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第六話 漫画みたいなボクの日常(6/6)


ポカンとするボクを置いて、内藤君は亮介に「帰るぞ」と声をかけにいった。

清音さんもいつの間に下ろしていたのか、隅にあったランドセルを背負い直して……ん? もう一度下ろした。ガパッと蓋を開けると、ポケットの部分から何か取り出して、ボクのところに駆けて来る。

「これ」

手紙を差し出されて、ボクは慌てて受け取った。

今日は三回も、清音さんからボク宛の言葉を聞いてしまった。

すごく嬉しくて、緩みそうな頬を引き締めるのが大変だ。

「ありがとう。帰ったら読むね」

普段はメモをそのまま見せてくる清音さんが、わざわざ手紙にするってことは後から読んだほうがいいのかなと思ったんだけど、清音さんは首を振った。

「え? 今読んだらいいの?」

コクコクと頷かれて、ボクは畳まれていたその紙を開いた。

そこには丁寧な字で、清音さんがボクの喉の調子を心配していることや、原因は自分が大声で歌わせたせいだと思うこと、一刻も早く病院に行け、ということが書かれていた。

「ふふっ」

ボクは思わず笑ってしまった。

だって、最初はいかにも反省してるようなしおらしい文章なのに、最後は『こんなに長いこと声が枯れてるのに、佐々田君はなんでさっさと病院に行かないのか本当にわからない。声が出なくなったらどうするの!? とにかくこの手紙を読んだら、すぐ病院に行くように!!』と命令してきてるんだもん。

「清音さんらしいなぁ」

苦笑しながら清音さんを見れば、ぷくっとほっぺを膨らませて不服であることを伝えていた。

何それ。可愛すぎるんですけど。

頬袋がいっぱいのリスにしか見えないんですけど。

ボクは笑いがおさえきれなくて、くすくす笑い続けてしまう。

早く、清音さんの誤解を解かないとなんだけど……。


そこへ、パタパタとスリッパの音を響かせて保健の先生が来る。

「佐々田君、動けそう? もうすぐお家の人が来るわよ」

ボクはなんとか息を整えて「はい、大丈夫です」と答えた。

「じゃあ一緒に移動しましょうか」という保健の先生に続くようにして、皆が一斉に歩き出した。


そっか、今日はボクだけ皆と一緒に帰れないのか。

そう思うとなんだかちょっと寂しい気がする。


笑いすぎて滲んだ涙を指で拭うと、清音さんがじとっとこっちを見ていた。

「ごめんごめん。清音さんがあんまり可愛いから、ツボに入っちゃったよ」

小さい声でそっと囁くと、清音さんの背景にポンと湯気が出た。

でも実際の表情は、ほんの少しびっくりしたかしないかくらいで、こんなギャップも可愛いなとボクは思う。


「あのね、ボクは今、声変わりの最中なんだ。だから、時々咳をすることもあるけど心配しなくていいよ」


ボクの言葉に、清音さんは『!』を出した。

どうやらそんなことは考えもしなかったようだ。

それから、怒ったような背景になって、最後にホッと安心したような空気に包まれた。

「そっか……よかった……」

そう呟いて清音さんがふわりと微笑む。


夕陽に照らされたその笑顔は、ボクが今まで見た中で最高に可愛い清音さんだった。



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