四名は『巨人の山脈』へと登っていた。
国家ヒュペリオンから少し離れた場所だ。
この山は激しい傾斜が多い為に、馬車で登る事が困難だった。代わりに石畳によって舗装されている。頂きに辿り着くまでには、半日掛かるらしい。降りるのも半日は掛かるという事だ。
結局、ヒュペリオンの王宮魔法使いであるデルフォの代わりに、別の王宮の要人達が現れて、うやうやしく四名に頼み事をした。
頼み事の内容は、ヒュペリオンの専属魔法使いにならなくてもいい、報酬は出すので、この国の付近にある『巨人の山脈』という場所に登り、頂きから見える景観を眺めて欲しいとの事だった。そして、可能ならば、いつか訪れるかもしれない難問に対処して欲しいのだと…………。
旅の路銀が出るとの事で、四名はその依頼を引き受ける事にした。
何よりも、デルフォという男に何度も付きまとわれるのは面倒臭いとの判断だった。
山頂への道は階段が敷かれているとはいえ、それなりに難儀した。
途中、何か所かロッジのように休める場所があって、四名はそこで何度か休憩する事になった。
そして山頂に辿り着く頃には夕方になっていた。
そこから見える景観は異様なものだった。
巨大な人間の上半身が岩となって、今にも何かをつかみそうに片手を上げている。岩となっている人間の表情は怒りの形相をしていた。岩となっている人間は二人いる。
<これが巨人か>
神話の世界の怪物だ。
それも二体いる。
今にも動き出しそうな様子だった。
デルフォの部下達の話によると、巨人は今も生きていて封印されているらしい。その時の為に備えて、一人でも多くの強力な王宮魔法使いが必要なのだと聞かされていた。
「ラベンダー。やはりあれは生きているのか? ただの岩の像ではなくて?」
リシュアは訊ねる。
<ああ。生きた怪物だ。何らかの魔法によって封印が施されているのだろう。それが何百年前なのか、何千年前なのかは分からないが>
「いつか封印が解けるかもしれないって事か」
リシュアは巨人達二体の石像を眺めていた。まるでその腕は雲に手を伸ばしているかのようだった。一体、何者がこの巨人達を封じ込め、そしてどのような魔法を使って封じる事に成功したのだろうか。巨人達が生きていた時代は一体、どんな世界だったのだろうか。それは何もかも、記録から抹消されているのだとデルフォの部下達は話していた。
「本当に俺達は、この世界の事を何も分からないな。街々を旅していて、本当にそう思う」
リシュアは地平線の向こうを眺めていた。
「占いの力を持つ私にさえ分かりません。何もかも分からない事ばかりです」
ティアナはリシュアに同意した。
「何も分からないからこそ、私達は旅をしているのだと思います」
エシカはそうまとめた。
「少なくとも、私はこの広い世界を沢山見て周りたいですから。色々な人々にも出会えましたし」
エシカは屈託のない笑顔を浮かべていた。
「そうだな。しかし、そろそろ、降りるとするか。しかし、また長い階段を降りるとなると憂鬱になるな」
リシュアは踵を返す。
エシカはしばらくの間、岩となった巨人達を眺めていた。
リシュアに声をかけられ、エシカも階段を降りる事にする。