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奇妙な植物園 1

 ティアナと別れて、三人旅に戻った。

 道が舗装されていたので、馬車を使わずに三名でのんびり歩く事になった。といっても、荷物は多かったので、それなりに重く、後から後悔する事になった。


「やっぱり旅の先々で記念品を買ったりして、いらないものを増やしていくのはどうかと思うな」

 リシュアはげんなりした顔をする。

<後はすぐに使わない不用品を異空間に転送する魔法や、物を小さくする魔法などがあればいいんだがな>

 吸血鬼のアルデアルから譲り受けた装飾品や、ティアナから貰った御守りの石なども持ち歩いている。一つ一つは小さなものだが、かさばると仕方が無くなってしまう。

 ラベンダーも荷物持ちをやらされていたので、リシュアと同じようにげんなりした表情をしていた。


「やはり馬車に乗って旅をするべきでしたね」

 持たされる荷物の少ないエシカは気まずそうな顔でリシュアを見ていた。


 半日程、歩き通して、小さな村に辿り着いたのでやはり馬車を雇う事にした。そして、その村で宿を取る。今回は女はエシカ一人だけだった為に、旅の路銀を節約する為に独り部屋だけ借りる事になった。


「馬車の中で寝て過ごしていれば、嫌でも、お互いの寝相とか分かるもんな」

 リシュアは、はあっと溜め息を付く。

「私、そんな変な寝相していました!?」

 エシカは困惑する。


「あ、いや。男女で同じ場所に寝るのは、もう慣れ切っているって事だよ。ティアナとかだと、気まずいんだけどな」


 宿を取ると、三名は荷物を部屋の中に置く。

 旅の服も随分、汚れた。リシュアは宿屋の主人に洗濯を頼む事にした。路銀を払えば、色々な宿屋で旅人の荷物を洗ったり、時には修理したりしてくれる。


 一通り、洗濯物を任せた後、リシュアは丁寧にいつも身に付けている短刀の手入れをしていた。


「あらあら、何処かで見たと思ったら、やはり貴方達でしたの?」

 ピンクの髪をツインテールにした少女が現れる。

 吸血鬼アルデアルの妹である、吸血鬼ローゼリアだった。


「お前、俺達の事、尾行してきたの? 本当によく会うよな………………」

 リシュアはこの少女が少しだけ苦手だった。

 残酷趣味な部分を醸し出しており、気まぐれな処が面倒臭い。


「よければ、せっかくですから。この村から少し離れている“植物園”に、明日、一緒に行きません事?」

 ローゼリアは唐突に告げた。


「植物園って、どんな場所なんですか?」

 エシカが訊ねる。


「この村の近くには、植物の精霊のような者が住んでおり、その辺りは“植物園”と呼ばれているらしいですわ。この辺りの人間と精霊達で、縄張りのようなものを作って、どちら側も互いに干渉しないようにしているようですわね」


「へえ。植物の精霊ですか」

 エシカはいつものように無邪気に好奇心が湧き上がってきたみたいだった。


「ただ。精霊達は何か問題に悩まされているらしくて。それを解決出来る人間を探しているらしいですわ」

 ローゼリアは興味津々といった表情をしていた。


「そうか。面白そうだな。明日、行ってみる」

 リシュアは研いだ短刀から、自身の光の魔法を放つ。

 光が幾つも分裂して、辺りに照射されていく。

 魔法はイメージの世界だ。

 ヒドラという怪物の絵をイメージする事によって、リシュアは自身の魔法が成長出来た。



 四名で植物園へと向かった。


 そこは不思議な景観が広がっていた。

 砂漠地帯でも無いのに、サボテンが幾つも群棲している。四季に関係無く、春夏秋冬に咲く花々が咲いている。植物園の中に踏み込むと、不思議な香りがした。


「とても素敵な異空間ですわね」

 ローゼリアは楽しそうだった。

 真っ黒なゴシック・ドレスをはためかせて、ちゃきちゃきと刃物を動かしている。


「あんたら、この植物園に用事なのか?」

 サボテンの一体が四名に話し掛ける。


 話に聞いていた植物人なのだろう。


「ああ。この近くに人間の村があるだろう? そこでこの植物園の噂を耳にしてさ。此処は面白い場所だって聞かされて」


「そうか。危険もいっぱいだが、気を付けろよ。そう言えば、奥にいる“フード”っていう男が、困りごとがあるそうだ。あんたら、フードの悩みを聞いてやってくれないか?」

 そう言うと、サボテンの姿をした植物人はギターをかき鳴らしていた。

 不思議な音色だった。

 人間の指先では奏でられない音を出しているみたいだった。


 摩訶不思議な空間が広がっていた。

 水辺が広がっている。

 その上に、薔薇や曼殊沙華、向日葵など、本来は水辺に咲かない花が咲いている。他にも名も知らない水辺に花々が咲いている。


 植物園の一帯は、どうやら水辺に覆われているみたいだった。

 水の中には、花びらが鱗となっている魚が泳いでいる。背中から巨大な冬虫夏草のようなものを生やしたカエルもいた。


「此処で採取出来るものは、様々な薬効があるものばかりらしいですわ。万病に効く薬もあれば、中には、不老長寿の丸薬を作る為に必需品となる花の球根も取れるのだとか」

 ローゼリアは奇妙な形状のカエルを突っついて遊んでいた。


「不老長寿よりも、幾らでも荷物が入る魔法のバッグが欲しくて仕方ないよ。昨日、エシカと一緒に旅の想い出なんかも一斉に処分するべきかと悩んでいたからなあ」

 リシュアは溜め息を付く。


「それでしたら、此処から進んだ“不死鳥の街”に。魔法のバッグを作れる職人さんがいると聞いております」


「そうか。なら、少しでも旅を楽に出来るな」

 リシュアはエシカとはぐれないように、辺りの景色を見ていた。

 エシカは相変わらず、好奇心旺盛で、すぐにこの不思議な景色に見惚れていた。


 途中、小さな木で作られた神殿のような場所があった。

 神殿の中央には、一人の眼鼻が無く、口だけがある、植物人がいた。

 なんの植物が元になっているのか分からない。

 リシュアは彼に話し掛ける事にした。

 先ほどのサボテンの植物人が言っていた、フードという名の男らしかった。


「虫達に悩まされているんだ………………」

 フードは大きな溜め息を吐いた。

 彼の口の中は牙ばかりだった。

 もしかすると、食虫植物の植物人なのかもしれない。


「虫って?」

「昆虫達さ。バッタだな。バッタが、俺達を喰っていくんだ。俺達は奴らの餌ってわけさ。ああ、本当に毎日、怖くて仕方が無いよ」

 カタカタと、フードは、牙をうごめかせていた。


「そのバッタを退治すればいいんだな? 何か報酬は貰えないか?」

 言われて、フードは神殿の奥へと向かう。

 そして、何やら箱を取り出して、四名に見せた。

 それは、まるで氷細工のような、ダイアモンドのような睡蓮だった。


「これなんかどうだ? 不死の力を宿していると聞く。人間の間では高値で取引されているんじゃないか?」

 フードはささくれだった手から、美しい睡蓮を見せた。


「分かった。それで手を打とう。場所を教えてくれ。退治してやる」

 リシュアは快諾する。


 ローゼリアが楽しそうに、しゃきり、と、両手から刃物を取り出していた。




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