それからボクたちは、毎日四人で帰っていた。
とはいえ通学路で四人が横一列になるのは難しいので、ボクの隣に清音さん、ボクの前に内藤君。そしてボクの後ろに亮介という布陣になっている。
「しかし浅野君の班は学習発表会の準備は間に合うのか? もう来週だぞ」
ボクの前から内藤君が後ろを振り返るようにして言った。
それはボクも心配だけど、なんだか聞き辛かったんだよね。
亮介たちの班は今日の全体の通し練習でも「まだできてません」と答えて先生にも「どこまで進んでるの?」と心配されていたし、結局通し練習は外国語は飛ばされて終わった。
「あー……それな。なんつーか、俺ノータッチで全然わかんねーんだよな」
亮介いわく、あれから亮介の班では女子三人と米倉さんが絶交していて全く会話がないらしい。
女子三人の方は画用紙に何かを書いたりしているようだが「俺が声かけてもガン無視だしさ、覗こうとすると隠されるし、もー全部任せるしかねーかなーって感じ?」と亮介はぼやいた。
「ふむ。一体女子たちの間に何があったのだろうな」
あー、これは内藤君分かってて言ってるやつだ。その証拠に背景が楽しそうだもん。
コクコクと頷いてる清音さんは、全然わかってなさそうだけど。
「ほんとになぁ。女子ってのはこえーわ……」
ため息と一緒に吐き出された亮介の言葉に、なぜか清音さんがふかく頷いている。
「だが、それはそれとして、進捗だけは確認しておくほうがいいんじゃないか? 万が一があっては困るだろう」
「つってもなー。隠そうとしてるモンのぞいて、これ以上嫌われんのもやだしなー」
それでも翌週の月曜には外国語の発表も完成して、女子三人が一枚ずつ画用紙を持って、話に合わせて裏返していた。
米倉さんと亮介は、一つのセリフもなくただ横に立っているだけだ。
学習発表会にはお家の人も来るのに。自分の子に役割が何もなかったら、あの二人の親はがっかりするんじゃないかな……。
そんなことを心配していたら、帰りの会で阿部君が手をあげた。
「先生にも相談したんだけど、うちの班の田中君が入院して、発表会に出られなくなったんだ。でも僕たちは五人でパネルを合わせるように作ってたから、困ってて……、もし誰か、手伝ってもいいよって人がいたら……」
阿部君の言葉は途中で途切れた。
ピシッと手をあげていたのは、米倉さんだった。
「……あ、じゃあ米倉さん、手伝ってもらっていいかな」
「ハイっ、頑張ります!」
米倉さんは立ち上がると気合十分に返事をした。
その日の帰り道。亮介は大きくため息をついた。
「結局俺だけやることねーんだよなぁ」
先を行く内藤君がピコンと電球を出して振り返る。
「それなら『外国語』と書いた紙を持っていたらどうだ?」
「お!? 名案なんじゃねーの!?」
亮介は早速翌日には、白い画用紙にマジックでカラフルに『外国語』と書いて、ホッとした顔をしていた。
「ありがとな、内藤! これでうちの母さんになんか言われることもねーだろ」
学習発表会前の最後の学活で、亮介はボクたちの班まで来ると、その紙を見せて満足そうに言った。
……ボクだったら紙持って立ってるだけでは『セリフは無かったの?』って言われそうな気がするけど、まあ、何もないよりはずっと参加してる感があるよね。
「よかったね」
「おぅ!」
嬉しそうな亮介の姿に、ボクたちもホッとしていた。
これで学習発表会は大丈夫だと、そう思った。
ホッとするには早かったと気付いたのは、当日の朝になってからだった。