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第5話 説教王子

騎士団に連行された私たちは牢に入れられた。

……別々の。


「なんで一緒にしてくれなかったんですか!?」

「お前が何をやらかすかわかったもんじゃない!それに共犯の可能性のある人間を同じ牢になど入れておけるか!」


う〜ん、ど正論。


「一緒に入れると思ったのに〜!!」

「あのうるさい女はさておき。お前、名前はなんだ?」

「調べて知ってるんじゃないんですか?」

「偽名だろ?」

「偽名じゃないですって!」

「盗賊はよくそう言うんだよ」


マズい。

信頼値が下振れすぎてるな……

まぁ、それもそうか。


「盗賊じゃないんですって!」

「それもよく言う」

「なに言ってもダメじゃないですか!」

「その通りだ」


これ詰んだ?

私の人生ここで終わる?

せっかく貴族に生まれたのに?

それは嫌だなぁ……

最後の人生なのに。

すると1人の部下らしき人物が入ってくる。


「調査の結果、グレアス様の邸宅からドレスが数着無くなったことがわかりました!」

「そうか。お前はよりにもよってグレアス様の邸宅から奪ってくるとはな?あの方は恐ろしいぞ?歯向かった者は生きて帰れないとか言われているのだ。お前は死刑確定だな」



グレアス様ってそんな怖い人なの!?

今まで感じはぬるかったってこと!?

うわぁ……これ絶対怒られるやつじゃん……

私はガクッと肩を落とした。


「諦めろ。まぁ、命乞いでもすればお前ら2人俺のペットにでもしてやろう」


ニヤニヤとしながら言ってくる。

すると外から。


『ちょっと!お待ちください!』

『危険です!』

『どけ』

『『うああっ!』』


外にいた見張りが倒され、ドアが開かれた。


「貴様、今何と言った?」


怒気の籠もった声で言う。


「グ、グレアス様!?いや、今のは言葉の綾でして……命乞いをすれば私が保護してやると言いたかったのです!」

「ほう?先ほどの貴様の声からは下心が滲み出ていたが?」

「気のせいでしょう?それより、この2人をどうしますか?」


話題をすり替えて、難を逃れる。


「今すぐ釈放しろ」

「は?しかし、アイツらは盗賊で……」

「聞こえなかったか?今すぐ、釈放、しろ!」

「ですが……」

「はぁ……」


グレアス様はため息を吐き。


「このワンピースの可愛らしい女性は私の婚約者だ。今朝、脱走したので探していたのだ」

「は?」


状況が呑み込めないとばかりに目をパチクリさせている。


「クレア。街へ行きたいならそう言え。突然いなくなられては心配だ」

「す、すみません……」

「それから貴様。今日をもって騎士団長を解任する。部下もまとめてやめてもらう」

「なんですと!?」

「ちょっとグレアス様!?」

「先ほど、あの男の部下がソフィーを尋ねてな?その時、ソフィーがちゃんと説明したのだ。“ドレスが無くなったのは本当だ。でも、その件はおそらくクレアの仕業だ”とな。だが、その部下はドレスが無くなったというところで立ち去っていったそうだ」


そんなことがあったんだ……


「人の話を碌に聞かない奴らに騎士団長が務まるとは到底思えない。よって、本日をもって解雇だ」


グレアス様の言葉に崩れ落ちる。

そして、崩れ落ちた男に近づき、懐から牢の鍵を奪い取る。


「今開けてやる」


グレアス様によって私たちは解放された。


「お前も、クレアを庇ってくれたと聞いた。感謝する。それとうちのお転婆な婚約者が迷惑をかけたな」

「と、とと、とんでもないです!」

「私からも謝罪を。巻き込んでしまいすいませんでした」

「お前に褒美をやろう。何かひとつ望みを言え。どんな望みも叶えてやろう」

「望み……」


ミーシャさんは手を顎に当て、“う〜ん……”と考える。

すると何かを閃いたのか明るい表情になる。


「では、私をクレア様の専属メイドにしてください!」

「え!?」


ミーシャさんの顔を見て驚いていると。


「よし、いいだろう」

「え!?」


グレアス様の言葉に振り返って驚く。


「いずれクレアにもソフィーのような専属が必要だと考えていた。あの中から選ぶつもりだったが、コイツなら信用に値すると思った。だから、許可した。何か不満はあるか?」

「そんな言い方されたら何も言えないじゃないですか……」

「だそうだ。よかったな」

「はい!」


ミーシャさんは終始ニコニコだった。

大丈夫だろうか……

一抹の不安を抱えながら、帰路についた。




「クレア様!心配しましたよ!」


屋敷に戻れば、従者一同が私に寄ってそう言ってくる。


「それで、そちらの方は?」

「本日より、クレア様の専属メイドになりました、ミーシャです!よろしくお願いします!」


ミーシャは元気よくそう挨拶する。


「ソフィー。彼女にメイドの仕事を一通り教えてやってくれ」

「承知いたしました。では、ミーシャさん。こちらへ」

「はい!」

「頑張ってくださいね!ミーシャさん!」

「はい!それとミーシャでいいですよ!」

「そうですか?」

「はい!」

「では、ミーシャ。頑張ってください!」

「もちろんです!」


ミーシャはサムズアップし、ソフィーさんと一緒にその場を去っていった。

私も疲れたし、お風呂入ってご飯食べて寝ようかな〜……

私が立ち去ろうとすると。


「待て」


そんな冷徹な声と共に肩を引き止められる。


「な、なんですか?」

「お前に話がある」

「私は疲れてるので明日にしていただけたりは……」

「しない」


うん。

これ怒られるやつや。

私は逃亡を図ろうと走り出す。

チラリと後ろを見れば追いかけてくる気配はない。

これは逃げ切れる。

そう思って前を見れば、壁だった。


「いたっ!!」


私は壁に激突し、倒れた。


「全く……お前は注意力が散漫すぎる」


私はグレアス様にお姫様抱っこされ、そのまま部屋に連れて行かれた。





「さて……話を聞かせてもらおうか」


私をベッドの乗せ、椅子に腰掛けたグレアス様が聞いてくる。


「まず確認させて欲しいことがある。今回脱走したのは私との生活が嫌になったからか?お前が嫌だと言うのなら2年も待たずに言ってくれて構わない」


真剣な表情で言ってくる。

だが、その瞳はどこか悲しそうだった。


「ないです!それはないです!」


私はしっかりと否定する。

すると悲しそうだった瞳が安堵し、嬉しそうなものに変わった。


「そうか。では、なぜ脱走した?」

「街を見てみたいな〜って思いまして……」

「私に言えば連れて行ってやったというのに、何故無断で行った?」

「理由は2つあります。1つはグレアス様と一緒に行くとお忍びになっちゃうからです。私はありのままで行動したいんです!もう1つはグレアス様、忙しそうだったので……お誘いするのは悪いかなと思いまして……」


嘘である。

今回の行動は完全に行き当たりばったりで何も考えずに行動した結果である。


「なるほどな。私を思っての行動だったわけか。私からすれば仕事などクレアに比べればゴミに等しい」


グレアス様は私の頬を触りながらそう言ってくる。


「行動の理由はわかった。では、何故お金を貰いに来なかった。ソフィーになり、誰かに言えば立て替えてくれただろう」

「それは……1人で色々出来た方がいいと思ったからです」


嘘である。

他の人にバレてしまってはグレアス様のお耳に入る可能性があったからである。

それを阻止するためにドレスを売り払った。


「しかし、まさかドレスを売り払うとは……簡単に足がつくんだぞ?」

「迂闊でした……」


本当である。

王家の紋章が入っているなど全く気付いていなかった。


「なんかすいません……」

「いや、気にするな。質屋にもう一度言って買い戻した」


さらっとそんなことを言ってのける。


「脅したりとか……」

「呆れた……私がそんなことをするわけがないだろう?」

「そうですね」


ちゃんと買い戻したらしい。

私が見ていないからと言って何も悪くない一般人を傷つけてしまっては私の中での印象が悪くなる。


「そうだ!」


私はカバンから買ったパンを取り出す。


「どうぞ!」

「これは?」

「街で見つけたパン屋さんで買ったんです!普段街になんて行く時間がないでしょうから、お土産です!」

「そうか」


グレアス様は袋を受け取ってくれる。


「感謝しよう」


そう言って紙袋からパンを取り出して口に運ぶ。


「美味いな。いい腕をしている」

「グレアス様ってどんな味が好みなんですか?」

「好みの味か……」


少し考える素振りをして。


「クレアの作る味、と言ったらズルいだろうか?」

「ズ、ズルいです……」


顔が熱くなるのがわかる。


「今朝、お前の料理を食べるまではソフィーの味付けや料理長のクックの味付けが好みだったのだがな。私の味覚を変えたのはお前だ」

「す、すいません……」

「謝る必要はない。それだけお前の料理が美味かったということだ。誇りを持つがいい」

「ありがとうございます!」

「だが、あれだけの腕が立つとは思わなかった。クレアは公爵だよな?」

「はい!今回はそうですね!」

「今回は?」

「いえ!なんでもありません!」

「そうか。まぁ、深く気にする必要はないか」


グレアス様は私に対する詮索をやめた。


「いいんですか?」

「ああ。気になりはするが、お前を苦しめるつもりはない。お前が話したいと思った時に話してくれ」

「……はい!」

「いい子だ」


グレアス様は私の頭を撫でる。


「子供扱いしないでください!」

「すまないな。背もそれほど高くないし、反応が小動物っぽいのでつい、な」

「なんですか?か弱いって言いたいんですか?」

「ふむ。あながち間違いではないな。お前のことは婚約者であり、必ず守るべき存在だと認識している。私が目を離したらすぐに消えてしまうのではないかと思うほどにな」


グレアス様は自身の手を見つめてそう呟いた。


「そういえば、グレアス様って私のことすごく大事にしてくれますよね」

「そうか?当たり前だろう?」

「私の環境が悪かったのかもしれませんが、いきなり誘拐まがいのことをするなんて、どれだけ私にゾッコンなんですか?何か理由でもあるんですか?」

「そうか……お前は覚えていないのか?」

「へ?」


何か忘れていることでもあるのだろうか。


「私とお前は一度会ったことがある」

「そうですか?」


記憶に無い……

本当にいつの話をしているのだろうか。


「そうか……わかっていたことだが、改めてわかると、私としてはものすごく残念だ」

「すいません……」

「まぁ、いいだろう。話せば思い出すかもしれないしな」


そう言ってグレアス様は語り始めた。

私との本当の初めての出会いを。

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