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第2話 元気の出し方/恋の予感(4)






 そしてハンバーグが出来上がると、三人そろってテーブルを囲み、いただきますをした。

 美緒が小さな口を大きく開け、一口に切ったハンバーグをぱくりと頬張る。途端に満面の笑みが浮かんだ。


「おいしいっ!」


 その言葉を聞いて、諒太と橘の顔にも自然と笑みが広がる。


「美緒ちゃんも手伝ってくれたから、美味しくなったんだよ」

「そうなの?」

「ハンバーグはちゃんとお肉を練るのが大事だから。ですよね?」


 橘がこちらにふってきたので、諒太はもちろんだと大きく首肯した。


「美緒、上手だったもんなあ。手伝ってくれてありがとう!」


 頭を撫でてやれば、美緒はくすぐったそうに肩をすくめつつも嬉しそうにする。

 手前味噌ではあるが、今日のハンバーグは本当に美味しくできたと思う。煮込まれたハンバーグは柔らかく、肉の旨味と甘いソースが絡み合って絶妙な味わいに仕上がっていた。


 何より嬉しいのは、美緒が「おいしい」と言って笑顔を見せてくれることだ。まだまだ料理は不慣れだけれど、少しずつできることが増えてきているし、美緒のおかげでもっと頑張りたいとも思えている。


 そのようにして和やかな食事の時間を過ごし、片づけが終わると、美緒は橘に寄り添ってうつらうつらとした。

 満腹になったせいか、はたまたはしゃぎ疲れてしまったのか。諒太はフッと笑いつつ、掛け布団を掛けてやることにした。


「橘、今日はありがとな。いい気分転換になったよ」

「それはよかったです。俺の方こそお邪魔させてもらって――こうやって、誰かとゆっくりご飯食べるの久々で楽しかったっす」

「はは、にしても意外だよなあ。正直、君があんなふうに笑えるとは思わなかった」


 これまで接してきた限りでは、橘はあまり表情を変えることがない。つい本音を口にしたら、「失礼ですね」という言葉とともに頬杖をつかれた。


「俺だって、子供相手なら笑顔も浮かべますよ。……それとも、先生もこんな顔されたいんですか」


 言って、柔和な笑みを浮かべながら目を細める。真っ直ぐに見つめられて、諒太は思わずどきりとさせられた。


「なっ、なワケあるか!」


 居たたまれない気持ちになって目を逸らす。このドキドキという胸の高鳴りは何なのだろう。


(嘘だろ、なに子供相手にドキドキしてんだよ。不意打ちだっただけで、別に俺のタイプじゃ……)


 体格がいいのは好みとするところだけれど、パッと見でゲイセクシャルだと分かるような相手が好みなのだ。それも年上で、経験豊富そうな。

 だというのに、年甲斐もなくときめいてしまった――体から始まる関係を続けていたせいで、こんな感覚は何年ぶりかもわからない。


(いやいや、ないな。ノンケとかマジでない!)


 もともと好感を持っていたのはあるし、今日だって楽しかった。けれど、決して恋愛感情などではないと必死に否定する。


 そんなことをしていたら、橘が不思議そうに首を傾げた。その瞬間、諒太の心音がまた跳ね上がり、甘酸っぱい気分に浮かされていくのだった。

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