「……それじゃあ……その宝物は……テツヤさんの実家にある……んだね?」
阿比咲クレストコーポレーションの本社であるビルの駐車場で、ワタシはクライさんに向かってうなずいた。
「それじゃあ行きましょう! イザホさん!! クライさん!!」
「いや……ちょっと落ち着いて……」
意気込むナルサさんに、クライさんはいいずらそうに眉をひそめる。
「……実は、もうテツヤさんの実家は調べていたんです……テツヤさんが死体になった日の翌日……ちょうどおとといの時に……」
クライさんの話によると、テツヤさんの家からは宝物と呼べるようなもの……ワタシが教えた、ツボもなかったという。
ただ1カ所だけ……段ボール箱が目立つ場所に置かれていた。
中身に入っていたのは、保護用のビニールシートだけ。まるで、なにかが入っていたような形だったという。
「それならテツヤという人は、その宝物を別の場所に……?」
「はい……その場所に検討があれば……」
うなるナルサさんとクライさんに、ワタシは手を挙げる。
そして、スマホの紋章に文字を入力し、それをふたりに見せる。
「瑠渡絵小中一貫校……?」「たしかそれ……イザホちゃんがアンさんと接触した日の……」
あの時、テツヤさんは瑠渡絵小中一貫校の美術室で、忘れていたツボを取りに行っていた。
よく考えれば、あの場所にどうしてツボなんて置いていたんだろうか?
もしかしたら、あのツボはまた美術室に、戻っているかもしれない。
「その場所に行けば、スイちゃんに会えるんだな!!」
「いや……昨日から言っているけど……すぐにスイホちゃんに会えるとは……」
ナルサさんの目は隠れているのに、その目は明らかに力が入っていた。
「オレ……スイちゃんがいなくなって……話を聞いたら、スイちゃんがこの事件の犯人である可能性が大きいと聞いて……いてもいられないんだ!」
「うん……昨日、署まで突撃して盗み聞きされるとは、思っていなかったけど……」
こちらを見て、「イザホさん!!」と顔を近づけるナルサさんに、思わず背伸びしちゃった。
「オレも連れて行ってくれ!! スイちゃんから……直接確かめたいんだ!!」
「……うん……さっきも言ってたよね……それ……」
……ワタシは、うなずいた。
ふたりよりも、3人のほうが心強い。
それに……スイホさんの恋人であるナルサさんは、スイホさんのことを強く思っているんだ。
ワタシの、マウを思う気持ちと……同じぐらい……
同じぐらいと認めたくないので、ワタシの次に……
クライさんの車にワタシたちは乗り込む。
駐車場から立ち去る直前、ワタシはふとカーブミラーに目を向けた。
入り口でアグスさん、ジュンさん、コーウィンさんが立っていた。
アグスさんは大きく手を振り、
ジュンさんは腕を組んでうなずき、
コーウィンさんは両手でガッツポーズをして、
ワタシたちを、見送ってくれた。
ワタシたち3人は、瑠璃絵小中一貫校の前までたどり着いた。
瑠渡絵小中一貫校は、この前に来たときとは違って人影はあまり見られない。
校舎から楽器の音が聞こえたり、校庭からかけ声が聞こえているから、部活動というものかな。
「この場所もずいぶん変わったな……」
校舎の目の前に立つと、ナルサさんは懐かしそうに校舎を見上げた。
「ナルサさん……来たことが……?」
「ええ。ここの高等部がまだあったころ……オレとスイちゃんが通っていたんですよ……」
ナルサさんは、気にしないように顔を振る。
「クライさん、イザホさん、早く行きましょう! その宝物がある場所は、美術室でしたね!」
校舎内に入ると、ここの学校の教師が待っていてくれた。
やっぱり、不安そうな顔をしている。生徒に続いて同僚の教師が殺されたんだから、仕方ないのかな……
美術室の扉をその教師に開けてもらい、ワタシとナルサさん、そしてクライさんは美術室に足を踏み入れる。
「あ、あまり物には触らないでくださいね……」
後ろからは、担当の教師さんが心配そうな声が聞こえてくる。
「だいじょうぶです……ところで……テツヤさんはなにか……ツボのようなものを、学校に……持ってきていなかった……ですか……?」
「……? たしか、あったような……」
「……少し、お話を伺っても……」
クライさんと教師が話している間――
「……この絵……すごいな」
――ナルサさんは、美術室に飾られている水彩画を見てうなずいた。
鳥羽差市の絶景が描かれた、水彩画。
ウアさんの作品だ。
その作品の名前……の候補のひとつは……“イケンエ・ケルェヴー”……だっけ。
そういえば、この絵のタッチ……
この前……マウとスイホさんとで訪れた裏側の世界で見た絵と……似ているような……
それに……ワタシがバフォメットと出会ってからはあまり見なくなったけど、今までの裏側の世界で見たバフォメットの絵……
あのシルエットも、どことなくこの“イケンエ・ケルェヴー”と似ていた。
裏側の世界で見た絵は……全部……ウアさんが書いたものなのかな?
それにしては……多くに関わりすぎている気がする。
喫茶店セイラムやマンション・ヴェルケーロシニなど、ウアさんが襲ってきた裏側の世界ならわかる。だけど、ウアさんとは関係のなさそうな、鳥羽差署での裏側の世界にまでウアさんの絵が置かれているのは……
まるで、ウアさんがこのことについて知っていて、あえて絵を描いていたような……
「!! こら!! 勝手に入らない!!」
教師の声に、ワタシとナルサさんは後ろを振り向いた。
それと同時に、ワタシの下半身が何者かに抱きしめられた。
「……イザホお姉ちゃん」
10歳ぐらいの背丈の……おかっぱ頭の男の子は、ゆっくりと顔を上げる。
「リズお姉ちゃん……見つかった?」
ウアさんとリズさん……ふたりと仲よしである、アンさんだ。