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奇妙な植物園 2

「バッタって一体、なんなんだよ!?」

 リシュアは思わず叫んでいた。


 人間の倍程の体躯を持つ巨大昆虫が飛び回って、巨木に喰らい付いていた。リシュアは光の刃でそれらを薙ぎ倒していく。ローゼリアはウキウキとした表情で刃物を手にしながら、昆虫を斬り倒していた。


 沢山の虫の群れが群棲する場所だ。

 何体倒しても一向にキリがない。

 ラベンダーは稲妻を飛ばして、巨大なカマキリのような怪物を焼き払う。フードの言っていたバッタという怪物は、従来の意味でのバッタだけではないみたいだった。


 エシカはハチのような姿で飛び回る巨大昆虫を炎で焼いていった。

 やはり、虫は火に弱いみたいだった。

 生物というものは、純粋に炎に弱い。

 エシカの魔法が、一番、虫達を退治するのに効率的だった。


 数時間程して、四名は沢山の虫の屍を見つめていた。

 ハチのような姿のもいた。コオロギやスズムシみたいな姿の虫もいる。おそらく、この植物園全体に巣食っているのだろう。


「何体も倒したのは良いのですが。まだまだ向こうにいっぱいいますわ。そもそも、生態系を一つ破壊する事自体、とてつもなく難しい事だと思いますのよ。此処に植物がいるから、虫が住み着いている。虫の怪物達にとって、都合がよい場所になっているから、このように集まってきているのであって。今、此処にいる虫達を全滅させても、また何処からか現れますわよ」

 ローゼリアは、少し億劫そうな顔で吐き捨てた。


<そうだな。違いない。この依頼は断るか>

 ラベンダーも彼女の意見に同意したみたいだった。


「だとすると、果てしない徒労に終わったな。手間賃くらいは貰ってもいいと思うんだけどな」

 リシュアは疲れた顔で座り込む。


「うーん。植物の人達と、虫さんが共に暮らしていく事って出来ないんでしょうか?」

 エシカは何やら、呑気な事を言っていた。


 そういうわけで、虫退治は潔く諦める事になった。


 四人はあのフードという植物人の依頼を断って、素直に植物園の鑑賞に戻る事にした。



 水面の周りには、虹が無数に浮かんでいた。

 水晶のように突き出しているものは、樹木の幹らしかった。


 フードの住む神殿の周りは、美しい景観が溢れている。まるでこの世のものではない景色ばかりだ。


「そうか。虫を幾ら殺しても、虫は集まってくるか……」

 ローゼリアに諭されたフードは、腕を組みながら、うんうんと悩んでいるみたいだった。


「だから、解決策としては、貴方の方が此処を出ていくしかないと思っていますの。他の植物人達はどうお考えていらっしゃるのですか?」

 ローゼリアは訊ねる。


「他の者達は木々と擬態して、虫達は避けながら生きていくと言っている者達もいる。だが、虫の脅威に晒されて怯えて暮らしている者達もいる。俺はこの場所に住む植物人達の長老のような立場にいる。様々な種類の植物人達がいる為に、虫が喜んで食べようとする者達と、口にしようとしない者達で意見が分かれるのだろう。サボテンの植物人達は、虫達が嫌う血肉をしている。だが、俺のような植物人は、虫達が好んで食べるんだ」


 フードは悲しげに言う。


「ふーん。その違いは何なんですの?」

 ローゼリアは植物人達の生態に対して興味深そうにしていた。


「それは一体、何なのか分からない。分かれば良いんだが」

 フードは困り果てていた。

 完全に打つ手無しといった処なのだろうか。


「私が思うに、それは身体に備わった“毒”だと思いますの」

 ローゼリアは植物人達を興味深く分析しているみたいだった。


「虫に食べられないタイプは、身体から毒を分泌させているのだと思いますの。ですから、今日から、貴方も身体から毒を出すようにすれば、食べられなくて済むと思いますの」

 ローゼリアはムチャクチャな事を平然と言っていた。


「そんな、ぽんぽんと体質なんて変えられるものではないぞ……」

 フードはやはり落ち込んでいた。


「では、身体に毒を塗られてはいかがですか? 野生の獣の中には、毒によって外敵から身を守る生き物が沢山いらっしゃいます。フード様。今日から貴方もそうすれば良いのでは? 此処に毒草などは生息していませんか?」


「なるほど。確かに身体に毒を塗ってみてもいいかもしれない」

 そう言うと、フードはさっそく、毒を生成する植物のある場所へと向かったみたいだった。


「私に、感謝の証として、くださいましたわよ」

 ローゼリアは、美しい睡蓮を手にして、リシュアとエシカの二人に見せびらかす。

 彼女は八重歯を見せて、にっこりと微笑んでいた。


 神殿の周りの眺望を一通り、眺めて楽しんだリシュアはエシカの手を取る。


「じゃあ。この植物園からは、おさらばするか」

 リシュアが言うと、エシカも頷く。


 そして、四名は植物園を出る事になった。


 植物園の入り口で、巨大な怪鳥が現れる。

 怪鳥は何かをくちばしに挟んで、空を飛び回っていた。


「助けてくれーっ! 毒が生成される花の辺りは、この鳥の縄張りだったんだよーっ!」

 フードはくちばしに挟まれながら、助けを呼んでいた。


 ローゼリアは呆れた顔をしながら、空を飛んでいく鳥を眺めていた。

 ローゼリアは懐からナイフを取り出して、勢いよく鳥目掛けて刃を投げ付ける。鳥は簡単にローゼリアの飛ばしてきたナイフを叩き落としてしまった。


 巨大な鳥はフードを飲み込む。

 ごりごり、ばりばりと音が鳴り響いていた。

 ローゼリアは空を見上げながら、あんぐりと呆けたように口を開いていた。


「…………。大自然は弱肉強食なのですわね。この植物園では、それが分かりやすく広がっておりましたわね」

 ローゼリアは悲しむフリをしながら、手にした宝石のような睡蓮を大切に持ち歩いていた。


 リシュアはどっと疲れた顔をする。

 エシカはそんなリシュアを見て、くすくすと笑った。


「骨折り損のくたびれもうけですね!」

 エシカは笑う。


「ああ。もう本当に、疲れたな。宿に戻るか」

<しかし、此処の景色もまた素晴らしかったな>


 四名は互いに笑い合いながら、次に向かう目的の街である不死鳥の街を目指す事にしたのだった。

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