柔らかな風が心地よかった。
一面に揺れる向日葵が、お前の手でキャンバスに写し取られていた。真っ青に抜けた空と、陽だまりに浸かる花々。花畑を見下ろせる小さな丘に、あつらえたような木陰があった。その陰の際で携帯式の椅子に掛けたお前を、私は陰の中心の幹に背を預けて、じっと見守っていた。真夏の大気は厳しく、木陰でさえ背がじっとりと汗ばんでいた。
お前はせっせと手を動かして、景色よりもずっと美しく、風景を切り取っていった。いや。多分、それがお前の目に映る世界だった。私よりもずっと綺麗に世界を見られるお前の絵を、けれどそのときはなぜか、心から、綺麗だと思った。
「
振り向いたお前と、その前のキャンバスと、その向こうに広がる向日葵とが、私の目に眩しく焼き付いた。私はお前の絵を、好きになったのか。掠めた自問を無視した。
「お前、上手くなるよ」
続けるとお前は目を見開いて、それから細めて、それは嬉しそうに笑った。