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婚約破棄された公爵令嬢は隣国の王子に溺愛される
Tokugawa
異世界恋愛ロマファン
2024年07月19日
公開日
92,408文字
連載中
クレア・シークエンスは公爵令嬢であり、幼い頃にロレアス王国王子のジュエルドと婚約をした。そんな彼女はジュエルドにふさわしくあろうと努力していた。だが、彼女の自由奔放な妹とジュエルドが恋をしてしまい、王子の18歳の誕生パーティーで婚約破棄を言い渡される。さらには両親までもがクレアを見捨てた。そんな人生最悪の日に出会ったのは隣国ジュベルキン帝国の王子グレアスであり、彼はクレアを婚約者にすると言い出して………。

第1話 婚約破棄

ガヤガヤと騒がしく、息苦しくなるほどの人が1つの場所に箱詰めになっている。

今日はロレアス王国王子ジュエルド・ロレアスの誕生パーティーである。

そんな中、1組の男女が会場にある壇上に上がり、その場の誰よりも大きな声で宣言した。

「皆!今日この場で発表したいことがある!」

男の言葉に全員の視線が集まる。

それを確認し、男は続ける。

「ジュエルド・ロレアスの名において、この場でクレア・シークエンスとの婚約を破棄し、その妹、レイル・シークエンスと婚約する!」

その衝撃的な発言に、私、クレア・シークエンスは絶句した。

「どういうことですか!?」

状況が呑み込めない私はジュエルド様に問いかける。

「どういうことも何も、俺はお前との婚約を破棄すると言ったのだ」

「そんな……」

7歳の時、私はロレアス王国の王子、ジュエルド・ロレアスと婚約した。

それから10年間、自分なりに彼の隣にふさわしい女性になろうと努力していた。

自由時間はほとんどなく、ずっと花嫁として、未来の女王としての教育を受けてきた。

その10年間の積み重ねが先ほどの一言ですべて水泡に帰してしまった。

私と婚約を破棄すると言って、新たに迎えた婚約者は私の妹だった。

妹のレイルは私と違い、普通の貴族の環境で自由に伸び伸びと育ってきた。

私とは真逆の人生だ。

「お姉さま、ごめんなさいねぇ?」

茫然としている私に憎ったらしい表情が映り込んでくる。

「お父様とお母様は承認したのですか!」

「当り前じゃないか。そんなこともわからないのか?」

その問いに、ジュエルド様は嘲笑しながら答えた。

「そうよ」

「ジュエルド殿の言うとおりだ」

私の背後から声がする。

バッと振り返ればそこにはお父様とお母様がいた。

「お父様…お母様……」

「馴れ馴れしく呼ぶな!」

「あなたはもう私たちシークエンス家の子ではありません!」

さらなる衝撃発言を受け、どうすればいいのか分からなくなってしまった。

「お前は魔法すら授かることの出来なかった出来損ない……いや、呪い子だ!」

「そんな不吉なあなたが私たちの家にいるなんて耐えられないの」

「だから出て行ってくれる?クレアさん?あ!出ていくも何も、荷物全部捨てたから何にもないんだった!あはははは!」

「捨てた……?」

「そうよ?あなたはもうシークエンス家の人間じゃないの。ゴミは処分するに決まっているでしょう?」

この人たちにとって私はゴミというわけらしい。

そうか……そう、か……

「分かり、ました……失礼します」

この数分に起こった濃密すぎる出来事により混乱していた私は転んでしまう。

それを見た貴族たちが嘲笑する。

私はヒールが脱げたことも気にせず、パーティー会場を後にした。

─────────────────────────────────────

パーティー会場を後にし、裸足のまま歩いているとポツリポツリと体に水が当たる。

「雨……」

そして、雨は本格的に降り始めた。

行き交う人は傘を差し、何も持っていないドレス姿の私を見て困惑していた。

歩き疲れたらしく、また転んでしまう。

ドレスもビショビショで泥だらけになり、公爵令嬢とは思えない。

「これからどうしよう……」

体に限界が来た私は道端に座り込んで、そう呟いた。

私に貴族は向いていない。

貴族としての作法を覚えるのにも人一倍時間がかかり、女王としての教育を受けていた時も定着するまでに何度も何度も復習したり、練習したりした。

私は天才ではない。

出来るのは貴族としてはほとんど使うことのない家事やらその他の知識。

「はぁ……」

私は1人ため息を吐いた。

寒いなぁ……

長時間雨に濡れていたことで体温が低下している。

このままじゃ低体温症で死ぬかも……

そんなことを思った時、突然、雨粒が体に触れなくなった。

「大丈夫か?」

そんな低く、男らしい声に思わず顔を上げる。

「え?」

目の前にはとんでもなく美しい男がいた。

「なぜ靴も履かずにこんな場所にいる」

「それは……」

「そんなことを聞くのは野暮でございます。坊っちゃま」

「そうか。それは失礼したな」

ペコリを頭を下げてくる。

「いえ…気にしないでください」

「それで、家はどこだ?送っていこう」

「家、ですか……そんなものは無いですよ。つい先ほど勘当されましてね。ははは……」

自嘲気味に言う。

「そうか。では、帰る場所がなく困っている、そういうことで間違いないか?」

「ええ…そこ通りです」

「そうか。なら、このまま私の家に来る気はあるか?」

「なんですか?慰めですか?」

「違う。そんな生半可なものではない」

「どういう意味です?」

「ふむ。遠回しに言えばいいと本には書いてあったのだが……違うのか……?」

男は顎に空いている手を当てて考える。

この人、何の本読んだんだろう。

「まぁ、いい。改めて言おう。私はお前に惚れた。お前を嫁に迎えたい」

「嫁……嫁ぇ!?」

思わず大声を出してしまった。

「随分と元気な奴だ。活きがいい」

「魚みたいに言わないでください」

「坊っちゃま、レディーに対して失礼ですよ」

「それは失礼した。それで、私と共に来る気はあるか?」

手を差し伸べてくれる。

ここに居たっていいことは何もない。

帰る場所もなければ、頼れる人間もいない。

だったらもう全てを一新するのもアリかもしれない。

「……行きます。行かせてください」

私はその手を取った。

すると、男はフッと口角を少し上げて。

「いいだろう。共に行こうではないか」

「早急に戻りますよ。坊っちゃま」

「ああ。彼女の体に触ってしまうからな」

男は60代前後の女性の側付きにそう言って、私を馬車の中に入れた。

「疲れているだろう。寝ていても構わん」

「わかりました……」

よほど疲れていたらしく、すぐに眠りについた。

────────────────────────────────────

「…きろ。起きろ」

体を揺さぶられ、馬車の中で目を覚ます。

「───っん、う〜ん……」

体を起こせば、自分が男の肩にもたれ掛かって寝ていたことに気づく。

「す、すす、すいません!!」

「別に構わん」

澄ました顔で言ってくる。

この人、私に惚れたとか言っていた割に全然ドキドキしている感じがしないんですけど?

え、私、おちょくられてる?

「お前、失礼なことを考えているだろ」

「そんなわけないじゃないですか!」

この人、思考を盗聴する魔法でも授かったのか!?

ここで少し魔法についての理解を深めておこう。

この世界の魔法は個人によって変化する。

一人ひとつの固有のものである。

「足元に気をつけろ」

男にエスコートされ、馬車を降りる。

「あれ?」

「どうかしたか?」

「すごく…豪華ですね。まるでお城のような……」

「まぁ、城だからな」

「えっ、今なんと?」

「だから城だと言ったのだ」

私は卒倒した。

─────────────────────────────────────

「まさか倒れるなどとは思わなかった。すまない」

「い、いえ……」

私も特に何も確認せずに着いてきちゃったし……

「それで、まだお名前を聞いていなかったのですが……」

「そうか。それは失礼したな。私はグレアス・ジュベルキンだ」

「ジュ、ジュベルキンって……」

「察しの通り、私はジュベルキン帝国王子だ」

「で、では、ここは……」

「ジュベルキン城だ」

「お、お城っ……!?」

今から何するの!?

「今からお前には私の両親と面会をしてもらう。そして、認められれば見事私の婚約者だ。認められずとも、この国で生きていけるように計らおう」

「あ、ありがとうございます……?」

どっちにしろ、この国に残ることは決定らしい。

「では、行くぞ」

「坊っちゃま、お待ちください」

「なんだ?」

「彼女を見窄らしい格好でお城へ上げてしまえば、彼女の印象が悪くなってしまいます。ですのでお着替えの時間を頂戴出来ますか?」

「確かに、それもそうだな。許可する」

「ありがとうございます。では、クレア様。こちらへ」

「え?」

私はそのまま更衣室へと連れて行かれた。

「ど、どうでしょうか?」

程よく装飾のされたドレスに着替えさせられた私はグレアス様に感想を求める。

「ふむ。よく似合っている。流石は私の惚れた女性だ」

「あ、ありがとうございます……」

自分で聞いておいてなんだが、これは相当照れる。

「では、行くぞ」

「はい!」

グレアス様に続き、お城へと入った。

城内は質素ではあるが、それでいて荘厳さを感じさせてくる。

飾らないのに威厳が感じられるいいお城だ。

……あそことは大違いだ。

あそこは馬鹿みたいにピカピカしていて目に悪い。

無駄にゴージャスにしているだけで品がない。

「着くぞ」

「は、はい!」

緊張する〜〜っ!!

そして、目の前の大きな扉が開かれた。

「「失礼します」」

私たちは王座の前に向かい、首を垂れる。

「グレアスよ。話とは何かな?」

王座にはジュベルキン帝国現国王ローベルト・ジュベルキン陛下と、その奥方で有らせられるハイレス・ジュベルキン女王陛下がいらっしゃった。

「父上、母上。私は婚約者候補を見つけて参りました」

「まぁ!あの女の子には毛ほども興味のなかったグレアスが!?」

ハイレス女王陛下は心底驚いたように、そして嬉しそうに言ってくる。

「母上、はしゃぎすぎです」

「だって、嬉しいんだもの!」

チラッと見ると、女王陛下はニコニコした表情で私を見ている。

「……とりあえず、其方の名を聞こうか」

「はい」

返事をして立ち上がる。

そして、自らのドレスの端を摘み、片足を斜めに引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、カーテシーの体勢を取り、挨拶する。

「お初にお目に掛かります。私はクレアと申します。以後、お見知り置きを」

「ふむ。家名はなんだ?」

やっぱり、聞かれるよね……

「私はロレアス王国から参りました。ロレアス王国にて実家と縁を切られ、追い出されて路頭に迷っていた時にグレアス様にお声を掛けていただきました。ですので、家名は持っていません」

「そうか……それは申し訳ないことを聞いてしまった。すまない」

「い、いえ!気にしないでください!私が、未熟だったせいですので……それに陛下が私なんかのために頭を下げる必要はないです!」

頭を下げる陛下に対し、慌ててそう言う。

それに対し、陛下は少しムッとした表情を浮かべて。

「自分を卑下する必要はない。其方と縁を切った実家がバカらしく思えるほど、其方は優秀だ」

「へ?」

思ってもいない言葉に思わず間の抜けた声が出る。

「この人の魔法は“鑑定”なの!鑑定した人の人となりなんかがわかるのよ?」

「そ、そうなんですね……」

「クレア。君が良ければなんだが、追い出された実家の名前を教えてくれないか?」

「え、えっと……」

「大丈夫よ。この人がその家をどうこうするつもりは無いから」

「……シークエンスです」

「まさか……ロレアス王国の婚約者か!?」

陛下は立ち上がって言ってくる。

「“元”ですが……」

「そうか……」

陛下は少し沈黙して、再び口を開く。

「───もう一度言うが、君は優秀だ。自分を卑下する必要など無いほどに。だから、君さえよければ是非ともグレアスの婚約者になって欲しい」

「私からもお願いしちゃう!あのグレアスが連れてきたレディーですもの!最高に決まってるわ!」

「買い被りすぎだと思いますけど……」

「では、返事を聞かせてもらおう」

ここで“はい”と返事をすれば、これからの人生は安泰になる可能性が高い。

まぁ、前回みたく婚約破棄される可能性は十二分にあるが。

そう簡単には決められない。

何せ、向こうはずっとポーカーフェイスで表情一つ変えない。

本人は“惚れた”と言っていたが、本当なのだろうか。

私を嵌めるための罠の可能性もあるのではないだろうか。

それに私は別に今現在彼に惚れているわけではない。

怒られるかもしれないけど、言ってみるか。

「一つ、提案があります」

「提案……?」

「これから2年の間時間をください」

「ほう」

「今の私はグレアス様のことについて何も知りません。この国についても同様です。ですから、この2年で結婚するかどうか決めさせてください」

「“結婚”するかどうかを決めるのだな?」

「はい。ですので、婚約者として発表してもらって構いません。そして、2年後、私が嫌だと判断した際にはグレアス様が婚約を破棄したということにしましょう。そうすれば、私がダメだったというだけで済みますから」

「それでいいの?」

「はい。傷つく覚悟ならとっくに出来ています」

「そうか……」

陛下は少し悩んだ表情をする。

まずったか……?

「わかった。確かにクレア、君の言う通りだ。グレアスにここに連れてこられただけでは何もわかるまい。じゃあ、今日からグレアスの家に住むといい」

「えっ?」

「二人の方が安心できるだろう?」

「そうね!むしろ孫の顔を見せてもらってもいいのよ?」

「えっ?えっ?」

自分の顔が熱くなっていくのがわかる。

「父上、母上。クレアを揶揄うのはおやめください。彼女が間に受けているでは無いですか」

「え!?」

「うふふふ。ごめんなさいね?可愛いからつい、悪戯したくなっちゃうの!」

「だ、大丈夫です!」

「私も詫びよう。すまなかった。では、グレアス。クレア嬢をお前の屋敷に連れて行きなさい」

「はい。失礼します」

「失礼します!」

グレアス様からワンテンポ遅れてそう返す。

「では、行こうか」

「はい!」

陛下と女王陛下に踵を返し、私はこの国での新たな一歩を踏み出した。

「うわあっ!」

ドレスの裾を踏み、盛大にずっこけたのだが。

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