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不死鳥が訪れる街、アンダイイング 2


 そしてリシュア達は、いったん、宿に戻ると一夜寝て、墓荒らしが現れる場所へとエシカ達と一緒に向かった。


 まずは昼間のうちに、墓荒らしの被害を聞き込んで回る事にした。

 張り紙のコピーの裏側には、被害者の名前と、被害者達が集まる酒場が記されていた。ひとまず、その酒場に向かう事にした。


 そして被害者の会みたいなものが出来てる酒場へと辿り着く。


「あんたら、旅の者か。腕は立つんだろう? 是非、墓荒らし共を牢屋にぶち込んで欲しいね」

 酒場にいた老人の一人が苦々しい顔をしていた。


 話を聞いていくと、墓荒らし達の多くは、かつての戦争の英雄達の墓を掘り返して副葬品を取り出すのが目的らしい。彼らにとってはお宝探しのようなものだろう。副葬品は、別の街の裏ルートで高く売りさばかれ、かなりの金になる。だから墓荒らしを職業にしている者達も多いのだと聞く。


「ひとまず。墓荒らしが現れるのは夜だ。夜に墓に向かえば会えるかもな」


「そうか。結構な手練れはいるのか?」


「ああ。傭兵なども雇って、かなりの手練れがいるそうだ。だから墓荒らし達の討伐に難航している」

 老人は、昼間からやけ酒気味でビールのジョッキをあおぐ。

 おそらく、大切な副葬品を墓荒らしに奪われたのだろう事が推察出来た。


「じいさんが盗まれたものは取り返せないかもしれないが。俺達で報いを受けさせてやるよ」

 リシュアは、老人の気持ちをおもんばかって言う。


「そうか、若造。それはとてもありがたい事だ。期待している」


 期待している、か。

 リシュアは思わず照れ臭くなる。


「人の役に立てるのなら、是非、頑張らなければなりませんねっ!」

 エシカも嬉しそうに言った。



 そして、夜になった。

 街の外にある墓を散策していた。

 昼間のうちに、主に盗掘にあっているとされる場所は抑えていた。

 特に副葬品が多いのは、名のある戦士達、英雄達の墓だった。

 墓荒らし対策に、防御魔法やトラップ魔法が仕掛けられている場合もあるが、それを掻い潜って副葬品を盗みにやってくる輩も多いらしい。

 また、副葬品が盗まれた場合、副葬品の多くは“死後の世界”への旅立ちと祈りが込められた道具が多い為に、新たに墓に副葬品を収める。

 結果、また高価な副葬品が同じ墓から盗まれる。

 同じ墓が、何度も、墓荒らしに合うという悪循環が続いているみたいだった。


 死した者達への想いを踏み躙る行為。

 それは、リシュア達には許しがたい事だった。


「私は面倒事に首を突っ込む事が出来れば、何でも楽しいものですけど」

 ローゼリアが怖しい事を言っていたが、他の者達は彼女の話を無視した。


 それにしても、アンダイイングという街は、墓場によって囲まれた街だという事がよく分かった。この辺り一帯の領土の者達は、アンダイイングに墓を作り、遺骨を収め、遥か遠い国の者達も契約を取って、この地に身内の墓を作りたがるのだと聞く。


 それは一言で言うと“不死鳥信仰”からなるものだろう。

 来世への願い。

 あるいは、死者の魂の復活の願い。

 人々は確かにそれを信じている。


「でもネクロマンシーによって、アンデッドと化して人間を蘇らせる輩は多いですわよ」

 ローゼリアは身も蓋も無い事を言う。


「そういうものとは違うんだよ。ゾンビは生前の理性を持たないからな。なんだろうな、やっぱり、人間は根本的に亡くなった大切な人に死後に幸せになって欲しいとか、また逢いたいとか願う生き物だからな」

 リシュアは人間の倫理観がよく分からないローゼリアに説明する。


「分かりませんわね。吸血鬼の私には」

「まあそうか。人間はそういうものなんだよ。寿命だって、吸血鬼より遥かに短い」


 エシカはルブラホーンの街での出来事を想い出す。

 そこは、死者達が幽霊となって暮らしている街だった。

 幽霊の民の一人であるティモシーによって、あやうく冥界に引きずり込まれる処だった。ティモシーから貰った首飾りは、いつでもティモシーがエシカの元に現れるものだと吸血鬼のアルデアルから聞かされている。あの首飾りは吸血鬼の城の貴重品室に今でも眠っているのだろう。


 エシカはふと、大量の墓石を見ながら想いを巡らせていた。

 此処で亡くなった者達の多くは、亡霊の街ルブラホーンへと向かうのだろうか。そこで楽器や歌や踊りに興じているのだろうか。


 そう考えると、エシカには、この墓石の大群が少し不気味に思えた。


 やがて、夕刻を過ぎ、夜になる。

 四名は近くの定食屋で軽く食事を済ませた後、墓地へと戻った。

 墓荒らしは真夜中に現れるとも聞く。

 だが、警備兵達の眼を掻い潜って、盗掘が行われる。

 ラベンダーの推測では、姿隠しの魔法を使っているのではないかという事だった。


 墓場は街全体を取り囲む程に広かった。

 なので、ラベンダーが空を飛んで、それらしき事を行っている人物を空中から偵察する事になった。ラベンダーは多少の姿隠しの魔法程度なら、魔力探知で探り当てる事が出来る。


<つくづく、俺は酷使されるんだな>

 そうラベンダーが愚痴を言って、空へと舞い上がっていった。


「だって。お前、大体の事、なんでも出来るだろ」

 リシュアは苦笑する。


 だが、街の周りに墓が並んでいる為に距離は果てしなく広い。姿隠しの魔法を使っている可能性が高いとは言え、沢山の警備兵達に見つからずに悪事を働いている。上空から見下ろしても、そうそう見つかるものなのかとも思う。

 更に、今日、現れるかも分からない。


 だが路銀の為だ。

 しばらくの間は、リシュア達は墓荒らしを捕まえる為にこの街に滞在する事にしていた。


 ……まあ、さすがに昨日張り紙を見つけて、今日、捕まえられるって事は無いよな。

 リシュアがそんな事を考えている時だ。

 ラベンダーは地上へと降りてくる。


<何か怪しい動きを行っている人物を見つけたぞ。俺の探知魔法に引っ掛かった。どうやら、自分が風景と溶け込む魔法をしようして動いているらしい>


「おおっ。早速か。じゃあ、そこに案内してくれ」


<此処から反対側の方角だ。間に合わない>

 ラベンダーは淡々と述べる。


「ラベンダー。大きな竜の姿になって私達を乗せられないかしら?」

 ローゼリアが訊ねる。


<いいが。あまり人には見られたくないんだが>


「今夜は月も出ていない。城の周りを飛べば、何とかならないかしら?」


<分かった。そうしてみるか>


 ラベンダーは大地に着地する。

 そして、見る見るうちに巨大化していく。

<振り落とされるなよ>

 三名はラベンダーの背中にしがみつき、それぞれロープなどで身体を固定していた。だがみな、ラベンダーの背中には上手く乗れない。じゃんけんの結果、ローゼリアを置いていく事になった。


<行ってみるか>

 そう言って、ラベンダーははばたくが、スピードが出ない。やはり正反対の方角は遠い。これでは間に合わないだろう。

 ラベンダーは仕方無く、地面に着地する。


<駄目だ。次の日に行った方がいい。ローゼリアを拾って戻るぞ>


 リシュアとエシカも地面に降りて、くらくらと溜め息を付く。


「振り落とされそうな気がしました」

「……ああ。本当に無茶だったな」


<だが。手掛かりはあった。墓荒らしらしき連中を見つけた。これで僥倖だろ>


「ああ、うん。今日は酒場での聞き込みもあったしな。手掛かりが無かったわけじゃない。素直に帰ろう」

 今から向かっても、間に合わないだろう。

 リシュアは元々、何日もこの街に滞在する事に決めていたのだ。辛抱強く待つしかないだろう。



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