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第100話

そして私の話になる。私はフェイロン様と出会った時の事や、それからの二人の歩みを話し出す。二人きりでの初めてのお茶会、薔薇園での密会、二人だけのピクニック、ボートの上での告白、戴冠式後のプロポーズ…。話していると皆がうっとりと聞き入っている。


「あぁ、何てフェイロン様は素敵なんでしょう。」


そう言ったのはロベリアだった。


「本当ですね、何てロマンティックなんでしょう。」


そう言ったのはソフィア。


「二人だけのピクニック、私もディアス領で実践しようかしら。」


そう言ったのはお姉様だ。皆で顔を見合わせて笑い合う。


「私も混ぜて頂けるかしら。」


そう言って現れたのはデルフィーヌ様だった。皆が立ち上がりかけるとデルフィーヌ様が言う。


「良いのよ、無礼講で。」


そう言って微笑むと、ソフィアの隣に座り聞く。


「子女だけで何をお話していたの?」


聞かれて皆が恥ずかしそうにする。


「その…恋のお話を…」


ソフィアがそう言うと、デルフィーヌ様がクスっと笑う。


「そうなのね、私の息子たちの武勇伝を聞かせて貰えるのかしら?」


そう言って微笑むデルフィーヌ様も楽しそうだった。


「もちろんです。ですが、先にデルフィーヌ様のお話も伺ってみたいですわ。」


ロベリアがそう言うと、デルフィーヌ様が笑う。


「私の話を?退屈しないかしら?」


皆がデルフィーヌ様を見る。デルフィーヌ様が前国王陛下とのお話を始める。




日が傾き始める。そろそろ、ガーデンパーティーもお開きになる時間だった。子女だけでのお話はかなり盛り上がり、次も是非にと、子女だけでお茶会を開くお約束をした。


「楽しかったかい?」


フェイロン様にそう聞かれ私は微笑む。


「えぇ、たくさんお話出来て。」


ガーデンパーティーの参加者たちが帰って行くのを見送る。


「エリアンナ嬢とも和解したんだね。」


そう言われてフェイロン様を見上げる。


「はい、お姉様はもう大丈夫です。」


フェイロン様が聞く。


「大丈夫とは?」


そう聞かれて私は微笑む。


「お姉様にはウォルターが居ます。人を導くのは愛なのです。」


フェイロン様は私のその言葉を聞いて頷く。


「そうだね、私もリリーからの愛に導かれて、ここに居るんだから。」


フェイロン様と手を繋ぐ。


「私もフェイロン様の愛に導かれて、今こうしてあなたの隣に居ます。」


二人で顔を見合わせ微笑み合う。




ガーデンパーティーの後片付けをしながら、思いを馳せる。リリー様がお幸せになられて本当に良かった。幼い頃からリリー様を見守り続け、教えられる事は全て教えて、陰日向にお支えして来た甲斐があった。


「キトリー、陛下がお呼びだ。」


セバスチャンにそう言われて、私は返事をする。


「すぐに。」


何の話だろうか。そう思いながら。




部屋にキトリーが来る。


「お呼びでしょうか、陛下。」


キトリーにそう聞かれて私は言う。


「キトリー、君には感謝している。」


そう言うとキトリーが驚いた顔をする。


「まだ幼かった私に付き従い、私の命じるままにモーリス家へ行き、リリーの支えになってくれた事、そして何も知らなかったであろうリリーに読み書きを教え、東部に来るまでには計り知れない苦労もあっただろう。」


私の言葉にキトリーが涙している。


「勿体ないお言葉にございます。」


キトリーがそう言う。


「君には感謝と共に、これからも変わらず支えて貰いたいと思っている。」


私がそう言うとキトリーは涙を流しながら言う。


「もちろんでございます、私でお役に立てるのなら。」


そんなキトリーに微笑む。


「君はリリーにとって大事な人だ。もちろん、私にとっても。乳母のような役目を果たしてくれていると思っているよ。」


セバスチャンがトレーを持って私に近付く。そのトレーの上には勲章がある。


「キトリー、君にこれを授けよう。」


トレーの上にある勲章は「佐韋さい褒賞」と呼ばれるもの。佐韋さいは百合の別名であり、国花の百合を冠したこの勲章はこの国では最高の勲章である。


「さぁ、立って、キトリー」


私がそう言うとキトリーが立ち上がる。キトリーに近付き、勲章をキトリーに授ける。キトリーは勲章を受け取ると、深々とお辞儀する。


「有り難き幸せにございます。」


キトリーの肩に手を置く。


「これからもキトリーの働きには期待している。リリーを、そしてこの国を支えてくれ。」




キトリーが部屋を出て行き、セバスチャンがお茶を入れてくれる。


「喜ばしい事ですな。」


セバスチャンがそう言う。


「ん?勲章の事か?」


聞くとセバスチャンが頷く。


「はい、左様でございます。キトリーも喜んでいるでしょう。」


お茶をいれてくれているセバスチャンに言う。


「お前にも勲章をやろうか。」


セバスチャンはクスっと笑って言う。


「いいえ、それには及びません、私は陛下にお仕え出来ているだけで。」


そう言うセバスチャンの胸元や肩には所狭しと勲章が揺れている。


「お前に勲章をやるなら、既に貰っている勲章を外さないといけないな。」


そう言って笑う。


「女性が勲章を授かるのはこの国始まって以来です。」


セバスチャンが言う。


「そうだったか。」


聞くとセバスチャンが頷く。


「はい、陛下。」


そう言われて考える。


「これからは女性にもどんどん、活躍の場を設けないといけないな。」


セバスチャンが微笑む。


「それは良い考えですね、陛下。」




フェイロン様と私は王宮の庭園の中を歩いていた。導かれるように、以前から何度も訪れている月桂樹の庭へ来る。


「ここは本当に不思議な場所だな。」


フェイロン様がそう言う。


「えぇ、そうですね。」


そう言いながら、ふと月桂樹の根元に目が行く。初めてここへ来た時に見つけた小さな石碑。見ようと思った時にフェイロン様にお声を掛けられて、良く見ていなかった石碑。ふと私の体から光が溢れ出し、二人を包む。そしてその光はキラキラと反射しながら、小さな石碑の元へたどり着く。石碑は光に包まれ、そこに文字が浮かび上がる。フェイロン様と顔を見合わせ、頷き合う。フェイロン様が私の手を取り、手を繋いだまま、石碑を見る。


その石碑にはこう書かれていた。


〖白百合乙女と黒い騎士が互いに手を取り合い結ばれた暁には国がその後も繁栄していくであろう〗


フェイロン様と顔を見合わせ、微笑み合う。更に光は石碑の隅に書かれていた手書きの文字を光らせる。


〖フェイロン、リリー 共に手を取り合い、仲睦まじく過ごさん事を願う      初代王グレゴール〗


フェイロン様が私の手の甲に口付ける。そして私を引き寄せ、抱き寄せる。引き合うかのように唇が重なる…



きっとこの国は繁栄していく。私とフェイロン様がフィリップ様とソフィアを支えて━━━



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