次の日の事だった。
街の大きな橋の下。
沢山の人が集まっていた。
リシュアとエシカは人々に駆け寄って話を聞く事にした。
「何があったんだ?」
リシュアが人々に訊ねた。
「狼男が出たんだよ! 大工のロジルが喰い殺されたっ!」
老年の男が大声で叫んだ。
橋の下には大きな毛布が被せられていた。
リシュアは毛布をはぎ取る。
すると、全身を激しく喰い荒らされた男の上半身を見る事になった。
顔面の大部分は原型を留めていなかったが、確か昨日、レストランで昼間から酒を飲んでいた男の一人だ。顔見知りの死体を見るのは、とても気分が悪くなるものだった。
リシュアは慌てて毛布を被せる。
「すまん」
リシュアは手を合わせた。
「もうすぐ衛兵が来て死体安置所にロジルを連れていく筈だ。……可哀想に。今年、女房が新しく子を産んだってのによ」
人々はしんみりとした顔をしていた。
しばらくして衛兵達が現れて、毛布ごと死体を運んでいった。
リシュアはエシカを路地裏まで連れていった後に囁くように言う。
「なあ。せっかくだから、俺達でこの事件を解決しないか?」
リシュアはそんな事を言い出す。
「私達で、ですか…………?」
「ああ。なんだろ。教会の人達には世話になっているし。せっかくだしな。それにエシカ、お前、夜うなされていただろ?」
「はい………………」
「お前さ。“災厄の魔女”として、数十年前、俺の国の者達を沢山、殺して。他の沢山の国の人間も不幸にしたんだよな?」
「はい…………」
「だからさ。償いがしたいんだろ?」
リシュアは優しく笑う。
エシカは瞳から涙を零した。
「はい………………」
「だから、償いの旅をしよう。エシカ、お前は沢山の人間を助けるんだ。これからは聖女として生きるんだ。魔女ではなくな。俺、お前の償いの旅、手伝ってやるからさ」
そう言って、リシュアはエシカの頭を優しく撫でた。
エシカは思わず、リシュアに抱き付く。
優しいぬくもりがした。
†
二人は事件解決の為に動く事にした。
この街の狼男の話。
事件の詳細を一つ一つ追っていけば、きっと辿り着けるだろう。
エシカは様々な魔法を使える。その魔法を上手く活用すれば狼男に辿り着けるだろう。
二人は死体安置所に向かう事にした。
エシカの使える魔法の一つには、死者の記憶を読み取る魔法があった。
そこで亡くなった大工のロジルから記憶を引き出せるかもしれない。
死体安置所には衛兵達がいた。
エシカは手をかざして催眠魔法を放つ。
魔法に耐性の無い衛兵達は、うとうととした顔をして、次々と眠っていった。
リシュアは衛兵の懐から鍵を取り出すと、部屋の扉を開ける。
中からは酷い異臭がした。
「さすがにキツいな。エシカ、いけるか?」
「はいっ!」
闇の森のアンデッド達の臭いを日常的に嗅いでいたエシカにとっては、死体安置所の臭いは日常の出来事だった。彼女はロジルの死体が置かれている台を見つけると、布を取り、ロジルの死体の頭部に手をかざす。
エシカの中にロジルが死ぬ間際に見た情報が流れ込んでくる。
白い聖職者の服装を見に付けた男。
聖職者の服を脱いで、毛むくじゃらの狼男に変身していく。
月の光が綺麗な夜だった。
そうして、ロジルは生きながら喰い殺された。
「リシュア…………。犯人は、教会にいます。貴方にも、私が視た記憶を見せる事が出来ますっ!」
「分かった。宜しく頼む」
エシカはリシュアの額に、手を当てた。
リシュアの頭の中に、死体となった者が見た記憶が流れ込んでいく。
リシュアは事件の真相を知って息を飲んだ。
「一応。他の者達の記憶も視てみますか?」
「ああ。是非、そうしてくれ」
部屋中には狼男によって喰い殺された十名以上の死体が台に乗せられて横たわっていた。部屋全体に腐敗を遅らせる魔法が掛けられているみたいだが、それでも臭いは強烈だった。犠牲者は間違いなく、部屋にいる者達も多く、腐敗が進み過ぎた者達はとっくに埋葬されているのだろう。
†