惚れっぽいのも、ここまでくれば特技だと思う。
米倉さんなら、この世の全ての人を好きになれちゃうんじゃないだろうか?
米倉さんがボクの手を握ろうとした時、清音さんがその手を振り払った。
「「!?」」
ボクと米倉さんが同時に驚く。
「……じゃないから……」
え? 清音さんが、喋った……!?
「佐々田君が庇ったのは、米倉さんじゃないから!!」
清音さんは今度こそハッキリ聞こえる声で米倉さんに叫んだ。
「ぇえ!?」
米倉さんがもう一度驚く。
「そーそー。京也が庇ったのは俺だよな?」
亮介がドヤ顔で言う。
いや、いばっていいとこじゃないよね?
ボクは小さくため息をつく。と、喉が少しだけ詰まった。
声変わりを少しだけうっとうしく思いつつ、ボクは米倉さんに言った。
「米倉さん、ボクは友達として皆と仲良くするのは良い事だと思うよ。でも、こういうのは違うんじゃないかな」
米倉さんは不思議そうな顔をした。
「ボクは恋愛ってよくわからないけど、恋人っていうのは一対一の関係じゃないのかな。米倉さんは、ボクと話す前に、まず亮介とちゃんと話したほうがいいと思うよ」
米倉さんの背景に『ガーン!』と大きな文字が降ってきた。
……米倉さんの心理描写って、やっぱりレトロだよね。
内藤君は頷いていて、清音さんは頭の上に『?』が浮かんでいる。
亮介はというと……。
「べ、別に。もう話す事なんかねーよ! 俺だって一応プライドがあんだからな!? 次から次に他のやつに目移りするよーなやつ……」
と言ってはいるけど、亮介って米倉さんを見てる時、ちっちゃいハートがいつでもこぼれてるんだよね。もちろん今も。
「でも、好きなんでしょ?」
ボクの言葉に亮介はグッと詰まった。
校庭はいつの間にか夕陽に染まっていて、子どもの帰った校舎は静まり返っている。
「――っ、だって、可愛いじゃん! すげー可愛くて、目が離せねーんだよ!」
亮介がヤケクソ気味に叫ぶ。でっかいハートを背負って。
途端、ポポポポポポンッと米倉さんからハートが飛び出した。
「亮君……」
「……彩ちゃん……」
二人は、見つめ合ったまま距離を詰めてゆく。
手を取り合うと、二人は一つの大きなハートに包まれた。
「とんだ茶番に付き合わされたな」
ボクの斜め後ろで内藤君が小さく呟く。
清音さんはトントンとボクの肩をつつくと、二人を指しつつ首を何度もひねってボクに事情を説明しろと圧をかけてきた。
「えっとね、実はあの二人、付き合ってたんだ」
「!?」
「できたら内緒にしててあげてね」
コクコクっと清音さんが頷く。
やっぱり清音さんは可愛いな。そう思ってから、ボクは頭のふらふらがすっかり落ち着いたことに気づいた。
「そろそろ保健室に行こうかな。清音さんも内藤君も、帰りが遅くなっちゃってごめんね。二人が助けてくれたおかげで、なんとかなって良かったよ」
ありがとう。といっぱいの感謝を込めて微笑む。
すると「佐々田君の役に立てたなら本望だ」と答える内藤君も「うん」と答えた清音さんもニコッと笑った。
「…………ぇ?」
い……今、笑った……?