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美術館の外に出ると、昨日、待ち伏せのように佇んでいた銀色のコートをまとった男が佇んでこちらを見ていた。
確かデルフォという名だったか。
やはり、この男は得体の知れない不気味な感じがした。
ティアナは彼の顔を一瞥すると、そそくさと無視するように歩みを進める。
リシュア達もそれにならった。
「何も無視する事無いじゃないですか。私は貴方達に興味があるというのに」
デルフォは薄ら笑いを浮かべていた。
「私は貴方に興味がありません。どうぞお帰りください」
ティアナは剣呑な口調で返す。
「そうですか。占い師さん。貴方は素性を隠して、故郷を捨てて、最近、大きな事件が起きた街で占い師をやっていますね。そちらの黒髪のお嬢さんは沢山、人を殺している。金髪のお兄さんは王族の者ですね」
デルフォは不気味に言い当てていた。
今度はリシュアが睨み付けた。
「それ以上、話すなら俺が許さないからな」
リシュアはあらん限りの怒りを向ける。
デルフォは落ち着いた顔で、嫌味ったらしく、にこにこと笑っていた。
「…………。みなさん、私に付いてきてください」
ティアナは走っていた。
ただ街中の占い師をしているだけだと思ったが、彼女は異常な程の脚力をしていた。リシュア達は、彼女に付いていくのがやっとだった。
「では。追いかけっこをしましょうか」
デルフォはそれだけ呟く。
しばらくして、森の木々に囲まれた人気のない公園に四名は辿り着いていた。
ティアナは立ち止る。
リシュアとエシカは勘付いて、此処で民間人を巻き込まずに迎撃する作戦なのだと分かった。
デルフォは余りにも当たり前のように、先回りして、公園の森の陰から現れた。
「お待ちしておりました」
彼は皮肉めいた口調で笑う。
「あの、貴方の目的を話していただけませんか?」
エシカは訊ねる。
「理由は単純です。我が国は優秀な兵士が不足している。素性を隠して、身を守る代わりに、貴方達三名は、この国の王宮の魔法使いになっていただけませんか?」
デルフォは不気味に微笑んでいた。
「この私は周りに素性をバラされても構わないのですよ?」
ティアナは告げる。
「貴方はそうでしょうね。沢山の旅の仲間をモンスター達の手によって失ったという理由ですから。貴方の預言も聞かずに死んでいった仲間の事はどう思いますか? もしかすると、旅の仲間達は貴方を信用していなかったのかもしれません。実に愚かな者達です」
デルフォはとんでもない、ティアナの過去を話していた。
「お黙りなさい。私はともかく、かつての仲間達の侮辱は許しませんっ!」
そう言うと、ティアナは隠し持っていた短刀を手にして、デルフォに向けていた。
「確かに、貴方の事情ならば。周りにバレて困る事も少ないでしょう。今はひっそりとイエローチャペルの街で、占い師をしているだけですから。しかし、そちらのお二人はどうなのでしょうね?」
銀色のコートの男は脅すように言った。
リシュアが前に出る。
「俺がこいつを蹴散らす。新しい魔法の使い方を思い付いたんだ。ちょうどいいさ」
リシュアは自らの短刀を引き抜いた。
デルフォとリシュアは睨み合う。
先に動いたのは、デルフォの方だった。
彼は何処からともなく杖を取り出して、氷の魔法を放った。辺り一面が凍り付いていく。周りが吹雪によって襲われる。
リシュアは短刀で近接戦を持ちかけようとして………………。
背後に飛んだ。
短刀の先から、光の刃が生まれる。光の刃はデルフォへと伸びていった。
「貴方の光の魔法は今、見切りましたっ!」
「どうかな」
光の刃が、分裂していく。
まるで多頭のヘビのように、ヒドラのように、リシュアが放った光の魔法は複数に光の刃が枝分かれして、ヘビのように空中をねじ曲がりながら、のたうち回っていく。それらは見事に、無数の頭部のようになった光の刃が、デルフォの身体に命中していく。
デルフォは深手を負ったのか、地面に倒れる。
「どうやら、私の負けみたいですね。素晴らしい力だ。やはり、是非、私の国の王宮魔法使いになって戴きたいものだ」
デルフォは肩の辺りに出来た傷を抑えていた。
「あんた、本当になんなんだよ」
リシュアは短刀をしまう。
「あくまで、この国を守る。王宮魔法使いです。託宣者(オラクル)もしているね」
デルフォはそれだけ告げた。
「今日の処は諦めるよ。でも、いつか私達の国を守る為に働いて欲しいものだ。今日は去らせて貰う」
そう言うと、デルファは風の魔法を全身にまとい、いずこへと飛んでいってしまった。
「やりましたね! リシュア!」
エシカは思わず、リシュアを抱き締める。
リシュアは照れ臭そうに笑った。
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