簡単そう。という理由で選んだ国語のじゃんけんに負けて、社会のじゃんけんにも負けて、ボクたちの班は図工を担当することになった。
じゃんけんは班長の役目だったので、ボクは本当に申し訳なかったんだけど、誰も文句を言う人はいなくて、松本さんも川谷さんも「仕方ないね」とか「頑張ろうね」と声をかけてくれた。
あんまり話したことはなかったけど、二人とも良い人そうでホッとする。
図工は版画について発表するらしい。
これは……準備がけっこう大変なんじゃないかなぁ?
ボクと同じく班長になっていた亮介は、じゃんけんに負けると班員からブーイングを受けていてちょっとだけ不憫だった。
ちなみに、亮介の班は外国語の担当だ。
十月の間の学活は、ほとんど学習発表会の準備だった。
ボクと内藤君と清音さんの席が近いので、自然と窓際の一番後ろがボクたちの定位置だった。
版画の発表なんて何をどうしたらいいんだろうと思っていたけど、内藤君がどんどんアイデアを出してくれるし、松本さんと川谷さんは手先が器用でダンボールを上手に切って貼り付けてくれて、しかも「楽しいね」なんて言ってくれるので、ボクは学活の時間が楽しみでしょうがないくらいだった。
「松本さんは絵がすごく上手だね。プロみたいだ」
ボクの言葉に松本さんは照れ笑いをしながらも、後からしっかり画像投稿SNSのアドレスをくれた。
そこには松本さんが今まで描いた絵がたくさん並んでいて、ボクはお母さんのスマホからいっぱい『いいね』を押してしまった。
だって、本当にどれも一生懸命、丁寧に描かれているのが伝わる絵で、ボクにはない独特の世界観があって、本当に素敵だったんだ。
川谷さんはとっても器用で、ダンボール1枚の中に挟まれた紙1枚ずつの小さな段差も上手に切り取る。
内藤君が「アイデアとしてはあげてみたけど、技術的に難しいだろう」と言っていた部分まで完璧に作り上げた。
「川谷さんって、凄いね。なんでも作れちゃうんだね!」
ボクが言うと川谷さんは「実はこれも、私が作ったんだ」と少し照れながらフェルトのマスコットや編みぐるみを見せてくれた。ビニールの貼られたようなこのふでばこまで手作りだというので、ボクも内藤君も驚いたんだ。
皆すごいなぁ。
同じようにこの教室で過ごしてたのに、皆それぞれボクの知らない世界を知ってて、ボクにできない色んな事ができるんだ。
クラスメイトの新しい一面を知る度に、ワクワクドキドキする。
ボクには何ができるのかな。
今からだって、まだ遅くないよね?
ボクも皆のように、ボクだからこそできるような何かを見つけてみたいな。
ボクの中に、自然とそんな気持ちが生まれる。
「ちょっとー、浅野君米ちゃんのこと見過ぎでしょー」
ボクは耳に入った声を辿るように教室の前の方を見た。
浅野は亮介の苗字だ。
「だよねー、米ちゃんかわいーのは分かるけどさー」
「浅野君って、米ちゃんのこと好きなんじゃないのー?」
「米ちゃん狙っても無理だよ、米ちゃんには付き合ってる人がいるんだからさ」
「ちょっ、マキ何言ってんのっ」
「あはは、そうだよなー。ははは」
亮介はなんだか締まらない顔で笑っている。
だって、女子たちに米ちゃんと呼ばれている米倉さんの付き合ってる人は、亮介だもんね。
「でも米っち今阿部君推しでしょー?」
「あっ、あれは顔がいいなーって言っただけでしょ?」
「あーゆーイケメンと付き合いたーいって言ってたじゃん」
「ふふーん、彼氏が聞いたら怒るやつだー」
「ほ、ほらもう、さっさと作業しようよ! まだ何にもできてないのうちらくらいだよ」
「何したらいいのかわかんないもーん」
「英語の何をどうしたらいいわけー?」
「あ……じゃあ俺、ちょっと他の班見てくるな。どんくらい進んでんのか」
女子の輪の中からちょっと離れて座っていた亮介が、立ち上がってこっちに向かってきた。
なんともなさそうな顔で笑ってたけど、阿部君の名前が出た時、亮介の後ろに雷が落ちたのをボクはみていたので、今亮介の周りがどんよりしているのも納得ではある。