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第六話 漫画みたいなボクの日常(1/6)


「よぉ、京也。一緒に行こーぜ」

言葉と同時にランドセルがずしっと重くなる。

これは亮介の腕の重さだ。

「亮介おはよう」

四人で帰るようになってから、こういうのは亮介なりに控えてたみたいだからか、口笛を吹く亮介の周りはウキウキした効果でいっぱいだ。


ボクも前は少し迷惑だなって思ってたけど、亮介の気持ちが見えるようになった今はそんなに嫌じゃない。まあ、重いのはちょっと迷惑だけどね。


重いと言えば、亮介はしばらく米倉さんの荷物を持って帰ってたよね。

あれが亮介なりの愛なんだとしたら、ボクに体重を預けてくるのは亮介なりの友情表現だというのも、なんとなく筋が通っているような気がしてしまう。

苦笑した拍子に「けほっ」と小さく咳が出て、亮介がボクの顔を覗き込む。

「なあ、やっぱそれさ」

「うん、声変わりだと思う」

「だろーな」

気にしてなさそうに言うくせに、背景はホッと安心してるのが面白いな。

亮介も、もっと素直になったらいいのに。

いや、もしかしたら、本人には素直じゃない自覚なんてないのかも知れない。


「米倉さんとは、どうなったの?」

朝からこんなこと聞くと嫌かもしれないけど、帰りはいつも四人だし、教室ではボクの席で集まってるから、今しかないよね。


「……俺も知らねー。別れるとか言われてねーけど、全然話できてねーしさ。これが自然淘汰ってやつなんじゃねーの?」

亮介は、軽い口調で、でもやっぱりぐるぐる渦巻く背景で言った。

それを言うなら自然消滅だと思うけど、まあそうなのかも知れない。

「そっかぁ……」

「あーあ、俺はけっこー本気だったのにな」

それはボクにもわかる。亮介は、亮介らしくないくらい、頑張ってたよね。

「これはやっぱさ、あんないい男逃したーって、後悔されするくらいイケメンになるしかねーよな」

「イケメンて……どうやって?」

ボクは思わず聞いてしまった。

「わかんねーけどさ。あ。内藤にでも聞いてみるか」

「えー、そんなのあるのかなぁ?」

「内藤なんでも知ってっからさ『イケメンになる方法』だって分かんじゃねーの?」

そう言われてしまうと、内藤君なら『イケメンになる方法』をスラスラ話し出してもおかしくないような気がしてくるので困る。

ボクたちは笑いながら正門をくぐった。


***


朝から、まだ元気のない清音さんにサインの話をすると、清音さんはやる気をみなぎらせて、やっぱりボクの思った通りにサラサラとサインを書いてくれた。

目の前で全く同じように書かれる三枚に、ボクも亮介も、のぞきに来た松本さん達も目を奪われる。

「わぁ、すごいや。アイドルみたいだね!」

清音さんは、三枚にそれぞれ受け取る人の名前を書いてくれる。

どうやら、準備万端の妹は色紙の隅に鉛筆で薄く「◯◯へって書いてください」とメモを書いていたらしい。

予備と書かれた色紙の前で、清音さんの手が止まる。

「あ、それはボクの分だから……」

清音さんはピコンと電球マークを一つ出すと『京也君へ』と書いた。

ボクの下の名前……覚えてくれてたんだ。そう思ってから「京也君へー、だってさ、よかったな京也」とからかうような口調の亮介に言われて、すぐに理由が分かった。

それでも、やっぱり嬉しいや。

「清音さん、ありがとう。ずっと大事にするねっ」

渡された色紙を受け取って、ボクは妹の分も心を込めてお礼を言った。

「……ん」と言って、清音さんが照れくさそうに頷く。

今のは『うん』の『ん』だったんだろうか。

話し声自体は松本さん達との会話で時々聞こえるけど、ボクに向けて言われたのは初めてで、たったこれだけの言葉だったけど、ボクは思ったよりもずっとずっと嬉しくなってしまった。


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