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第7話 さよならは突然に(1)

「じゃあ、そろそろ行こっか。美緒ちゃん」

 諒太の母親・由紀子に手を引かれ、美緒がこくりと頷く。諒太は「気をつけてな」と玄関先で手を振って、その背を見送った。

 二人が向かった先は児童相談所だ。というのも――、

(美緒のこと、橘にも連絡しておくか)

 スマートフォンを取り出し、事のあらましだけを書いたメッセージを送る。すると、送信してすぐ通話がかかってきた。

『どういうことなんすか』

 通話に出れば、開口一番に橘は言った。

「メッセージどおりだよ。美緒が新しい里親のもとに行くかも、って話。本当は実親のもとで暮らせるのが一番なんだろうけど、やっぱり駄目だったみたいでさ――長期的な受け入れ先を打診しているところなんだ」

 諒太は里親として姪の美緒を預かっている身だが、――そもそも独身男子が里親というのが微妙なもので――彼女がきちんとした親のもとで過ごせるまでの短期間、という条件だったのだ。

 その間、児童相談所には安定した環境の委託先を選定してもらっていた。それが最近になって候補が絞れたらしく、こうして面会に赴くことになったわけだ。

 美緒からすれば諒太は叔父だし、付き添いには祖母の立場にある由紀子に任せてある。まずは面会、それから外出したり外泊したりして、数か月かけてマッチングするらしい。

『あの、部外者が口を挟むようなことじゃないとは思うんですけど、先生が引き取るわけにはいかないんですか?』

 あれやこれやと説明していたら、橘が遠慮がちに尋ねてきた。けれども、諒太にはどうにもならない理由があった。

「俺に“親”は無理だよ。だってゲイだぜ?」

 それだけ言うと、橘は沈黙した。センシティブな問題なのだから当然の反応だろう。

『……美緒ちゃん本人がいいって言うなら、俺もこれ以上は言いません』

 ややあってから、そのような言葉が返ってくる。彼なりにこちらの意向を慮ってくれたに違いない。

「大丈夫。面会にも行ってるし、ちゃんと話もできてるみたいだから」

 新しい里親候補の夫婦は、養子縁組も考えているようで、そのあたりも含めて慎重に話を進めているそうだ。何にせよ、美緒にとって良縁になればいいと思う。

(子供にとって、親ってのはやっぱ大事だよな……)

 美緒には、今よりもずっといい未来がある。なにも自分が傍にいなくてもいい――一緒に暮らさなくても、いくらでも支えようはあるのだから。

 諒太は寂しさを覚えながらも、そう自分に言い聞かせるのだった。

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