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高台はヒュペリオンの街の、星座を見られる場所とはまた違った趣だった。
まるで年中、お祭りを行っているように、不死鳥の姿を模した衣装を着た者達が踊り狂っている。出店が沢山、並んでいた。
子供達が鳥の仮面を被って、棒に刺さった飴玉を持ってはしゃいでいた。
辺りには不死鳥の像が幾つも並んでいる。
「信仰とはなんなんでしょうか。リシュア」
エシカは周りの景色を見ながら呟く。
「どうなんだろうな。俺の生まれた場所には、信心深いものがあったのだろうか。確かに教会にはよく行っていたが。あまり想い出せないな」
<信仰ってのは、人間が生きていく上で必要なものなのかもな>
ラベンダーは、ぽつりと言った。
彼は何か想う処があるのだろう。
人々の信心、人々が何に縋って生きているのか、このドラゴンはよく思索している。
「人間が生きていく為ですか?」
エシカは訊ねる。
<ああ。何故、人間は生きているのか。どうすれば人間は生きるべきなのか。そして、人々は何をして生きていけばいいのか。それが信仰なのだろう>
「ドラゴンの間には信仰なんてものはあるのですか?」
エシカは興味深そうに訊ねる。
<俺個人には無いな。ドラゴン全体の事もよく知らないしな>
ラベンダーは飄々と答える。
「そうか。まあ、そうだよな」
不死鳥信仰。
この地では、死者達が不死鳥の力によって、いつの日か蘇るのだという。亡くなった者達とまた話がしたい。また逢いたい。そういった願いが強く現れている。
「想いの力ってのは、凄いものだな。でも、ルブラホーンって街もあった」
リシュアは呟く。
エシカは頷く。
「そうですね。あそこは死者達の街でした。亡くなった者達は、ルブラホーンに向かうのでしょうか。そして、そこからまた、この街、アンダイイングに還ってくるのでしょうか……」
「それは死者にしか分からないな。もし、俺が死んだらどうなるんだろうな」
リシュアは遠くをずっと眺めていた。
「そんな事は言わないでください」
エシカは悲しそうな顔をする。
「もし、だよ」
リシュアは笑った。
高台に続く道は、花畑が広がっている。まるでそれは天国のような光景だった。やがて、高台の頂上へと辿り着く。そこからは、眩いばかりの森が見えた。辺りには不死鳥の石像が並んでいる。おそらく、此処に不死鳥が舞い降りる事を願って、人々はこの高台の道を作ったのだろう。ここら一帯は、観光客で溢れ返っていた。
「此処は本当に絶景だな」
「ですね」
リシュアとエシカは口々に話し合う。
ローゼリアは先ほどから黙っており、なんだかつまらなそうにしていた。
<どうした? ローゼリア>
ラベンダーが訊ねる。
「何だか、血沸き肉躍る場所が見たかったですわ。たとえば、拷問器具の展示場だとか」
<お前は本当にそういう感じなんだな>
ラベンダーの声は、何処か冷ややかさが混じっていた。
しばらくして、日の光が眩いばかりに輝いていた。
吸血鬼であるローゼリアは、日光が苦手だ。彼女はそれもあって、詰まらないだろう。
「私は先にホテルに戻っておきますわ」
そう言って、ローゼリアはホテルに先に帰っていった。
「まったく、一人で行動しやがって」
リシュアはぶつくさと言う。
「まあ、いいじゃありませんか。本当にローゼリアさんらしくて」
エシカは微笑んでいた。
「まあ、そうかもな」
リシュアとエシカは、光の庭のような場所に迷い込んだような気がした。
しばらくして、空は綺麗な夕日になっていった。
まるで、その光は不死鳥の翼のように思えた。
†
「『永遠の鳥』というのは、この街にある有名な宗教団体らしいですわね」
先に帰っていたローゼリアは、どうやら墓荒らし達の言っていた組織の事を調べていたみたいだった。
「そこの教団に行ってみませんか? 表向きは慈善団体をうたっているみたいですが、何か裏がありそうですわ」
ローゼリアははしゃいでいた。
「そうだな。じゃあ、明日にでも行ってみるとするか。エシカとラベンダーはどうする?」
「もちろん、私もお伺いいたしますよ。ラベンダーは?」
<俺なら異存はないぞ>
そういうわけで、明日は『永遠の鳥』に向かう事になった。
†