「そんな……勘違いみたいなこと」
言いながらも、橘の表情には迷いが見て取れた。高校生の恋愛観なんてそんなものだろう――そう思った瞬間、胸がちくりと痛んで――、諒太は苦笑した。
「勘違いだよ。一時の感情で行動するもんじゃない――そんなにエロいことしたいなら、ヌいてやるから」
まるで悪ふざけの延長だ。友達が遊びに誘うかのように口にして、橘の下腹部へと手を伸ばした。
「ちょ、先生……!?」
「もしかして、女の子ともこういうコトしたことない?」
「あ、当たり前じゃないすか」
問いかけると、橘は珍しく顔を赤らめた。
その様子が可愛らしく感じられて、諒太はふっと笑みを浮かべる。
今まで諒太が相手にしてきたのは、セックス慣れした年上ばかりだった。こんなにも初々しい反応を見せてくれる相手は初めてで、だからこそ頑張りたくもなってしまう。
「じゃあサービス、な」
そうしてソファーから移動すると、橘の前に屈んだのだった――。
◇
「すみません、俺……」
「いーよ、溜まってたんだろ? これですっきりしたか?」
「………………」
橘の顔が曇る。まだ自分の心情が整理できていないのだろう。
そんな彼に微笑んで、諒太は諭すように告げた。
「橘が俺のこと想ってくれてるの、すげー嬉しいよ。こうやって一人にしないでくれたのも感謝してる」
「先生……」
「けどさ、橘のそれは本当に恋愛感情なのかよく考えてほしい。君はゲイじゃないんだし、俺だって、君とどうこうなりたいってワケじゃないんだからさ。……わかったなら、今日はもうこの話はナシな」
「――……」
橘は何か言いかけたものの、結局は何も言わずに顔を伏せた。そうして、ややあってから再び口を開く。
「……先生がそう言うなら。ちょっと頭冷やしてきます」
言って、洗面所へと向かっていった。
寂しげな印象を受けたけれど、どうしようもない。一人残された諒太は、人知れずため息をつく。
(あーほんと危なかった。一線超えなくてよかった――お互い、絶対後悔するところだったよな)
告白されたとき、正直なところ嬉しかった。意中の相手からあんなふうに迫られて、真っ直ぐな言葉を聞かされたら、心だって揺らいでしまうに決まっている。
しかし、だ――自分は講師で、相手は生徒。何よりもノンケときた。立場や性別上のことを考えたら、簡単に受け入れていいものではない。
ただ、皮肉にも、思い出すのは先ほどの光景だった。
やり場のない感情がまた膨らんでいく。切なさに、諒太の胸はじくじくと痛んだ。