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第一章 星明りの街、シャイン・ブリッジ。 6

 狼男退治をした謝礼としてリシュアとエシカは街の者達から路銀を貰った。


「もう行くのかい? 兄ちゃん、嬢ちゃん!」

 街の衛兵達は二人に訊ねる。


「俺達は世界中を旅したいからさ。まあ、もしかしたら、またこの街にも寄るよ!」


「そしたら、たらふくご馳走してやるからなっ!」

 街の者達は二人の英雄を称えていた。


 結局、シャイン・ブリッジの者達は、リシュアの素性もエシカの素性も深く追求しなかった。もしかすると二人の素性に気付いた者もいたかもしれない。

 けれども、間違いなく二人はこの街にとっての英雄だった。

 ただ、その事実だけで充分だった。


「俺の使える光の魔法は、闇の怪物達相手に戦えるんだ」

「まさか、リシュアがこんなに強いとは思いませんでしたよ」

 エシカは笑う。

 リシュアも笑った。


二人は死体安置所にいた。


今回は衛兵は二人を快く通してくれた。


死体安置所の一室には狼男達、フェザー達の死体が無造作に置かれていた。


個体差によって違いがあるのだろうか。

死んだ後、狼男の姿のままの者もいれば人間の姿に戻っている者もいた。


神父フェザーは人間の姿に戻っていた。


エシカは街の公園に咲いていた色取り取りの花々で花冠を作り、フェザーの亡骸の頭に被せた。


……貴方達は私の鏡だから。私がもっと強くなれたら、貴方達が人間と和解出来るように頑張る。


エシカは静かに手を合わせる。


「数日間の間だけど。世話になったな」


リシュアもフェザーに告げる。

何処か安らかな顔をしているように見えた。


「聖女として生きるのは大変だな。人間も魔物も救いたいって。無理難題を目指すなんて」


リシュアはふうっ、と溜め息を付いた。


「それが私の選んだ贖罪だから………………」


死体安置所から出ていく二人を、衛兵達は手を振って見送っていた。


二人は間違いなく、この街の英雄だった。


 そして二人は街の者達に盛大に見送られ、街の外に出た。


 途中、何処かに行っていたのか、ブルー・ドラゴンのラベンダーが合流する。このドラゴンはまるで気まぐれな猫のようだな、とエシカは思った。


二人と一体は北を目指す事にした。

 遥か北に。

 王宮の者達からの追っ手が逃げ続ける為に。



 青い花が風で揺れていた。

ラベンダーの花畑が一面に城塞の周りに咲いていた。

 城内では、沢山の人々が会議室に集まっていた。


「これより我が国、ヘリアンサスの第三王子である、リシュア・ヴラド・ヘリオスの捜索隊を結成します!」

 王族直属護衛隊・王宮魔法使いのアークメイジであるウィンド・ロードは、捜索隊を結成する事にした。中には騎士団のメンバーや下位の王宮魔法使い、傭兵として雇われた者など様々な面子が存在する。


「俺は馬鹿な弟の捜索隊に加わるつもりは無いぞ」

 現れたのは、赤髪をした精悍な顔の甲冑に身を包んだ美男子。

 ルーディア・ヴラド・ヘリオス。

 騎士団の団長も務めているこの国の第一王子だった。

 彼は腕組みをしながら、苦い顔をしていた。


「ルーディア様。リシュア様は災厄の魔女を連れている。そして、正体不明の狂暴なブルー・ドラゴンと共にいます!」


「リシュアの面倒を見るのはお前の仕事だろう? ウィンド君主ロードの名も地に堕ちたものだ。ドラゴンや魔女ごときに遅れを取るなど。恥を知れよ」

 ルーディアは辛辣な顔でアークメイジを嗜める。


「しかし…………。闇の森の封印柱が破壊され、魔女が解放されてしまったっ! 王宮総出の精鋭で魔女を始末するべきだと思いますが?」


「俺は魔女の時代に生きていない。生まれてもいない。当然、リシュアもそうだ。ウィンド・ロード。お前は生きていたらしいな。俺は魔女の事よりも、ヘリアンサスの政治の未来の方を憂いている。民は増税に苦しみ、増税を無くす資源も不足している。国内の政治情勢の問題で手いっぱいだ。お前が責任を取れ、アークメイジ」

 そう言うと、ルーディアは不機嫌そうに会議室を出ていった。


「僕も失礼するよ。待たせている恋人達が沢山いるからね」

 そう言うと、部屋の隅にいた第二王子であるサレシア・ヴラド・ヘリオスも長い透き通った金髪を靡かせながら、部屋を出ていった。


「おふたがた共、魔女の恐ろしさを知らないのかっ! 弟君の安否が心配では無いのか!?」

 ウィンド・ロードは露骨に怒りをにじませて叫び声を上げる。


 そして会議は短い時間で終わり、結成された捜索隊はリシュアとエシカの二人を探す事になった。



魔女・エシカ・ブラッディ。


ヘリアンサス国の王族の血族から生まれた魔女。

ヘリアンサス国だけでなく、多数の国を不幸にした女。


数十年前に。

不老不死の身体になり、あらゆる闇の魔法。死霊術によって沢山の人間を殺した。

当時の多くの選りすぐりの魔法使い達が彼女を闇の森に封印し、そして自ら封印を解いて出てこないようにその記憶を封じ込めた。


不死の身体を持つ魔女に対しては、封印する事しか出来なかった。


記憶を封じ込められた魔女は、まるで純粋無垢な赤子のような性格になった。

だが、当時を生きる者達は魔女の恐ろしさを忘れていない。


いつかまた、魔女の記憶が戻る事があれば、また新たに魔女は多くの人間を殺し、不幸にするだろう。


それだけは絶対に止めなければならない。


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