「あー……ほら、もう終わったとこだから、ね?」
米倉さんは、阿部君に可愛く笑顔を見せると、ボクたちを振り返った。
すると亮介が米倉さんにノートを見せて言う。
「読み合わせしよーぜ」
「じゃあ行ってこよっかな」
米倉さんはいそいそと発表文の読み合わせに参加した。
はぁ……。
本番は先生が内藤君のノートのコピーを二人に持たせてくれるはずだし、とりあえず、これでなんとかなるかな……。
ボクはようやくホッと息を吐く。それにしても先生遅いなぁ。
「俺も手伝えることがあるかな? あんま絵も字も得意じゃないんだけどさ」
と、阿部君がボクに声をかけてくる。
「阿部君、さっきはありがとう」
ボクが小さい声で言うと、阿部君はニッと笑って「ああいう態度はよくないよな」とボクの耳元で小さく言った。
うわ…………。なんか、阿部君って大人だなぁ……。
でも手伝ってもらうことって何かあるかな。用紙はもう完成間際だし……、あ。そっか。本番で紙を持つ人が必要だよね。
少なくとも三枚は同時に出すところがあるから。
ボクたちの班の発表は外国語の次だし、できれば少し離れた順番の人にしてもらいたい。
その点阿部君の班は一番最初の発表だからちょうどいいね。
ボクが阿部君にお手伝いを頼むと、先生がバタバタと戻ってきた。
「遅くなってごめんーっ。こんな時に限ってコピー機が詰まるんだから、もう!」
先生はコピーしてきた紙を亮介と米倉さんに手渡しながら言う。
「皆ー、自分の班の持ち物を班の全員で確認して、班ごとに廊下に並んでー。発表順にね。忘れ物がないようによく確認してねー?」
先生はすっかり完成した外国語の発表の用紙を確認して、目を丸くした。
「すごいわ! 三十分も無かったのに、前よりずっと素敵じゃない!」
マジックや新聞を片付けようとするボクたちに、先生は「片付けは帰ってからにしましょう」と声をかけて廊下に出る。
ボクたちは自分の班の持ち物を全員で確認すると、列の最後に並んだ。
松本さんが水の入ったペットボトルと筆洗いバケツを何度も確認しながら「あああ急に緊張してきた!」と言う。
「最後なのに、もう緊張しちゃうの?」
川谷さんが言うと、清音さんもコクコクと同意する。
「ららちゃんが緊張しなすぎるんだよぅ」
松本さんが言って、ボクたちは小さく笑った。
そう、ボクたちの班は一番最後……いわゆるトリなんだよね。
そう思うと、ボクもなんだか緊張してきた。
「行くわよー」
先生の声を合図に、ボクたちは歩きだした。
***
「はぁー……終わったぁ……」
亮介から魂が抜けていくのが見える。
もちろんこれは漫画的な表現で、本当に魂が抜けてる訳じゃないけどね。
学習発表会はほんの一時間だ。
三時間目の始まりには、ボクたちは教室にまた戻ってきた。
あ。そうだ。片付けが残ってた。
教室の後ろには、広げたままの新聞紙と散らばったマジックが転がっていた。
ボクはパタパタと発表に使った自分たちの荷物を片付けて、振り返る。
すると今度はさっき手伝ってくれた人たちとはまた違う人が、マジックと新聞紙を片付けてくれていた。
「この教科書、三人の机に戻したらいいかな?」
あ。そうだ。三人の教科書も出しっぱなしだった。
「うん、ありがとうっ」
あとの二人にも「片付け手伝ってくれてありがとう。とっても助かったよ!」とお礼を言う。
二人はそれぞれ、ちょっと恥ずかしそうに「こんくらい、いいよ」とか「佐々田もお疲れ」と声をかけてくれた。
皆、本当に優しいなぁ。
小学校の最後にこのクラスになれてよかった。
ボクはジーンと熱いものが広がる胸を押さえて席についた。