<お前らの指導者として道案内をしてやれと言われた。まったく面倒臭い事だ>
ラベンダーはグチグチと呟く。店の外から少し離れた場所で、三人で屋台で買ったアイスを食べている処だった。
「なんだか、お前、いつもそんな感じじゃねーか。いつも頼りにしてるよっ!」
リシュアは嬉しそうに言う。
そしてラズベリー味のアイスを口にする。
「私は怖くて、結局、占う事が出来ませんでした…………。なんだか、あの女性には、私の全てを見透かされているような気がして…………」
エシカはイチゴ味のアイスを口にしながら言う。
「実際、凄腕の占い師なんだろうな。もしかすると、未来を予知出来る力もあるかもしれない」
リシュアのティアナに対する評価は高いみたいだった。
<話術だけの可能性もある。俺にはあの女が優れた魔法使いには見えなかったがな。もっとも人を見る洞察力は極めて高いみたいだが>
ラベンダーはミント味のアイスをガツガツ食べていた。
「なんにしても、結局、切り裂き魔のお話が出来ませんでしたね。改めてお聞きしますが、彼女は容疑者の一人なのですよね?」
エシカはラベンダーに訊ねる。
<お前ら。あの女が気に入ったか?>
ラベンダーは何か含むように二人に訊ねる。
「どういう事だ?」
<あの女は事件の容疑者だ。資料をちゃんと見たか? 事件現場に頻繁にいる。八回の事件全てだ。それに彼女にはアリバイが無い。もしかしたら、俺達はあまり深入りしない方がいいのかもしれないぞ>
ラベンダーは不穏な事を言い出す。
つまり彼はティアナが切り裂き魔の可能性は充分にあると言っているのだ。
リシュアとエシカは反発の声を上げそうになる。
だが、ラベンダーはいつも、物事に対して核心をつかむような話をする。
……もし事件に深入りするのなら、ティアナを断罪しないといけないかもしれない。
<何にしろ、俺達のやっている事は探偵ごっこみたいなものだ。犯人を突き止めて警察に突き出す。そして処罰して貰う。八人も殺害したんだ。なら当然、死罪だろうな。お前らがあの女を気に入ったのならば、これ以上深入りするべきではないな。あの教会の神父もとても良い人間に見えていたみたいじゃないか>
ラベンダーは少し皮肉交じりな事を言い出す。
神父フェザー。
彼は善良な市民に化けて、沢山の人間達を喰っていた。
そして教会は狼男の巣窟だった。
確かに今回の件はシャイン・ブリッジの件と似ている。
エシカは少し混乱した顔をしていた。
「俺はあくまで旅自体を楽しみたいからさ。問題はエシカがどうしたいかなんだよな。なあ、エシカ。お前は誰かを助けたいんだろう? どうしたいんだ?」
言われてエシカは考え込む。
「私は………………」
「どうしたい?」
「困っている人を、助けたいんです。沢山、人が殺されれば、被害者の遺族が苦しみます。なら、この事件の犯人を突き止めたいですっ!」
「それは正義感からか?」
リシュアは首を傾げる。
「そうですね。正義感とはちょっと違うのかもしれません………………」
「まあいいさ。一度、宿に戻ろう。この街ではゆっくりしたい。もし、九人目の新たな犠牲者が出たとしても、俺達の責任じゃないからな。あくまでこの街の警察の責任だ。エシカ、それはちゃんと理解しろな?」
リシュアはエシカの気持ちを汲んで、念を押す。
三人は宿まで戻る。
そして、書類と容疑者の写真を眺めながら、色々と話し合っていた。
「そもそも、探偵ごっこ以前に、俺らには何を根拠に容疑者が犯人なのか特定する術が無いんだけどな」
リシュアは少しドライな口調になる。本当にその通りなのだ。凶悪事件が起きれば、その街の警察に任せればいい。その方針は変わっていない。
「そうですね、本当にその通りです。私達が介入する事によって、捜査を引っ掻き回す事になりませんし…………」
エシカはその事をしっかりと理解していたみたいだった。
「じゃあ。こうしよう。あと一人だけ。警察が絞った容疑者の中から、あと一人だけ会いに行ってみよう。それでこの事件にはこれ以上、首を突っ込まない。それでいいか?」
エシカは写真を見る。
修道女であるエレヴァ。被害者の女性複数名と友人関係がある。また八件の事件のアリバイが無い。
写真屋のジェスター。彼は以前、外科医をしており、仕事で大きなミスを起こして医者を辞めた。被害者八名は彼の写真屋を利用した事があるし、以前の患者だった者もいる。
修道院とジェスターの写真屋は近かった。
「此処に向かいましょう! 此処に!」
エシカはエレヴァという女とジェスターという男の写真を指差す。
「容疑者を、まるで観光名所みたいに言うなよな。確かに場所的にも、二人一緒に見に行く事が出来そうだな」
リシュアは笑う。
「では、さっそく向かいましょう!」
エシカは無邪気に笑った。