「皆が和解の道を進んでいるな。」
飲み物を片手にそう言うと、隣に居たソフィアが微笑む。
「そうですね。」
そんなソフィアに私は囁く。
「次の慶事は何かな。」
ソフィアは驚いて私を見て、そして頬を染めて俯く。
「国王陛下、妃殿下には刺激が強すぎます。」
そう言って現れたのは母上だ。
「母上。」
そう言って母上に頭を下げる。
「お止めなさい、国王が頭を下げるだなんて。」
母上はそう言って笑う。母上の胸にもオレンジ色の薔薇が挿されている。
「ソフィアは頑張っていますのよ、王として王妃を労わり、その大きな愛で包むのも大事なお役目です。」
母上にそう言われて私は苦笑いする。
「母上の言う通りですね。ついこの間もリリーから進言されました。」
母上が離れた場所に居るリリーを見る。
「リリーは本当に成長しましたね。ここに来た当時はオドオドしていて、見ていてこちらが不安になった程です。」
リリーはフェイロンの隣で微笑み、楽しそうに姉上であるエリアンナと談笑している。
「えぇ、全くです。リリーは成長しました。」
リリーは今や、白百合乙女として、立派にその役目を果たしている。
「我が息子が二人とも健勝で、二人ともが国を支える為に尽力しているかと思うと、本当に嬉しいわ。」
母上は目を細めてそう言う。
「母上。」
呼び掛けると母上が私を見る。
「母上が断腸の思いでフェイロンを王宮から出した事は、その当時としては英断だったと思います。」
双子の妹や弟が忌み子とされた慣習の中で、母上も父上も辛い決断だっただろうと思った。
「そして病弱な私をその大きな愛で包んでくださった事、更にはフェイロンを再び王宮に迎え、王子として復位を認めて下さった事は感謝に堪えません。」
母上は私の言葉を聞き、その瞳に涙を湛える。
「父上が危篤状態で、その決断を下すのは母上にしか出来なかった事です。忌み子として生まれたフェイロンを王宮から出し、その息子を再び迎え入れるという決断は、民の理解を得られるとは限らなかったのですから。更に言えば、フェイロン自身にも受け入れられるとは限らない中、フェイロン自身もまた真っ直ぐに育った結果、私を支えるという決意を持って、第二王子という立場を受け入れてくれた事、これもまた、奇跡と言って良いでしょう。」
涙を湛える母上にハンカチを差し出す。
「本当に幾重にも奇跡が重なり、今のこの平和な時があるのです。」
母上が私の渡したハンカチで涙を拭う。
「その柱となったのはやはり、リリーでしょう。」
リリーを見る。リリーは楽しそうに、そしていつの間にか皆に囲まれている。
「リリーが居なければ私は今、こうして立っている事も出来なかったでしょうし、生涯の伴侶となるソフィアとも親交を深める事も無かったでしょう。いつ消えるかも分からない命の灯に怯え、部屋に閉じこもって、執務など、出来なかったに違いありません。そして。」
リリーの隣で微笑むフェイロンを見る。
「フェイロンという人間が居なければまた、結果は違っていたかもしれません。」
母上に視線を戻す。母上は泣いているのか、笑っているのか分からない、そんなお顔をされている。
「私は自分に兄弟が居ると知って、本当に嬉しかったんです。そしてその弟と共にこの国を動かしている今は、本当に幸せです。フェイロンは歪む事無く、真っ直ぐに育ってくれました。誰の手も借りずに騎士団長にまでなった男です。まさに父上の血を受け継いでいると言っても過言では無い。」
母上に微笑む。
「そんな息子二人が、母上がお産みになった二人が、この国を支えているのです。母上には感謝しかありません。」
母上は涙を拭き、言う。
「あまり泣かせないでちょうだい。せっかくおめかしして来たのだから。」
不意にセバスチャンが母上に手を差し出す。
「お手をどうぞ。」
母上はセバスチャンの手に自身の手を乗せて、私に言う。
「少し席を外すわ。」
セバスチャンは母上をエスコートしながら、こちらをチラリと見て、ほんの少し会釈する。その様子を見てクスっと笑う。セバスチャンは本当に空気の読める男だ。
「陛下、ソンブラ様からお便りが。」
そう言われて侍従から手紙を受け取る。
「ソンブラか。」
ソンブラは一度、故郷に戻りたいと申し出て来て、許可を出した。必ず戻ると約束をして。手紙を広げて見る。そこには故郷に到着した事、故郷は昔よりも良くなっている事、そして会いたかった人物にも再会出来た事が書かれていた。
「ソンブラは何て?」
ソフィアに聞かれて微笑む。
「健勝にしているようだ。会いたかった人にも再会出来たと書かれている。」
そう言うとソフィアが考えながら言う。
「ソンブラの会いたかった人とは、どんな人なのでしょうね。」
確かにそうだなと思う。ソンブラと私はソンブラの故郷で出会った。ソンブラが私の窮地を救ってくれたのがきっかけだった。そして今までソンブラの過去には触れて来なかった。触れられたくない何かがあるのでは?と思ったからだ。
「あのソンブラが会いたがる人物だ、ずっと心の奥に居た人物かもしれないね。」
ソンブラにもリリーの加護が届いているだろうか。戻って来ると約束をしたのだから、きっとソンブラは戻って来る。もしかしたら自身のパートナーを連れて来るかもしれないと期待する。
「フェイロン殿下、リリー様をお借りしても?」
ロベリアがそう言う。フェイロン様は苦笑いして言う。
「あぁ、良いよ。」
そして私に耳打ちする。
「なるべく早くに戻って。」
私はそう言うフェイロン様に微笑んで頷く。ロベリアは私の手を引き、そしてお姉様にも声を掛ける。
「エリアンナ様も!」
お姉様もクスっと笑ってウォルターに何かを言い、私たちについて来る。
「ロベリア、どこに行くの?」
手を引かれながらそう聞くとロベリアが言う。
「子女だけでお話するんです。男子禁制ですわ。」
そしてロベリアは私を見て言う。
「王妃殿下を連れ出して頂けませんか?」
ロベリアのそんな提案に笑う。
「そうね、私が言えばきっとフィリップ様もお許しになるわね。」
ガーデンパーティーの隅で、子女だけが集まっている。年の近い者同士なのに、こうして顔を合わせるのは初めてだった。簡単な自己紹介を終えるとロベリアが言う。
「ここに居る皆さんは、それぞれパートナーがいらっしゃるでしょう?是非、お話をお聞きしたいと思って!」
そう言うロベリアはとても楽しそうだ。私の隣に座っているお姉様も微笑んでいる。
「まずはやっぱり、王妃殿下から!」
ロベリアがそう言うと、ソフィアが頬を染める。
「私から、ですか?」
モジモジしながらソフィアが語り出す。フィリップ様と出会った時の事、そして私の侍女となり、その間にフィリップ様とも距離が近くなっていった事、フィリップ様に想いを打ち明けられた時の事…。話を聞いて、心がときめく。そしてやっぱりフィリップ様はお心遣いの細やかな方だなと思う。
それからロベリアが自身の事を話し出した。ベルナルドとの話は聞いていて、こちらが恥ずかしくなるような、そんな話だった。お姉様もウォルターとの事を話し、ディアス領に行ってからの事も話してくれた。お姉様はディアス領ではご自分で馬の世話もしているそうだ。
「ご自分で馬の世話を?」
聞くとお姉様は優しく微笑んで言う。
「えぇ、馬は可愛がってあげればあげる程、懐いてくれるのよ?」
そう言うお姉様はもう王都に居た頃のお姉様とは違っていた。お姉様は私の手を取ると言う。
「いつかディアス領にいらっしゃい、馬に乗せてあげるわ。」
お姉様の手は働き者の手になっていた。ふわっと光が私から溢れ出し、お姉様を包む。それを見てお姉様が微笑む。
「ウフフ…ありがとう。」