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【目覚めの夢】





 窓に浮かぶ満月を眺めて、ワタシは胸に手を当てる。




 あの景色が、胸の中から離れない。


 死体を包んだ、あの炎が。


 突き飛ばしてしまった時の、お母さまの顔が。


 その光景が、紋章の中で閃光せんこうのように光る。




 ……本当に、ワタシは存在していいのかな?




 今、お屋敷にいるのはワタシだけ。


 お母さまは、友達の家に出向いているらしい。

 困っている友達を、助けるために。


 お母さまと比べて、ワタシは出来損ないだ。

 お母さまを助けることも……お母さまを元気づけてあげるという、役目すら果たせていないから……


 そんな自分を責めるワタシと、


 いつあの光景が再び目の前に現われるのかにおびえるワタシが、


 胸の中で交互に、映し出される。


 そんな考えを繰り返すワタシという存在は、本当に必要なのかな?


 お母さまは、ひとり娘を失ったことから立ち直ったのに。


 ワタシは、たったそれっぽっちの、ありふれた感情で悩んでいる。




 いっそ、そんな感情など、消してしまえば。


 いっそ、この人格が、なくなってしまえば。




 そんな考えが思い浮かんだ瞬間、その言葉は正しいとしか思えなくなった。










 ワタシは、自身の寝室で服を脱いだ。


 現われたのは、胴体に巻かれた保護用の包帯。


 その包帯の上からも、出来損ないの人格を宿した紋章が、青く光っている。


 この人格が、いけないんだ。


 この人格のせいで、ワタシは恐怖を感じて、お母さまを攻撃してしまった。


 もう二度と……あんなことがないように……




 ワタシは、キッチンから持ち出した包丁を手に取った。




 刃物の先端が、お屋敷の窓から照らす月の光を反射していた。


 光の先にあるのは、青色に点滅する紋章。


 刃物の先端をその紋章に向けると、両手が震え始める。




 ……これでいい。




 ワタシはまぶたを閉じ、震える両手を胸に引き寄せ、




 青色の紋章が付いている左胸に、入刀した。










 本当は、入刀なんてできなかった。




「……」




 後ろに、誰かの気配を感じたからだ。




「……?」




 その誰かは、お母さまじゃない。


 お母さまよりも小さななにかが、ワタシに近づいてくる。




「ねえ……キミ……どうしたの……?」




 手に持っている包丁を見つからないように床に置いて、


 ゆっくりと、顔を後ろに向ける。











 それは、真っ白な毛並みに包まれた……




 ウサギだった。





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