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 それは、久しぶりの感覚だった。届いたのは、面倒な類いの質問。

 どうして愛歩のような絵描きと懇意にしているのかわからない、最近はシェア等も少ないようだが、以前は何か光るものを感じていたのか。覗いてみても同じような絵ばっかりなので、正直良さを感じ取れなかった。よければ教えてほしい。

 この腸が煮え繰り返って、けど心は底冷えするような感覚。愛歩のことでもこれだけ怒れると知れたのは、一つの収穫かもしれない。そう自覚できた頃には回答欄にびっしりと、この木っ端が見ようともしない愛歩の絵の美点を字数制限ぎりぎりまで並べ立てていて。

「……」

 ぐちゃぐちゃに並んだ文字を見て、愛歩が見たら喜びそうだと思った。そう考えると急に、怒りがぐるりと面倒くささに反転した。考えてみれば、何で私がわざわざこの蒙昧に愛歩なんかの絵の良さを説明しなければならないのか。それに並んだ言葉たちはあまりに赤裸々で、私が目を逸らし続ける自問の答えを在り在りと示しているようで、とても見ていられなかった。いい加減、お前の絵を、好きになったのか。目を合わせた自問に否、とはっきり答えて、全文を消した。

 そして送ればそれこそ面倒なことになるだろう、と思いながら、愛歩が怒りながらも嬉しそうにするのもまた目に浮かんで、その複雑そうな表情が見れるならそれはそれで、よくはないけどまぁいいかと、微かな面倒と身に余る幸福を予感しながら、ただ『付き合ってるから』、だけを回答欄に打ち込んで、かつりと送信ボタンをタップした。

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