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不死鳥が訪れる街、アンダイイング 1


 馬車を降りて、城塞が見えてくる。

 此処は、随分と発展した都市だった。


『不死鳥が訪れる街、アンダイイング』に四名は辿り着いた。

 そこそこ大きな街で、不死鳥信仰として炎の鳥を象った壁画や彫像。土産店では小物などが売られている。不死鳥は別名フェニックスと呼ばれ、死した後も、何度も復活する霊鳥として崇められていた。

 街に来る際に、四名は息を飲んだのだった。

 街の周りには、街を覆うように墓地が作られており、今でも墓地は広がり続けていると聞く。この辺り一帯の街々で戦争によって亡くなった者達を鎮魂する存在としても機能しているみたいだった。


 ひとまず、旅の荷物が増えてきたので、魔法の道具を売っているショップへと向かった。この街は、魔法の道具を売る店としても有名な都市だった。


「この街で一番、大きな店に行けるといいんだけどな」

「それでしたら。『大魔法ショップ・銀の月』とかに向かうのは、いかがですか?」

 リシュアとローゼリアの二人は、街の地図を見ながら、何処から巡るか考えているみたいだった。ローゼリアは街の観光名所である、フェニックスが降り立ったとされる高台に行きたくて仕方無いみたいだった。


「取り合えず。街に来たら、宿の確保。そして今後の荷物をどうするか考えたいんだよな」

 リシュアは旅の疲れが隠せなかった。


「そう言えば、宿くらいは豪勢なものにしましょうよ。路銀には今の処、困っていないんでしょう?」

 ローゼリアが訊ねる。


「そうだな。たまには良い宿でも取るか」

 リシュアは頷いた。

 しばらくの処、旅の路銀には余裕がある。

 少しくらい贅沢しても良いんじゃないかと判断する。



 十階建てのホテルの最上階に泊まる事になった。

 ローゼリアは見える景色がとても素晴らしいと嬉しそうにはしゃいでいた。

 今宵の月は本当に美しかった。


 この場所からは、フェニックスが降り立ったとされる高台も見る事が出来た。


「この宿って、宿の中に大きな浴場とか、プールみたいなのがあるのですね」


<泳いでくるか?>

 エシカとラベンダーは楽しそうにしていた。


「水着という専用の衣装が必要なのですよね。そう言えば、私は海に行った事がありません。プールという場所は、海や湖を模した場所なのでしょうか?」


<塩水は使わないし。危険な生き物もいない。純粋に泳ぐ為の場所らしい。水着は売っているらしいが買っていくか?>

 ラベンダーがエシカに訊ねた。


「良ければ、リシュアとローゼリアも一緒にプールという場所で泳ぎませんか?」

 エシカははしゃいでいた。


「本当に元気だな。俺は旅の疲れを癒やしたいから、まず宿を取ったら、その日は温かいベッドで寝る事にしているんだ。泳ぐなら明日以降にしたいな」


「私も少しご遠慮させて戴きます。プールで泳ぐ為の水着というものは、素肌を大きく他人に晒すお召し物なのでしょう? 私はこれでも吸血鬼の淑女ですので。あまりそういうはしたないものは着れないものです。マナーというものがありますから」

 新鮮なものに興味を持つローゼリアも、珍しく断る。


「じゃあ。ラベンダー。私達二人で、プールという場所に行って泳いできましょうかっ!」

 エシカははしゃいでいた。

 海というものを見た事が無い故だろう。


<そうだな。俺達だけでプールに向かうか>

 ラベンダーも心なしか楽しそうだった。



「この水着というものは、少し恥ずかしいですね。肌の大部分をかなり露出させていて…………」

 エシカは少し恥ずかし気な表情をしていた。


<なんだ? リシュアに見て貰いたかったのか?>

 ラベンダーは鼻を鳴らす。


「そ、そんな事ないですよっ! あ、それにしても、下着姿みたいな格好なのに、フリルなんかも付いているんですねっ!」


<購買店を見てきたが、色々なデザインがあるんだな。お前はそれが気に入ったのか>


「わ、私の趣味というか。店員さんに勧められて……………」

 エシカは恥ずかしそうに笑う。

 エシカの着ている水着は、ブラジャーとパンティーのようなものに、大量にフリルがあしらわれているものだった。男達が見たらエシカの美しさと共に目を輝かせるだろう。だが、今はラベンダーしかいない。


 ……リシュアに見て欲しかったと思うと嘘になる。


 様々な魔法や科学技術によって、プールという場所は、彩色を施されていた。

 まるで、夜の海辺や夜の湖を模したように、壁に幻想的なプリズムの光が施されていた。幻影の立体像として、魚やクラゲ、イソギンチャクなどがプール内に現れては消えていった。


 エシカはプールの中で泳いでいた。

 水が緩やかに流れていく。

 ラベンダーは浮き輪というものを借りて、ぷかぷかとプールの水の上に浮かんでくつろいでいた。


 プールの窓からは夜景を見る事が出来た。

 窓には光るインテリアが貼り付けられており、光り輝く虹色をしたドラゴンや海蛇、無数の花々などが現れては消えていく。


 天井の方を見ると、数々の不死鳥が光源となって輝いていた。プール全体がプラネタリウムになっているみたいだった。


 プールの一角では記念撮影が出来る場所があった。

 エシカとラベンダーの二人は、色取り取りのネオンライトによる魚達を背景に写真を撮ったのだった。


 ……私の水着姿。後でリシュアに見て貰おう。彼はどんな反応をするのでしょう?

 エシカはほわほわとそんな事を考えていた。



 リシュアとローゼリアは別行動をしていた。

 一時間程、室内でくつろいだ後、ローゼリアは窓から見える燦々とした街並みの明かりを見ながら、二人で外に出ようという話になった。リシュアはエシカ達に対して外出の置手紙を残すと、ローゼリアと二人で外に出歩く事になった。時刻は九時を少し過ぎた処だった。


「この街は陰謀の香りがしますわね」

 ローゼリアははしゃぎながら言う。


「そうなのか?」

 リシュアは首を傾げる。


「華やかな大都会には、陰謀の香りが漂っているものなのですわ」


「まあ。一理あるかもしれないな」

 リシュアは適当にローゼリアと話を合わせる。

『大魔法ショップ・銀の月』は夜の10時半くらいまでは開いているらしい。もしかするとギリギリ間に合うかもしれない。リシュアは増えてきた荷物を収納する為の魔法のバッグを早めに買っておきたかった。何事も用事は早めに済ませた方が良いものだ。


 そういうわけで、二人は『大魔法ショップ・銀の月』へと辿り着いた。

 聞いていたよりも、かなり大きな場所で、そこは所謂、ショッピングモールと呼ばれる場所になっていた。二人は中へと入る。


 様々な魔法のショップが並んでいた。

 思わず、散財してしまいそうになる。


「取り合えず、他に必要なものは後で買って魔法のバッグだな」

 リシュアとローゼリアは目当ての魔法ショップに辿り着く。


 店員はでっぷりとしたいかにも商人風の人物だった。

 リシュアは魔法のバッグが欲しい事を告げる。


「それでしたら。旅のお供に、これなんていかがでしょうか?」

 店員は幾つかバッグを出していく。


 …………それなりに値段が高い。

 やはり、異空間にモノを収納する魔法が込められた道具というものは、それなりに値が張るものなのだろう。リシュアはしばらく悩んだ後、一番、持ち運びに適したものを購入する。


 路銀の多くを使ってしまった。

 バッグを買った後、店員から色々、進められるがリシュアは断る。

 今は四人旅だ。

 宿代、食事代、馬車代。その他、もろもろの旅をする上ではお金が掛かる。また何かで報酬を得なければならないだろう。


「リシュア。隣のお店では、何か張り紙がされていますわよ」

 ローゼリアは告げる。


 隣の店は、お香などのイノセンスを扱っている店だったが、店の前には張り紙が貼られていた。

 内容は最近、墓荒らしが多発している為に、墓荒らしを捕まえた者には報奨金が送られるというものだった。


「この依頼、受けてみるのがいいんじゃありませんか?」

 ローゼリアは興味津々といった顔をしていた。


「そうだな。そうするか」

 リシュアは財布の中身を見ながら、頭を抱えていた。

 ヒュペリオンのデルフォを通して、多く報酬を持っていたと思ったが、すぐに旅の路銀は減っていく。気付かないうちに散財する事が多いのだろう。

 張り紙のコピーは、複数枚、置かれていた。

 リシュアはその中の一枚を手にする。


 旅の路銀稼ぎにちょうど良いかもしれない。


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