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第28話 収穫玉米

私は久しぶりに晴れた朝の庭に立ち、眩しい光の中でしっかりと実ったとうもろこしを眺めていた。

自らの手で種を植え、出来るときは欠かさず世話をしてきたとうもろこしが、今、収穫の時期を迎えている。

青々とした葉の間から覗く黄金色の実が、太陽に照らされて輝いているのを見ると、心の奥底から喜びが湧き上がってくるのを感じた。


「とうもろこし、立派に育ったな、クレア嬢」


隣に立っている庭師のジョンさんが微笑んで言った。

私はジョンさんの方に向き直り、嬉しそうに頷いた。


「ええ、ジョンさん。ようやく収穫のときが来たんですね!この子たちがここまで大きくなってくれるなんて、本当に感動します!」


私たちは収穫用のバスケットを手に持ち、とうもろこし畑へと足を進めた。

私は小さな手をそっと伸ばし、とうもろこしの一本を丁寧に掴むと、根元から軽くねじって引き抜いた。

ずっしりとした感触に、彼女の顔には思わず満足げな微笑みが浮かぶ。

とうもろこしがここまで立派に育つまでの道のりがよみがえり、そのひとつひとつが今の喜びへとつながっていると実感した。

ジョンさんもまた、穫れたてのとうもろこしをひとつ手に取り、感慨深そうに眺めている。

彼は昔から庭師として、庭の隅々まで手をかけ、季節ごとに異なる作物や花々を育ててきたが、私が一緒に庭で作業を始めるようになってから、また違った楽しみを見つけたようだった。

彼女が好奇心旺盛に質問を投げかけたり、日々小さな変化を喜ぶ姿が、ジョンには微笑ましく映っていた。


「クレア嬢、最初に芽が出た日を覚えてるか?」


ジョンさんの問いかけに、私はうなずきながらそのときを思い出した。


「はい、あの日はすごく嬉しかったです!小さな芽が顔を出して、なんだか『こんにちは』って言っているみたいで。あの瞬間を忘れられません!」


私の言葉には、育てることへの純粋な喜びがにじんでいただろう。

私が日々とうもろこしに話しかけ、時には庭で過ごす時間を惜しみなく注いでいたのを、ジョンさんは知っている。

ジョンさんは私の言葉に微笑みを浮かべながら、収穫を続けていた。

私たちの間に流れる静かな空気には、グレアス様とは違った温かさがあった。

私が育てたとうもろこしの収穫は、ただの作業ではなく、私にとっては努力の結晶を手にする瞬間であり、ジョンにとっても彼女が成長してきた姿を目にする大切なひとときだった。


「とうもろこし、こんなに大きくなるなんて…初めて見た時は、ただの小さな種だったのに!」


私はうっとりとした表情で、収穫したとうもろこしを見つめた。

青々とした葉に包まれた黄金色の実がずっしりと重く、光に照らされて輝いている。

やっぱり、何度作物を育てても元気に育ってくれるのはすごく嬉しい。


「種から芽が出て、葉が伸び、花が咲いて、そしてこんな立派な実ができる…本当に、植物って不思議で素敵ですね〜……」


その言葉にジョンさんはうなずき、静かに答えた。


「ああ、クレア嬢。自然の成長には時間がかかるが、その過程を大切に見守ることで、こうして素晴らしい実りを手にすることができる。きっと、人も同じなのかもしれないな」


私はその言葉に少し驚き、ジョンさんを見つめた。

彼の目には、穏やかで温かなまなざしがあった。


「私も、とうもろこしのように…成長しているのでしょうか?」


彼女の問いに、ジョンさんは柔らかくうなずいた。


「ああ。あなたはとてもよく成長している。最初にこの庭に興味を持ったときから、俺はずっとその姿を見てきた。どんな小さなことでも、真剣に向き合い、喜び、時には悩んで…それが、あなたの素晴らしい成長を支えてきたんだろうな。それにドジも減ったしな!」

「そ、それじゃ余計ですっ!」


私はその言葉に頬を少し染めながら、とうもろこしを抱きしめるようにして軽く抗議した。

今まで、自分の成長について考えたことはあまりなかったが、ジョンさんの言葉が心に響いて、少しだけ自信を感じることができた。

しばらくの間、私たちは無言で収穫を続け、籠には立派なとうもろこしが次々と積み重ねられていった。

私は、とうもろこしの葉を丁寧に剥きながら、これが庭師としての最後の作業になるわけではないと感じていた。

むしろ、この経験を通して自分がもっと多くのことを学び、また次の成長に向かうための一歩だと確信していた。


──────────────────



やがて収穫が終わり、私とジョンさんは庭の隅に腰を下ろして、籠にいっぱい詰まったとうもろこしを眺めた。

収穫したとうもろこしを籠いっぱいに詰め終えた私たちは、庭の隅に腰を下ろして眺めていた。

黄金色に輝く粒の美しさに、私は思わず笑みを浮かべる。


「こんなにたくさん…!本当に、全部私が育てたんですね!」


私は嬉しそうに籠に並んだとうもろこしに指先をそっと触れた。

その姿を見て、ジョンさんも心からの微笑みを浮かべる。


「ああ、クレア嬢の努力の賜物だ。毎日の水やり、手入れ、そして大事に見守ってきたからこそ、こうして立派に実をつけたんだ」


私は改めて、ジョンさんの手助けで植物を育てることの喜びを感じていた。

自然の中で作業する時間は、他のどんな勉強とも違う達成感があった。


「ジョンさん、本当にありがとうございます。私、一人だったらここまで立派なとうもろこしを育てられなかったと思います。」


色々あって私が世話をできないときはずっとジョンさんがしてくれていた。

感謝してもしきれない。


「いや、クレア嬢の根気と努力があったからこそだ。俺は少しだけ手伝っただけだ。」


そう言いながらも、ジョンさんの瞳には誇らしげな光が宿っていた。彼にとっても、私と一緒に育てたこのとうもろこしは大切な存在で、共に過ごした時間が特別なものだったということだろう。

ふと私は、ここまで立派に育ったとうもろこしを、誰と一緒に楽しもうかと思案し始めた。


「ジョンさん、このとうもろこし、みんなで一緒に食べられたら素敵ですよね?せっかくだから、家族や使用人の皆さんにもおすそ分けしたいです。」

「それは良い考えだな。クレア嬢の思いやりが、きっと皆さんにも伝わるだろうな」


私は、喜びと誇りでいっぱいだった。

このとうもろこしが、私がここまで注いだ愛情と努力の象徴として、皆に喜ばれるのだと想像すると胸が温かくなる。


「でも、まずは…グレアス様に味見してもらいたいです」


私は少し照れくさくて笑った。

ジョンさんはうなずきながら立ち上がると、手際よくとうもろこしを料理するための準備を始めた。

私もそれに続き、湯を沸かしたり、皮を剥いたりと、手を動かした。


「こうして一緒に作業するのも楽しいですね!とうもろこしが立派に育ったのは、私たちが力を合わせたからだと思うんです」


私は、ジョンさんと共に過ごすこの時間が、グレアス様とは違う意味でとても尊いものだと感じていた。

日々の忙しさに追われる中で、こうして自然に触れながら心を通わせる時間が、私にとっては癒しであり、成長の糧となっていた。

やがて、茹で上がったとうもろこしからは、甘く香ばしい香りが立ち上り、私の心をさらに満たしてくれた。

茹で上がったとうもろこしを手にした私は、その香りに自然と微笑みが浮かんだ。

湯気が立つ黄金色の実が並ぶ様子は、まるで宝石のように輝いて見える。

指でつまんで食べてみると、とうもろこしの粒がぷりっと弾け、甘みが口いっぱいに広がった。


「すごく美味しい…!」


私は喜びをジョンさんに伝えながら、目を輝かせていた。

自分で育てた作物がこんなに美味しいと知り、これまでの苦労が一瞬にして報われた気がした。

何度育ててもこの感じがたまらない。


「クレア嬢、上出来だ。この甘みは、クレア嬢が丁寧に育ててきた証だ」


ジョンさんもその一粒を口に入れ、喜ぶようにうなずいた。


「ところで、グレアス様にこれを届けるか?忙しいようだから、きっとこういう心のこもった一品に癒されるだろうな」


私は一瞬頬を染めてうなずいた。

グレアス様の顔を思い浮かべると、彼に喜んでもらいたい気持ちがさらに膨らんでいく。


「それなら、すぐに準備しましょう!あと、他の皆さんにも持っていきたいです。収穫を一緒に喜んでもらいたいんです。」


とうもろこしを小さな籠に入れて、いくつかを布で包んで準備を終えると、私はジョンさんと共に屋敷の中へ向かった。

長い廊下を歩きながら、私はとうもろこしを手にしてそっと微笑んでいた。

次第に胸の鼓動が高鳴り、グレアス様に渡したときの彼の反応を想像しては、少し緊張した気持ちになっていた。

やがて、グレアス様の部屋の前に到着した。

ドアをノックし、返事を待ってからゆっくりと中に入ると、彼は書類を片付けながら少し疲れた様子で座っていた。

その表情を見た私は、そっと籠を前に差し出した。


「グレアス様、お疲れ様です。これ…私が育てたとうもろこしなんです。良かったら、少しでも休息に役立ててもらえたらと思って…。」


グレアス様は驚いた表情を見せたが、すぐに柔らかな微笑みに変わった。

彼は籠を受け取り、とうもろこしの香りを楽しむように顔を近づけた。


「ありがとう、クレア。君がここまで手をかけて育てたものを食べられるとは光栄だ」


グレアス様がとうもろこしを一口かじると、甘い味わいが口いっぱいに広がったようで、彼は少し目を細めてその美味しさに浸っていた。


「こんなに美味しいとはな。クレアが大事に育てた成果だな」


その言葉に、私は顔を赤らめながらも、彼の反応に満足感を覚えた。


「私も頑張って育ててきた甲斐がありました。グレアス様に喜んでもらえるなら、それだけで嬉しいです!」


そんな私に、グレアスも優しく微笑み返した。

私たちはとうもろこしを共に楽しみ、自然と会話も弾んだ。

グレアス様と共にとうもろこしを味わいながら楽しい時間を過ごした後、私は名残惜しさを抱きつつもグレアス様の部屋を後にした。

廊下を歩きながら、その日の出来事を思い返すたびに、彼の微笑む顔や優しい言葉が心の中に深く刻まれていくのを感じた。


「少しでも、私が役に立てているのなら…」


そう自分に言い聞かせ、私はそっと笑みを浮かべた。

庭で育てたとうもろこしを通して、誰かに喜んでもらえることがこんなにも幸せなことだと、改めて実感していた。


──────────────────


その後数日が経ち、庭の季節は少しずつ進んでいた。

私は庭の手入れや新たな種の準備を進め、次の収穫に備えていた。

ジョンさんも相変わらず私を手伝いながら、共に植物の世話を楽しんでいる。

ある日の朝、私はふと庭を散歩しながら考え事をしていた。

次はどんな作物を育てようか、どの花が季節に合っているか、そんな小さな計画を立てるのが楽しみになっていた。

花の香りや草の感触が彼女に心の安らぎを与えてくれ、自然の中にいるときが一番幸せな時間だと感じていた。


「クレア嬢、次に植える作物はもう決めたか?」


とジョンさんが声をかけてくる。


「そうですね…実は、まだ少し迷っているんです。次はもう少し手入れのしやすいものがいいかもしれませんね。」


私は笑いながら答えた。

ジョンさんもその答えに笑顔を返し、二人はしばらく植物について語り合った。

その時ふと、遠くから聞き慣れた足音が近づいてくるのに気がついた。

振り返ると、そこにはグレアス様が立っていた。

彼は少し緩やかな表情で私を見つめている。

私は彼の姿に気付くと、思わず笑顔を浮かべながら駆け寄った。


「グレアス様、どうされたんですか?今日はお忙しいと聞いていましたが…」

「今日は少し早めに仕事を終わらせた。君が庭の手入れをしていると聞いたから、少し顔を見に来たくなってな」


その言葉に、私の心は温かくなった。

彼が自分のためにわざわざ時間を作ってくれたのだと思うと、自然と頬が赤くなるのを感じた。


「それなら…良ければ、一緒に庭を散歩しませんか?」


私の提案にグレアスはうなずき、二人で静かな庭の中をゆっくりと歩き始めた。

私はグレアスに対して、新しく育て始めた植物やこれから咲くであろう花について楽しそうに説明を始めた。

グレアス様もそれに耳を傾け、穏やかな表情を浮かべていた。

やがて庭の一角に差し掛かったとき、グレアス様はふと足を止め、真剣な表情で私を見つめた。


「クレア、君の努力がこうして形になって、たくさんの人々を喜ばせている。本当に素晴らしいことだ」

「ありがとうございます、グレアス様。でも、私だけじゃなくて、ジョンさんや皆さんが支えてくれたおかげなんです」


私は少し照れくさそうにしながらも、グレアスの言葉に心から感謝していた。

彼の優しい言葉が、私の心に深く響いていた。


「クレア、君と過ごす時間は本当に貴重だ。これからも君が育てる花や作物が咲き誇るこの庭で、共に幸せを感じられたらと思っている」


彼の言葉に、私の心は一層温かく包まれた。

彼の存在が、彼女にとって何よりも大切なものになっていることを改めて感じた。

そして、私たちはその日も穏やかな庭を歩きながら、未来の計画や夢について語り合い、静かな幸せを共有するのだった。

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