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第4話 意地っ張り同士のふれあい(2)

 言っている意味がわからずに目を丸くしていると、橘はさらに言葉を加える。


「俺、ゲイとかそういうの全然わかんねっすけど……でも多分、先生なら余裕でキスとかセックスできますよ」

「はああっ!?」


 あまりに明け透けな物言いに諒太は声を上げた。

 けれど橘は動じる様子もなく、平然としている。ますます意味がわからない。


「な、ななっ……君、自分が何言ってるかわかってんの? 普通は気持ち悪い、ってなるだろ!? からかってるつもりならっ」

「からかってなんかないっすよ」

「……っ」

「先生が俺をかばってくれたとき、心の底から惚れ惚れしました。帰らないでほしいと頼ってくれたときは、すごく胸が熱くなって――そして今、こうして真っ赤になってる先生は、色っぽくてとても可愛いと思います」


 矢継ぎ早に言いながら、橘がぐっと距離を詰めてきた。

 間近に迫った端正な顔立ちに諒太の胸が高鳴る。反射的に身を捩ったが、がっしりと肩を押さえつけられて動けなくなってしまった。


 そうして再び見下ろされて、


「先生、俺と付き合ってください」


 告げられた瞬間、体の熱が一気に上昇するのを感じた。ドクンドクンと脈打つ鼓動は痛いくらいで、呼吸すら忘れてしまいそうになる。


 しかし、だからといって、ここで流されるわけにもいかない。どうにかこうにか理性を奮い立たせ、ゆっくりと口を開いた。


「だっ、駄目です」

「なぜ敬語?」

「うううるさい! とにかく、駄目なものは駄目っ!」


 必死に拒否すると、橘は不満そうに眉根を寄せる。


「俺たち、両思いなんすよね?」

「こらこら、話を進めようとするなっ。どう考えてもあり得ないし、それに立場だって――何かあったら責任取らされるの俺なんだぞ?」

「何か、なんてあるはずがないでしょ。女子みたいに妊娠するワケじゃないし。そもそも、はたから見たらそんなふうに思われることもないだろうし」

「あっ、なーるほど……っておい!」

「あんまりうるさいと、美緒ちゃんが起きちゃいますよ」

「~~っ!」


 ああ言えばこう言う――橘の言葉にムッとしながら、諒太は唇を引き結んだ。

 せめてもの抵抗に目線を逸らすけれど、相変わらず肩は掴まれたままだし、距離は近いしで落ち着かない。


 そんなこちらの様子をじっと見つめながら、なおも橘は追い打ちをかけてくる。


「『駄目』って言われても、全然説得力ないんすけど」


 そう呟いたかと思うと、橘の顔がさらに近づいてきた。鼻先が触れそうな距離まで迫られ、思わず息を呑む。


「ちょっ、橘」

「駄目?」

「だめ……っ」

「本当に?」

「だ、め……」


 小さな声で告げるも、言葉がそこで途切れる。

 気がついたときには、橘の薄い唇が重なっていた。最初は軽く重ね合わせ、一度離してから、角度を変えて今度は押し当ててくる。


 柔らかくて、温かい。殴られたせいで切れてしまった唇が、じんと鈍く痛むのがまた堪らない。触れ合うだけのキスなのに、頭の芯まで痺れるほどの快感を覚えてしまう。


「好きです、先生」

「……っ、ん」


 先生、と呼ばれてハッとしたけれど、唇を舌先で舐められれば体の力が抜け落ち、されるがままになってしまう。

 傷口に触れてくるのはわざとだろうか。痛みが妙に気持ちよく感じられて、諒太はぎゅっと瞳を閉じた。


「ん、橘っ……」


 そのまま何度も優しく撫でられ、やがて唇を食まれる。ちゅっちゅっと音を立てて吸いつかれるたびに、腰の奥が疼いて止まらない。次第に頭がぼうっとしてくるのを感じた。


(あ……ヤバい、気持ちいい)


 男として気持ちいいことは好きだし、もともと諒太は快感に弱いところがある。これまでも何人もの相手と体を重ねてきたし、正直なところ誰とでも寝られた。が、今回ばかりは事情が違う。


「先生?」

「やっぱ駄目だよ、橘」


 やっとのことで唇を引き離し、掠れた声で言う。

 橘は少しだけ身を引いてくれたものの、まだ納得していないような顔をしていた。それを見て、諒太は言葉を続ける。


「一旦、頭冷やせよ。暴力沙汰があったから興奮でどうにかしてるんだろ? 男なら性欲に突き動かされて――ってのもあるだろうし」

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