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街の西の方に大きな教会があった。
教会の近くには、容疑者の一人であるジェスターが行っている写真屋がある。
「そう言えば、どうやって犯人かどうか確かめるんだ? まさか尋問でもするつもりか?」
リシュアはエシカに訊ねる。
「えっ………………。確かにそうですね……」
<まあ、エシカはほわほわとしていて、余計な事に首を突っ込みたい感じがするからな>
「なんですか。ラベンダー。ほわほわって」
エシカはちょっと怒ったような顔をする。
<まあいい。色々と手はある。容疑者にひとまず話し掛けてみよう>
教会の前に辿り着く。
シャイン・ブリッジの小さな教会とは違い、大きな教会だった。
三名は教会の中へと入っていく。
見たところ、写真に写っているエレヴァという修道女はいないみたいだった。リシュアは修道女の一人に話し掛けて、エレヴァという女性がいないか訊ねてみる。
「エレヴァでしたら。もしかすると、今日は外にいるかもしれません」
修道女は部外者であるリシュア達を警戒した顔で、それだけ答えた。
「そうか。ありがとう」
リシュア達は教会の外へと出る。
警察関係者でないリシュア達は、捜査を引っ掻き回している事をしている可能性がある。この事件は低俗なジャーナリスト関係者が新聞記事に載せる為に動いているとも警察の資料には載っていた。容疑者達から警戒されて当然だろう。
「じゃあ。そういう事でエシカ。この事件にはもう関わらないという事にしたいんだけど。一応、写真屋の方にも行くとするか」
リシュアは少し億劫な顔をしていた。
「そうですね。警察の方々にご迷惑をお掛けするわけにはいきませんし…………」
一応、三人で教会近くの写真屋の方に向かった。
写真屋の中に入ると、修道女の女が写真屋と何か話していた。
エレヴァとジェスターだった。
「あら。こんにちは」
エシカは思わず、二人に声を掛けた。
「あんた達は何者だい?」
写真屋のジェスター。ワシ鼻が特徴の男だった。彼は胡散臭げに三名を見る。
「ええっと。俺達は旅のものでさ。この街に来た記念に、三人で記念写真を取りに来た。頼めるかな?」
リシュアは咄嗟にそんな事を言い出す。
「ふうん。三十分待ちだよ。いいかい?」
ジェスターは特に機嫌を損ねたり、それ以上、三人を何か疑うような眼を向けなかった。
吸血鬼達の領主の依頼の時とは違い、今、エシカ達がやっている事はあくまで探偵ごっこのおままごとだ。変な正義感で首を突っ込んではならない。だがエシカはそれを理解していない節がある。
リシュアは待合室の椅子に座りながら、修道女の顔を見る。
「あんたは、今日は修道院にいなくていいのかい? その、俺の住んでいる街では、修道女は職務の時間内は修道院にいるのが普通なんだけど」
リシュアは、この街の事情が分かっていない旅人であるという事を強調しながら修道女の眼を見つめる。
「ああ。教会の写真をジェスターさんに撮影して戴こうと、伺っていた処なんです」
エレヴァは特に質問に対して、気分を害した様子はなく、屈託の無い笑みで答えた。
「教会の写真?」
リシュアは少し興味を持って訊ねる。
「この街の教会は大きいでしょう? 観光名所になっているんです。貴方達は観光客さん
く載ったパンフレットをみなに配布したいんですよね」
「へぇー。それは凄い仕事だな」
「ありがとう御座います! よければ無料で聖典も差し上げております。お読みになりますか?」
「んん。故郷で沢山、教育の一環として読まされたよ。内容を暗唱する事も出来たかな」
「それはとても良い事です。貴方は信心深いんですか?」
「どうだろうな。神はいるかどうか分からないけど、運命のようなものは信じているよ」
「運命ですか。それは素敵な事です。全ては神様の思し召しですから」
エレヴァという女性は、修道女らしく礼儀正しい女性だった。
ブロンドの髪はうねっており、美しい顔立ちをしていた。
リシュアはエシカにアイコンタクトを取る。
このエレヴァという女性も白なんじゃないかと。
三十分程、経過して、ジェスターが記念撮影の為の部屋に案内する。背景も布で決める事が出来るらしい。リシュアはせっかくという事なので、この街、イエローチャペルの教会の写真を背景に出来ないかと問うた。
「お客さん、お目が高いね!」
ジェスターは商売口調で嬉しそうな顔をしながら、壁に貼る布を持ってきた。そこには先ほど見かけたイエローチャペルの巨大な教会の写真が描かれていた。
エシカとリシュア。そして真ん中に挟まる形で記念撮影を取る。
ジェスターは丁寧に何枚も三名を撮影していく。
そして記念撮影は終わった。
ジェスターは見事な写真の腕前だった。少しセピア色に映った三名の写真はとても小綺麗に映っていた。
「旅の想い出になるな。ありがとう、ジェスターさん」
リシュアはお礼を言い、代金を支払う。
「いえいえ。この街、イエローチャペルを楽しんでいってくださいっ!」
そう言って、ジェスターはにっこりと微笑んだ。
そして三名は店を出る。
しばらくして、ラベンダーが街中で呟く。
<あのジェスターって男が切り裂き魔だ>
ラベンダーは淡々と告げた。
「えっ?」
エシカは困惑した顔をする。
<記念撮影の部屋の床をさりげなく調べたが、地下室へと続く隠し通路へ行ける切れ目があった。そして地下室から人間の血の匂いがした。よっぽど特別な事情でもない限り、あの店の地下室で人間を解体している>
ラベンダーの観察力、洞察力に二人は驚愕する。
「そうなんですか………………」
<まあ、あくまで可能性が高いだけだ。特別な事情の場合もある。早計で動くのは止めた方がいいけどな>
「特別な事情って……?」
<たとえば。変な性癖を持っていて、自分で自分を鞭打ったり、自傷をする奴もいるだろう。俺はよく分からないが、そんな人種もいるって事だ>
ラベンダーの言い草に、エシカとリシュアは思わず苦笑した。
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