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第6話 酔いどれな夏の夜(4)

 そのうちに自宅のアパートへ辿り着く。諒太は橘の背中から降り、代わりに肩を貸してもらって部屋に入った。

「ほら、ベッド」

「あ~……」

 促されるがまま、倒れ込むようにベッドへと横たわる。

 橘は苦笑を浮かべて頭を撫でてくれた。その仕草があまりに優しかったものだから、つい甘えたくなってしまい、

「ん――」

 と、諒太は両手を伸ばしてハグを催促する。

 橘はちょっとだけ驚いたような表情をしたものの、すぐに抱きしめてくれて、諒太の胸がきゅうっとなった。何気なく頭を擦り寄せれば、小さな笑い声が聞こえてくる。

「先生ってば、猫みたい」

「そう?」

「うっす。こういったときだけ甘えてくんのズルいというか」

「――にゃーん」

 橘の言葉に乗じて、猫らしく振舞ってみせる。橘は突然のことに固まった。

「……いや、フツーに可愛すぎますけど。完全に酔ってますよね、先生」

「酔ってませーんっ」

「酔っ払いはみんなそう言うんすよ」

「恋人が甘えたそうにしてるときは、黙って甘やかすの。……ずっと、会いたかったんだから」

 言いつつ、諒太は顔を寄せていく。

 そっと橘の首に腕を回せば、自然と互いの唇が重なった。

(好きな相手って……こんなにもドキドキして、触れたくなるものなんだ)

 橘とのキスはやはり気持ちがいい。心が満たされていく、とでも言ったらいいだろうか。

 触れ合うだけの優しい口づけを繰り返しながらも、次第に物足りなくなってきて、諒太はちろりと舌先で相手の上唇を舐める。

「……先生」

 言葉にせずとも、橘はこちらの意図を理解してくれたらしかった。橘の舌先が歯列を割って、口内にぬるりと侵入してくる。

「ん、は……」

 上顎をくすぐられ、鼻にかかった声が漏れてしまう。橘はそんなこちらの反応を楽しむかのように、口腔を蹂躙していった。

 舌同士が絡み、互いの唾液が混じり合う。まるで媚薬か何かだ――頭がくらくらとし、体が熱を帯びては甘く疼いた。

 どちらからともなく口づけを解いたのは、息が苦しくなってきた頃合いだった。

 二人の間に銀糸が伝い、それがぶつりと切れたあともぼんやりと見つめ合う。

(ベッドの上で抱きあって、キスしてって――なんかもう)

 意識すればするほど、どんどん鼓動が高まっていく。

 体の内側からせり上がってくる情欲を抑えることができず、諒太は問いかけた。

「なあ、シない……の?」

「え……」

「エッチしないの、って訊いてる」

 ごくり、と橘の喉が鳴る。その瞳が雄らしい光を帯びたのを見て、諒太はますます欲情した。

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