本を目の前の人物に渡すと、その人の顔をじっくりと見た。




 髪形はオールバッグで、四角いメガネをかけた男性……


 裏側の世界で見た、人物画の6人のうちのひとりだ。

 顔の印象は、若いながらもどこか威厳に満ちたような、しっかりした印象。服は黄土色のスーツに赤いネクタイと、まるで先生のようだ。




「あの、どうかしましたか?」


 男性はまばたきをしながらワタシを見ていた。じっと見たから、疑問に思ったんだろう。

 ワタシは首を振ってごまかすことにした。


「すみません、“テツヤ先生”。つい話に夢中になって気がつきませんでした」

「……ああ、フジマルさん! こんなところでお会いするとは思っておりませんでしたよ!」


 フジマルさんは“テツヤ先生”と呼んだ男性に手を差し伸べ、握手をした。


「ところで、そちらの方は……」

「紹介しましょう!! 私の助手のイザホとマウです!」


 フジマルさんに紹介されたので、ワタシとマウはおじぎをしてあいさつする。

 テツヤさんも「これはこれは」と丁寧におじぎをする。


「私は普羅橋 哲也フラバシ テツヤと申します。3年1組の担任をさせていただいています」


 3年1組の担任……それじゃあ、リズさんとウアさんのクラスの担任ってことかな?


「しかし、テツヤ先生のオカルト好きは相変わらずのようですな!」


 フジマルさんは、テツヤさんの腕に載せた3冊の本のうち、1番上の本に注目した。

 ワタシが拾って渡した本……その本は雑誌のようで、ピラミッドという単語が見えたような気がする。


 テツヤさんは顔を赤くし、慌ててその雑誌を1番下の教科書と入れ替えた。


「い、いえ! これは来たるべき日のための個人的な勉強ですから!」


 それなら、どうして雑誌を教科書と一緒に持ち込んでいるんだろう……

 3年1組の教室で、空き時間に読むのかな?


 ふと胸の中で、おとといの瓜亜探偵事務所での出来事を思い出した。


「ねえ、テツヤさんって……最後にウアさんを見かけた人だよね?」

「あ、はい……そうですね……」


 テツヤさんの顔が曇ったのを見て、マウはハッと喉に埋め込んだ声の紋章を手でふさいだ。


「そうだ、テツヤ先生。あれからウアについて思い出したことはありますか?」

「いえ……残念ながらなにも……」


 ウアさんは1カ月前、絵のコンクールに提出する作品を仕上げると言って自宅から出て以来、行方がわからなくなっていた。

 フジマルさんが独自に調査してわかったことは、ウアさんは喫茶店セイラムの前で担任教師と会話をしていたということだけ。

 その担任教師が、テツヤさんだ。


「ウアさんのことは、今朝、警察からお聞きしました。混乱を避けるために生徒にはまだ話していないのですが……まさか……あんなことになるなんて……」


 テツヤさんは口を手でふさぎ、涙目になっていた。

 まるで、過去の過ちを後悔しているように。


「テツヤ先生、犯人は我々がきっと見つけてみせます」

「ええ……お願いします……」


 フジマルさんに慰められて、テツヤさんは自分を落ち着かせるように深呼吸をした。


「ところでフジマルさん……今日はどういったご用件で?」

「ああ、今日はイビルに、リズの授業を見てきてくれと頼まれて……」




 キーンコーンカーンコーン




 その時、チャイムの鳴る音が響き渡った。


「!! しまった! 遅刻だっ!!」




 廊下を走り始めたテツヤさんを追いかけるために、ワタシたちも廊下を走った。


 ……“廊下を走るな”というポスターが目に入って、ちょっと罪悪感を感じたけど。





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