朝まで開いている居酒屋に入り、二人は料理を口にする。
この街では肉にハーブを煮込んだ料理が盛んだった。
肉料理を頼むと、鶏の出汁をきかせた豆のスープも付いてきた。
リシュアは肉を綺麗にナイフで切り分けていく。
「テーブルマナーを見ていると、リシュアって、やっぱり王子様なんだなって思い出します!」
エシカは屈託の無い笑みを浮かべる。
「そういうエシカこそ、品の良さが食事の時に見についているぜ。ローゼリアの事、想い出せよ。あいつ、領主の妹にも関わらず、ガツガツ、ご飯を喰っていたなあ」
ローゼリア。
無邪気で残酷な吸血鬼の少女。
彼女の事を想い出して、二人は笑い合う。
またアルデアルの城に寄った時に会って話してもいい。また付いてこられると、少し面倒臭いだけだが。
食事を終えて、時刻を見ると、夜中の一時を過ぎていた。
そろそろ、宿に戻ろうかと思う。
明日の予定は無いが、この街にしばらく滞在するのもいい。王宮魔法使いの追っ手達は、ノヴァリーの力によって行く先の道を封じられているとアルデアルから聞かされている。ノヴァリーやアルデアルからの依頼の仕事をこなした為に充分な旅の路銀もある。なら、もう少し、この平和な人間の街で過ごしてもいいのではないか。
二人はそんな事を考えていると、居酒屋にいた酔っ払いの何名かが奇妙な話をしていた。
「…………また、切り裂き魔が出たってよ」
「今回で何人目だ?」
「十人はとっくに超えているって聞いてるぜ」
「怖い話だね。女性ばかり狙っているそうだ」
「死体が本当に酷い状態だそうだ」
「本当に嫌だな。うちの娘が狙われないか心配だ」
リシュアとエシカは、聞き耳を立てながらシャイン・ブリッジの狼男事件の事を想い出す。どうやら、このイエローチャペルという街でも似たような事件が起こっているらしい。
「どうする? エシカ」
「手掛かりがまるでありません。それに、シャイン・ブリッジでは、たまたま教会に立ち寄った為に、狼男フェザー達と会う事が出来ました」
「俺はこの街の事件は放っておいてもいいと思うんだけど、エシカは違うんだよな?」
「はい…………。私は、立ち寄った街で人々の役に立ちたいですから」
「そうか。じゃあ。明日、切り裂き魔の話をこの街の住民達から聞いていこう。それからだな。今夜は帰ろうか」
「そうですね。もう遅い時間ですから」
そう言いながら、エシカは大あくびをした。
宿に戻ってみると、ラベンダーがすやすやと毛布に包まりながら眠っていた。
本当に、このブルードラゴンは何処までも気まぐれだなと二人は思った。