ゴン。という衝撃に頭が揺れる。
ぐらりと斜めになった視界に、どんどん地面が近づく。
ぶつかる、と思った瞬間、ぐいっと体が持ち上げられた。
「京也!?」
「きゃーっ!?」
「佐々田君!」
「お前っ、何してんだよっ!」
京也の声に、それはこっちのセリフだと言い返したかったけど、ボクの声は詰まってしまって、咳が一つ出ただけだった。
なんとか地面に足から着地して、そのまま座り込む。
ぐらぐら揺れる頭でゆっくり振り返ると、ボクのランドセルを掴んで持ち上げてくれたのは、内藤君だった。
……あれ? 清音さんがいない……?
辺りを見回しても、ここには四人しか見当たらない。
「亮君何考えてんの!? 急に殴ってくるとかありえないんだけど!?」
へぇ『亮君』だって。米倉さん、二人きりの時はそんな風に呼んでたんだ?
「ありえねーのはお前の方だろ!?」
「はぁ!? お前って何それ!! 私はそんな名前じゃないですーっ」
ギャーギャー言い合う二人を見ながら、ボクは正直ホッとした。
なんとか、友達が学校で暴力事件を起こすのは防げたみたいだ。
米倉さんがボクと同じくらいの背でよかった……のかな?
「佐々田君、立てそうなら僕が背負って保健室まで連れて行こう。今ならまだ保健の先生もいるだろう」
「うーん……どうかな、まだちょっと、ふらふらしてて……」
「そうか……。それなら、まだ今はじっとしておくほうが良さそうだ。僕が保健室から保冷剤だけでも借りてこよう。待っていてくれ」
そう言って、内藤君が校舎に走り出す。と、向こうから清音さんが走ってきた。
清音さんはボクの前で止まると、手拭いのようなものを差し出す。
受け取るとひんやり冷たくて、保冷剤が包まれているんだと分かった。
殴られた耳の上あたりに保冷剤を当てる。
ジンジンしてたとこが冷たくて気持ちいい。
顔を上げると、肩で息をする清音さんがメモに何か書いていた。
あれだけ肺活量のある清音さんが、こんなに息を切らしているのって、初めてみたかも。
『ほけんの先生も来るから』とメモ帳を突き出されて、清音さんが今までどこで何をしていたのかが分かった。
清音さんはボクに見せたメモにさらに書き足す。
『転んだって言ったから』
そっか。亮介が殴ったなんて言ったら後が大変になるもんね。
清音さん頭いいなぁ。
ボクが感心しているうちに、清音さんは他の三人にもメモを見せて回る。
「佐々田君はそれでいいのか?」
内藤君に聞かれて「ボクもその方が嬉しい」と答える。
「ふむ。それなら転んだ場所とどこにぶつけたのかも決めておくほうがいいな」
内藤君は辺りを観察すると「ここならコンクリートに砂利が乗っていて転びやすいだろう。殴打痕を考えるなら、このくらいの大きさの……」と、ぶつかった物や当時の状況までを全員分決めてゆく。
こういうの『口裏を合わせる』ってやつだよね。と、ボクはふきんしんにもドキドキしてしまう。
漫画の神様に会ってから、ボクのつまらない日常はまるで漫画のような日々になったなぁとボクは思った。
そこへパタパタとスリッパのまま駆けつけてくれた保健室の先生が来る。先生はボクの傷を見ると『頭を打ったので念のため』と家の人の迎えを呼ぶことにした。
「先生は保健室に戻って電話をかけてくるから、皆は佐々田君が落ち着いたら『ゆっくり』『転ばないように気をつけて』保健室まで連れてきてね」
と先生は保健室に帰って行った。
内藤君の考えた完璧な転倒計画のおかげで、ボクたちが疑われることは何もなかった。
「はぁー。なんだかドキドキしちゃった。内藤君。ありがとう」
「このくらいなんでもない」と言った内藤君が、背景に涙を浮かべてうるうるしているユメカワなユニコーンを背負う。何それ。可愛すぎない?
「……明日は休んだほうがいいんじゃないか? 頭部を打った場合、七十二時間は安静にしたほうがいいと言われている」
その知的な言葉と姿に、背景がとにかく合ってないんだよね。
ボクは笑ってしまわないように、内藤君から目を逸らす。
すると、米倉さんと目があった。
米倉さんはボクを見て、ポコン。とハートマークを出した。
「佐々田君……、私を庇って……、痛い思いさせちゃって、ごめんね……」
悲しげに言いながら、米倉さんがやってくる。
時々ハートマークを出しつつ。