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第五話 怒涛の学習発表会(5/7)


「はい、ただいまー。あと片付けは終わったかなー?」

元気な声とともに先生が入ってくる。


「あら、もう後ろも片付いたのね。皆、今日は本当にお疲れ様! 今までで最高の発表だったよ!」

ニコニコの先生からあふれるウキウキした効果につられるように、皆からも嬉しそうな感情が出た。

こういうキラキラの効果でクラスがいっぱいになる光景って本当にキレイで、皆にも見せてあげたくなる。


「今日は思わぬハプニングもあって、先生もどうなることかと思ったけどね。クラスの皆が進んで協力し合ってくれて、先生は……本当にこのクラスの皆の先生で良かったと思ったわ!」

先生は、ちょっとだけ涙を滲ませて、でも笑顔でそう言った。


「せんせー、泣かないでー」

「しゃーない、もう年だから」

「こらっ、誰が歳ですか! 先生はまだピチピチですーっ」

先生の言葉に皆がドッと笑う。


「今日は先生本当に感動しちゃったから。一時間目も自習にしちゃったけど、これから十分だけ、ホメホメ大会をします!」


先生はそう言って黒板に「ホメホメ大会」と書いた。

教室ではピコンピコンと電球マークがついていく。

皆、思いつくのが早いなぁ。

これは山村先生が帰りの会や学活で時々やるちょっとしたイベントで、手をあげた人が順番に当てられて、自分以外の人を褒めていく。


「褒めたい人ー!」

先生の声に、パッとクラスの半分以上から手があがった。


え、ど、どうしよう。内藤君も清音さんもすごかったし、松本さんも川谷さんも手伝ってくれた他の皆も、本当にいっぱい助かったから、誰をあげたらいいのかわかんないよ。


「はい、山上さん」

先生に当てられて、山上さんが立ち上がると、こちらを振り返る。

あ、内藤君か清音さんかな?

ホメホメは褒める相手の方を見るのがルールだ。

「私は佐々田君を褒めたいです」

え、ボク!?


「困っている人を、進んで助けられる佐々田君はすごいと思います。あと佐々田君は人をまっすぐ褒めてくれるので、それもすごいと思います」

「そうよね、先生も佐々田君には助けられたわぁ。はい次の人ー」


先生の声に、山上さんが「滝川君」と指名する。

ホメホメ大会には当てられた人が順に次の子を当てていくというルールもある。


いきなりボクが褒められるなんて、思ってもいなくてドキドキしてしまった。


「僕も佐々田君を褒めたいと思います」


ええっ!?


「佐々田君は、いつもニコニコ笑顔で皆を癒してくれるのがすごいと思います」


えええっ!?


「わかるー。佐々田君ってワンコ系っていうか、本当に子犬みたいだよね」

「うんうん、笑顔が無邪気で可愛いよね」

「お願い聞いてあげたくなっちゃうタイプ?」

「弟っぽい」

「うちの弟と交換したい」

「俺の妹より絶対佐々田君の方が可愛い」

「癒される」


待って待って、何の話?

え、ちょっと、いやかなり、恥ずかしいよ??

クラスがザワザワしてる間に滝川君は次の人を刺したらしく、松本さんが立ち上がった。

う、またこっち見た。

いやでも今度は清音さんだよね?


「私は清音さんと川谷さんと内藤君と佐々田君を褒めたいです」


多いね?

それは班員全部だね。

ボクはちょっとホッとして、松本さんの話を聞く。

松本さんは一人ずつすごいところをあげて褒めていくと「佐々田君は人のいいところを見つけるのが上手で、いっぱい褒めてくれるので嬉しくなります」と締めた。


そうかなぁ。

ボクがそんなに褒めてたとしたら、それは褒めるとこがいっぱいの松本さんがすごいんじゃないかな。


その後も、次々に皆がホメホメしてゆく。

ボクたちの発表内容を褒めてくれる人も多くて、すごく嬉しかった。


ボクたちの発表は版画を段ボールで再現して、五分の時間内で実際にローラーで絵の具をつけて、紙に転写するというものだった。

一見平らに見える板に布……まあ体操服の上着なんだけど、それをかけて手品みたいに一瞬で版を作って見せたり、黒いローラーに仕掛けをしておいて、転がすと七色に絵の具がつくようにしてあったりと、内藤君のアイデアが存分に生かされていたし、それを器用な川谷さんが完璧な力加減で紙に移すことによって、版だけ見たときには気づかないような模様が浮き上がるという、神技的なものだった。


ボクは、いくつかセリフを言う以外は皆の後ろで使う道具を出したり引っ込めたり、紙を持って待機したりとお手伝い的なことしかしてないんだけどね。


「あらあら、なんだか皆佐々田君の方向いちゃったわね」

先生がくすくす笑って言う。


う、だって、亮介や阿部君までボクのこと褒めてくれるんだもん。

班のこと褒めてくれる人も、ボクが班長なのでボクの方向いちゃってるし……。


「そろそろ時間ね。佐々田君は何か言いたいことがあるかな?」


先生の言葉に、ボクはおずおずと手をあげる。

今ボクを褒めたばかりの阿部君が「佐々田君」とボクを指名した。


「えっと、皆本当にありがとう。ボクは四組の皆と同じクラスになれて、すごくすごーーーく幸せだなぁって感じています。ボクが褒めたいのは、いつも優しいこのクラスの人たちと、担任の山村先生ですっ」

とってもポカポカあったかい気持ちに包まれて、ボクは心からの感謝を込めて皆に微笑んだ。


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