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第四話 ひとりで歌う合唱歌(3/6)


「なあ京也、俺ってブサメン?」

「えっ、最初に聞くのそれなの?」

ボクが返事に困っていると、松本さんが亮介に声をかける。

「あれ、浅野君だ。どうしたの? 敵陣視察?」

川谷さんが「敵じゃないでしょ」とくすくす笑う。

清音さんも声は出さないけど、柔らかい表情だ。

「あー。京也の班いいなぁ。癒されるなぁ」

よどんだ亮介の感情が少し淡い色になる。言葉通り癒されたらしい。


松本さんは亮介とスイミングで一緒らしくて、低学年の頃から時々話をしてたらしい。

「なあなあ、松本さん、俺って顔悪い?」

「唐突だね。悪くはないと思うよ?」

「じゃあイケメン?」

「う、うーん……普通……?」

亮介、松本さん困っちゃってるよ。

「川谷さんと清音さんはどー思う?」

「えっ、私も普通だと思うよ。普通にえっと、日本人っぽい」

川谷さんの言葉に、清音さんも小さく頷く。

「フツーかぁ……」

亮介は大きくため息をついてから、気を取り直したのか、ボクたちの班の進み具合を聞いた。

「マジか、すげぇなこれ。先生に見せたらびっくりすんじゃねぇ?」とボクたちの自信作に感心して「俺たちもそろそろとっかかんねーとなぁ」と呟く。

「まだ何にもしてないの?」と聞く松本さんに「そーなんだよ」と言って「頑張ってね」というボクに「おぅ」と返すと、亮介は他の班の様子を見に行った。


ボクたちの担当は図工だから、外国語の参考にはなりにくいだろうしね。

しかし、亮介は大変そうだなぁ。

あの時、亮介が喜ぶかと思ってボクは班を抜けたけど、そばにいてあげたほうが良かったのかもしれない。


トントン。と小さく肩を叩かれて振り返る。

清音さんが小さく首をかしげてボクをみていた。

『どうしたの?』と聞かれているような気がして「あ、うん。亮介が大変そうだなと思って」と返すとコクコクと頷いてくれた。


清音さんは最近僕たちにも慣れてくれたのか、親しい友達と一緒にいるからか、頷きもよくわかるようになったし、表情も柔らかくなった気がして嬉しい。

満面の笑顔みたいなのは、まだ見たことないけどね。


いつか、清音さんがボクににっこり笑ってくれるようなことがあるんだろうか。

今はまだ想像もできないけど、そんな日が来るといいなと思う。


***


その日は朝からどんより曇り空だった。


「肩が痛ぇ……」

亮介は朝からボクの席で肩をさすっていた。

確かに昨日は前に図工で作った焼き物が焼けたのを持って帰ったし、習字セットもあったから重かったよね。なんて思いながら話を聞けば、亮介はどうやら米倉さんの荷物も持って帰ったらしい。

「彼女の荷物は彼氏が持つもんだろ?」

でも、さすがにランドセルは持ちすぎじゃないかな?

前と後ろにランドセルを背負って歩く姿を想像すると、彼氏彼女というより、罰ゲーム感があるというか……下僕感があるというか……。


ボクはなんだかちょっと、亮介が不憫な気がしてくる。

不意に女子の声が廊下から聞こえてそっちを見る。

「何それマジで!?」

「見たんだって! 昨日!」

「えーっ、ずっとうちらに黙ってたの!?」

誰だろう。顔が見えないくらいに大きな感情がゴゴゴと膨れ上がっている。悲しいのか怒っているのかはよくわからないけど、三人……足元の上履きを数える限り三人とも、随分衝撃だったみたいだ。


「ぅげ、まさか……」

亮介がこぼした言葉に、ボクはその三人が誰なのか、何の話なのかに気づいた。


そこに「おはよー」と米倉さんが廊下に現れる。

「ちょっと、米っちこっち!」

「話があるんだけど」

「え? 私まだランドセル置いてな……」

三人は素早く駆け寄ると、米倉さんの腕を引いて階段の方向に消えていった。


「……なあ、俺、嫌な予感しかしないんだけど……」

亮介の声は少し震えていた。

「えっと、頑張って。ボクにできることがあれば手伝うから……」

ボクはそれ以上どう励ませばいいのか分からなかった。


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