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第91話 宝物を求めて


「……それじゃあ……その宝物は……テツヤさんの実家にある……んだね?」




 阿比咲クレストコーポレーションの本社であるビルの駐車場で、ワタシはクライさんに向かってうなずいた。


「それじゃあ行きましょう! イザホさん!! クライさん!!」

「いや……ちょっと落ち着いて……」


 意気込むナルサさんに、クライさんはいいずらそうに眉をひそめる。




「……実は、もうテツヤさんの実家は調べていたんです……テツヤさんが死体になった日の翌日……ちょうどおとといの時に……」




 クライさんの話によると、テツヤさんの家からは宝物と呼べるようなもの……ワタシが教えた、ツボもなかったという。


 ただ1カ所だけ……段ボール箱が目立つ場所に置かれていた。

 中身に入っていたのは、保護用のビニールシートだけ。まるで、なにかが入っていたような形だったという。




「それならテツヤという人は、その宝物を別の場所に……?」

「はい……その場所に検討があれば……」


 うなるナルサさんとクライさんに、ワタシは手を挙げる。

 そして、スマホの紋章に文字を入力し、それをふたりに見せる。




「瑠渡絵小中一貫校……?」「たしかそれ……イザホちゃんがアンさんと接触した日の……」




 あの時、テツヤさんは瑠渡絵小中一貫校の美術室で、忘れていたツボを取りに行っていた。

 よく考えれば、あの場所にどうしてツボなんて置いていたんだろうか?


 もしかしたら、あのツボはまた美術室に、戻っているかもしれない。




「その場所に行けば、スイちゃんに会えるんだな!!」

「いや……昨日から言っているけど……すぐにスイホちゃんに会えるとは……」


 ナルサさんの目は隠れているのに、その目は明らかに力が入っていた。


「オレ……スイちゃんがいなくなって……話を聞いたら、スイちゃんがこの事件の犯人である可能性が大きいと聞いて……いてもいられないんだ!」

「うん……昨日、署まで突撃して盗み聞きされるとは、思っていなかったけど……」


 こちらを見て、「イザホさん!!」と顔を近づけるナルサさんに、思わず背伸びしちゃった。


「オレも連れて行ってくれ!! スイちゃんから……直接確かめたいんだ!!」

「……うん……さっきも言ってたよね……それ……」


 ……ワタシは、うなずいた。

 ふたりよりも、3人のほうが心強い。


 それに……スイホさんの恋人であるナルサさんは、スイホさんのことを強く思っているんだ。


 ワタシの、マウを思う気持ちと……同じぐらい……


 同じぐらいと認めたくないので、ワタシの次に……




 クライさんの車にワタシたちは乗り込む。


 駐車場から立ち去る直前、ワタシはふとカーブミラーに目を向けた。




 入り口でアグスさん、ジュンさん、コーウィンさんが立っていた。




 アグスさんは大きく手を振り、


 ジュンさんは腕を組んでうなずき、


 コーウィンさんは両手でガッツポーズをして、




 ワタシたちを、見送ってくれた。














 ワタシたち3人は、瑠璃絵小中一貫校の前までたどり着いた。


 瑠渡絵小中一貫校は、この前に来たときとは違って人影はあまり見られない。

 校舎から楽器の音が聞こえたり、校庭からかけ声が聞こえているから、部活動というものかな。




「この場所もずいぶん変わったな……」


 校舎の目の前に立つと、ナルサさんは懐かしそうに校舎を見上げた。


「ナルサさん……来たことが……?」

「ええ。ここの高等部がまだあったころ……オレとスイちゃんが通っていたんですよ……」


 ナルサさんは、気にしないように顔を振る。


「クライさん、イザホさん、早く行きましょう! その宝物がある場所は、美術室でしたね!」










 校舎内に入ると、ここの学校の教師が待っていてくれた。

 やっぱり、不安そうな顔をしている。生徒に続いて同僚の教師が殺されたんだから、仕方ないのかな……




 美術室の扉をその教師に開けてもらい、ワタシとナルサさん、そしてクライさんは美術室に足を踏み入れる。



「あ、あまり物には触らないでくださいね……」


 後ろからは、担当の教師さんが心配そうな声が聞こえてくる。


「だいじょうぶです……ところで……テツヤさんはなにか……ツボのようなものを、学校に……持ってきていなかった……ですか……?」

「……? たしか、あったような……」

「……少し、お話を伺っても……」




 クライさんと教師が話している間――


「……この絵……すごいな」


 ――ナルサさんは、美術室に飾られている水彩画を見てうなずいた。



 鳥羽差市の絶景が描かれた、水彩画。


 ウアさんの作品だ。


 その作品の名前……の候補のひとつは……“イケンエ・ケルェヴー”……だっけ。





 そういえば、この絵のタッチ……


 この前……マウとスイホさんとで訪れた裏側の世界で見た絵と……似ているような……


 それに……ワタシがバフォメットと出会ってからはあまり見なくなったけど、今までの裏側の世界で見たバフォメットの絵……


 あのシルエットも、どことなくこの“イケンエ・ケルェヴー”と似ていた。


 裏側の世界で見た絵は……全部……ウアさんが書いたものなのかな?


 それにしては……多くに関わりすぎている気がする。

 喫茶店セイラムやマンション・ヴェルケーロシニなど、ウアさんが襲ってきた裏側の世界ならわかる。だけど、ウアさんとは関係のなさそうな、鳥羽差署での裏側の世界にまでウアさんの絵が置かれているのは……


 まるで、ウアさんがこのことについて知っていて、あえて絵を描いていたような……




「!! こら!! 勝手に入らない!!」




 教師の声に、ワタシとナルサさんは後ろを振り向いた。


 それと同時に、ワタシの下半身が何者かに抱きしめられた。




「……イザホお姉ちゃん」




 10歳ぐらいの背丈の……おかっぱ頭の男の子は、ゆっくりと顔を上げる。




「リズお姉ちゃん……見つかった?」




 ウアさんとリズさん……ふたりと仲よしである、アンさんだ。



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