「よし!」
塀から飛び降り、無事に着地する。
「じゃあ、街へレッツゴー!」
私は1人、ルンルン気分で街へと繰り出した。
まず、お金を持っていないので私のものになったドレスを何着か売り捌きに行く。
「質屋はどこかな〜……」
今回は目立たないようの貴族が着なさそうなシンプルなワンピースを着ている。
これは私服として与えられたものだ。
だから目立っていない。
………めちゃくちゃ視線感じるんですけど。
道を歩けば、すれ違った人が全員私を見てくる。
なんで!?
そんな時、そのうち1人が。
「可愛すぎる……」
そう呟いた。
「!?!?」
それに動揺して段差に躓く。
「うわっ!」
「危ない!」
その人が私を掴んでくれたことで転ばずにすんだ。
「あ、ありがとうございます……」
恥ずかしすぎるっ!!
転ぶところ見られるとか生きていけないっ!!
「可愛くてドジとか最高か?」
「え?」
「いや!なんでもないです!」
そうだ!
この街の人に聞けばすぐにわかるじゃん!
「あの!」
「なんでしょうか?」
「質屋ってどこですか?」
「ここをまっすぐ行って右に曲がったらありますよ!」
「ありがとうございます!」
私はその人に踵を返して、足早に立ち去った。
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「ここかな……」
私は質屋の扉をそっと開ける。
「いらっしゃい」
「あの、買取をお願いしたいんですけど……」
「見せてみな」
「はい!」
私はカバンからドレスを数着取り出す。
「……っ!?」
鑑定していたおじさんの瞳孔が開く。
「アンタ、何者だ?」
「私ですか?私はクレアと申します」
ドレスの裾を摘み、カーてシーの体勢で挨拶する。
「クレア……聞き慣れない名だな……このドレスは盗んだものか?」
「貰ったものです」
「そうか。わかった。では、これで買い取ろう」
そう言って金貨50枚を出してくれる。
「え!?こ、こんなに!?」
「ああ」
想定としては金貨2枚くらいだったのだが……
まぁ、貰えるものはもらっておこう。
「ありがとうございます!」
私はお礼を言って質屋を後にした。
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「さ〜て、どこに行こうかな……」
この街はすごい。道はレンガで綺麗に舗装され、街灯も定期的に立っている。
さらには様々な食べ物の匂いが混ざり合い、お腹を空かせてくる。
「まずはご飯かな!」
私はスキップしながらご飯屋さんへと吸い込まれるように入っていった。
「何名様でしょうか?」
「1人で〜す!」
「かしこまりました。あちらの席にどうぞ」
案内された窓際の席に座り、メニューを見る。
「ふむふむ……」
なかなかバリエーションに富んだお店らしい。
煮物、焼き物、蒸し物などなど様々な調理方法を用いた料理がある。
しかも、使われている食材も肉、魚、野菜、山菜、海藻など非常に種類が多い。
これは優良店なのではなかろうか。
「それにしても……」
外からの視線が突き刺さるっ!!
なに!?
本当に見られすぎでしょ!?
そんなに珍しいか!?
これが動物園で展示されてる動物の気持ちか……
「はぁ……」
「お客様、日差しがお強いと思うので、遮らせていただきますね?」
そう言ってブラインドをおろしてくれる。
店員さん神か!?
「あ!注文もいいですか?」
「はい、もちろんでございます!」
「じゃあ、この海鮮グラタンで!」
「かしこまりました」
店員さんは注文を取り、去っていった。
それから20分ほど待てば、店員さんが持ってきてくれる。
「お待たせいたしました!海鮮グラタンになります!」
「ありがとうございます!」
お腹ぺこぺこなので私は海鮮グラタンをがっついていく。
貴族らしくもない食べ方で。
「おいひ〜!」
あっという間にペロリとたいらげた。
「ふぅ〜……満足満足!」
お会計をしようと思った時、食器が床に落ちる音がした。
何事かと思い、覗きに行けば。
「しっかりして!」
男性が1人倒れていた。
「どうしたんですか!?」
「海鮮グラタンを食べていると急に……」
私は海鮮グラタンを見る。
「イカか!」
私はすぐさま男性の左右の肩甲骨の間を手のひらの付け根で力強く何度も叩く。
「出ない!背部叩打法ではダメか!」
私はすぐさま男性の後ろに立ち、ウエスト付近に手を回しておへその位置を確認する。
次に、もう一方の手で握り拳を作り、その親指側をおへそより上、みぞおちより下に当てる。
おへそを確認した手で握り拳を握り、素早く手前上部に突き上げる。
「出てこい!イカ!」
3回ほどやった時、イカが吐き出された。
「ゲホゲホゲホッ!!」
「大丈夫ですか?呼吸はちゃんと出来ますか?」
男性は私の言葉に頷いた。
「よかった……」
「あなたっ!!」
男性の妻は男性を抱きしめる。
「さっきのでもしかしたら内臓にダメージがあるかもしれないので、一応医者か、回復魔法の使える人に見てもらってくださいね」
「はい」
「本当にありがとうございました!!」
「いいんですよ!人の命を助けるのが医者の仕事ですから」
私はそう言ってカッコつけて会計し、去ろうとして。
「あたっ!」
ドアにぶつかった。
自動ドアじゃなかった……
そんな様子を見て、店内にいた人は微笑んでいた。
「うぅ……」
かっこよく決めたかったのに……
私は恥ずかしさで顔から火が出そうになりながら、ご飯屋さんを出た。
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私が執務室で仕事をしていると、部屋の外が騒がしい。
「全く……人が仕事をしているというのに」
俺は執務室のドアを開け、近くにいたソフィーに声をかける。
「何事だ。うるさくて仕事に集中できないのだが」
「坊っちゃま!」
「何があった?」
「クレア様がどこにもいらっしゃらないのです!部屋のドレスも数着なくなっています!」
「なんだと!?」
あのそそっかしい娘は一体どこに行ったのだ……?
まさか、この生活がもう嫌になってしまったのか!?
無愛想に振る舞いすぎたのだろうか……
もう少しちゃんと構えばよかったのだろうか……
「私も探す」
「ですが坊っちゃま、お仕事が……」
「そんなものは知らん。私にとっては仕事よりもクレアの方が大事だ」
私はすぐさまクレアを探しに出かけた。
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「たくさん種類があるなぁ〜……」
私はお花屋さんに来ていた。
見ているのは種だ。
「ん〜……これからの時期、旬なのはこっちだし……でも、あの土壌だとこれも捨てがたい……」
花ではなく野菜だが。
今の暮らしはグレアス様に言えば、なんでも揃う。
だが、それでは味気ない。
人情に触れられないし、自分で選んでこそ、こういうのは価値があるのだ。
「ん〜……」
手を顎に当てて悩む。
両方買ってもいいが、まずはお試ししないと失敗した時、勿体無い。
「お、お客様……?」
店員さんが恐る恐る声を掛けてくる。
「なんですか?」
「初心者にはこちらの方がおすすめですよ?」
「そうなんですか?」
「はい。これを育てることで土の良し悪しを見分けることができるんですよ」
それは知っている。
私だって庭師初心者ではない。
そこそこ経験はある。
だが、確かに久々にやるからまずは土の良し悪しの確認からの方がいいか。
「じゃあ、店員さん!こっちお願いします!」
「はい!かしこまりました!」
花屋さんを後にし、今度はパン屋さんへと入る。
「いらっしゃいませ〜!」
「ん〜!いい匂い!」
店内は明るい雰囲気で、よくあるパン屋さんと同じく、トングで取る方式だった。
パンの種類も豊富で、流石はお城の城下町である。
店内を物色し、購入したいパンを選んでいく。
みるみるうちにトレーの上でパンのタワーが出来上がっていく。
「全部美味しそうで減らせないよ〜!」
こんなにt買って食べたら太る気がする。
いやいや!その分運動すればなんとかなるでしょ!
そうだ!
グレアス様にもお土産買って帰ろうかな〜……
王子ってなかなか街を歩けないだろうし。
グレアス様ってどんな味が好みなんだろ。
辛いものだろうか、甘いものだろうか、それとも酸っぱいものだろうか。
未だに全然知らない。
帰ったら色々聞いてみるのもアリかもしれない。
もしかしたら一生のパートナーとなる可能性もあるし。
「ちゃんと聞いてみよう!」
私は1人で大体納得した。
「お持ち帰りでよろしいですか?」
「はい!お願いします!」
店員さんはリズミカルに、そして手早くパンを紙袋に入れてくれる。
「お待たせいたしました!またのご来店お待ちしております!」
会計を済ませると、店員さんが笑顔でそう言ってきた。
────────────────────────
「次はどこに行こうかな〜……」
私が街を歩いていると、急に武装した騎士たちに囲まれた。
「えっ?」
「お前だな?王家の紋章の入ったドレスを質屋に売ったのは」
「そうですけど……」
って、あれ王家の紋章入ってたの!?
全然気が付かなかった……
じゃないよ!
え、これもしかしてやばいパターン入りました?
全員が剣を抜き、剣先を突きつけてくる。
「おっと……」
「大人しく投降しろ。貴様の正体がわかるまで投獄する」
ちょいちょいちょい!!
これはマズいよ!?
相当マズイよ!?
そんな時だった。
「待ってください!その人は悪い人じゃありません!」
そう言ってくるのは転びそうになった時、支えてくれた女性だ。
「貴様、誰だ?」
「私はミーシャと言います!」
「ほう。それで?コイツが悪人で無いと言っていたな?」
「はい!」
「それを証明する証拠はあるのか?」
「ありません!」
ミーシャさんは自信満々にそう言った。
その言葉に場の全員が呆気に取られた。
「しょ、証拠ないのか?」
「はい!何もありません!私の主観で、悪い人じゃないと判断しました!」
「なんなんだ!ふざけおって!」
「ふざけてません!真面目です!」
腰に手を当てて憤慨する。
いや、そこじゃないでしょ。
「全く……お前も一緒に連行するぞ!」
「だったら一緒の牢にしてください!」
「何言っとんじゃ貴様は!」
「一緒の牢なら彼女の可愛さを堪能できると思うので!」
「知るかっ!!」
ツッコミに疲れたようで“はぁはぁ……”と息を切らす。
「ですから一緒に連行されましょう!」
「何言っちゃってるんですか!?」
この人、私を助けに来たんじゃないの!?
諦めるの早すぎじゃない!?
「全く……もういい!二人まとめて連行するぞ!」
「「「はっ!」」」
リーダーの命令を受け、部下たちが私たちの腕を掴む。
「え!?ちょっ、まっ!?」
「問答無用!王家の紋章の入ったものを売り捌くとは爪が甘いわ!盗賊め!」
「私盗賊じゃないんですってば!」
そんな私の言い分の一切聞かれることはなく、こうして私たちは騎士団によって連行された。