『親愛なる妹 リリアンナへ
元気に過ごしているかしら。
私はディアス領に到着して、荷解きをし、ウォルターと共に毎日、充実した日々を過ごしています。
ご両親への挨拶は少し緊張したけれど、ウォルターが上手く話してくれて、無事に済みました。
こちらは王都とは違って、緑も豊かで、ここ最近はずっとウォルターと馬に乗って遠出しています。
こんな私を受け入れてくれたウォルターとそのご両親には感謝しか無いと思っています。
そしてリリー、あなたには本当にすまない事をしたとも思っています。
こちらにある小さな神殿で祈りを捧げていると、時折、体中が温かい光に包まれる事があって
それを感じると、あなたの偉大さと懐の深さを感じて、涙が出ます。
こんな姉でごめんさないね。
いつか、ディアス領にも来て貰えたらと、思います。
その時には王都に居た時とは違う、逞しい私をリリーにも見せられるように
そしてこんな私でも幸せになって良いと教えてくれたウォルターに少しでも報えるように
一日、一日を大事に過ごして行きます。
リリー、幸せになってね、もう既に幸せかもしれないけれど。
いつか、あなたの姉だと胸を張って言える日が来ますように。
エリアンナ』
読んでいて涙が零れる。お姉様はウォルターと共に、元気に過ごしているようで安心する。お姉様の心を癒したのは私では無く、ウォルターだ。そしていつだったか、ロベリアが愛が人を導くと言っていた事を思い出す。お姉様の心を溶かしたのはウォルターからの愛だった。お姉様も私と同様に人から愛されたかったのかもしれない。お姉様が馬に乗り、ウォルターと共に遠出しているなんて。それを想像して少し笑う。いつか、逞しくなったお姉様とも会いたい。二人でたくさんお話をして、一緒に眠る、そんな事を想像する。
婚礼の儀の当日。
テイラーが大急ぎで仕上げてくれたドレスに袖を通す。真っ白なドレス、繊細な刺繍。フィリップ様との婚約式の時は金色の糸で刺繍を仕上げてくれたテイラーは、今回のドレスは銀色の糸で刺繍を仕上げてくれていた。フェイロン様の髪と瞳の色…。長いヴェールは小さな花々を散らしたような、色とりどりの花の刺繍がされていて、これを仕上げてくれた針子の人たちにも感謝だった。
王宮の中の神殿で、婚礼の儀が行われた。私の手を引くのは長い間、私についてくれたキトリーが、フラワーガールにはロベリアと、そしてこの為に駆けつけてくれたお姉様が担ってくれた。神殿の祭壇の前にはフェイロン様が待っている。美しい服を纏い、微笑んで私に手を差し伸べてくれる。誓いの言葉を互いに交わし、指輪を交換する。その指輪を運んでくれたのはセバスチャンだ。
「誓いのキスを。」
大神官様がそう仰る。フェイロン様が微笑んで私を抱き寄せる。瞳を閉じる。
「この後はガーデンパーティーになります、皆様、王宮の庭園の方へ!」
そう声掛けしたのはセバスチャンだ。
「では、庭園へ向かおう。」
そう言ってソフィアに手を伸ばす。ソフィアは微笑んで私の手に自身の手を乗せる。今回、リリーからガーデンパーティーの話を聞いて、少し驚いたが、リリーらしいなとも思った。堅苦しいものは全て取り払い、形式ばったものも排除した、皆が気軽に参加出来る、そんなパーティーだ。そしてそのパーティーには一つだけ決まり事があった。それはパートナーとなる人物とは、同じ花を身に付ける事。そしてそのパートナーが居ない者は母上がこよなく愛する薔薇を身に付ける事。私はソフィアと共に白百合を胸に挿している。セバスチャンはオレンジ色の薔薇を胸に挿している。
「お前はオレンジ色の薔薇なのか。」
私がそう言うとセバスチャンは少し微笑み、言う。
「オレンジ色の薔薇には幸多かれという花言葉がございます。皆様に幸多からん事を。」
いつも控えめにしているセバスチャンらしい選択だなと思った。
ガーデンパーティーにはたくさんの人が来てくれた。お姉様はウォルターと共に居て、胸には白いマーガレットが挿されている。王都に居た時よりは幾分、日に焼けただろうか。
「リリー様、こちらを。」
傍に居てくれたキトリーはそう言って飲み物を持って来てくれる。キトリーの胸にはオレンジ色の薔薇が挿されている。
「ありがとう。」
そう言って飲み物を受け取る。
「リリー。」
呼び掛けてくれたのはフェイロン様だ。フェイロン様の胸と私の胸にはブルースターが挿されている。初めてフェイロン様に贈って頂いた花だ。フェイロン様を見上げる。
「皆、楽しそうだね。」
そう言うフェイロン様は優しく微笑んでいる。
「えぇ、皆、楽しそうで私も嬉しいです。」
少し離れた所にはロベリアが居て、その隣にはベルナルドが微笑みながら話し掛けている。二人の胸にはピンクのチューリップが挿されている。
「花を挿すというアイデアは、とても良いね。」
フェイロン様が私の耳元でそう囁く。私は少し笑って言う。
「お慕いしている人とは、何か揃いにしたいものです。それが乙女心です。」
フェイロン様が私を抱き寄せる。
「揃いにしたいというのは、男にもあるよ。戴冠式の時の私のように。」
そういえばフィリップ様の戴冠式の時はフェイロン様と揃いの服だったなと思い出す。
「そうでしたね。」
フェイロン様は私を見下ろして言う。
「あの時は誰にもリリーを渡したくなくて、目に見える形でリリーは私のものだと表したくて、そうしたんだ。」
そんなフェイロン様に微笑む。
「私は最初からあなたのものでした、そしてそれはこれからもそうです。」
そう言うとフェイロン様が微笑む。
「リリー。」
不意にそう呼ばれて振り向く。そこにはお姉様が居た。
「お姉様。」
お姉様に向き合う。お姉様はディアス領に行ってそれ程、時が経っていないのに、何だか逞しくなったような気がする。お姉様の隣にはウォルターが微笑んでいる。
「王国の勇、フェイロン王弟殿下、並びに、王国の光、リリアンナ様にご挨拶申し上げます。」
ウォルターがそう挨拶する。その挨拶に合わせてお姉様も頭を下げる。そして頭を上げたウォルターが続けて言う。
「この度はご成婚、おめでとうございます。」
フェイロン様と顔を見合わせ、微笑み合う。
「ありがとう、遠くから良く来てくれた。」
フェイロン様がそう言うと、今度はお姉様が言う。
「妹の晴れの姿を見たくて、馳せ参じました。」
お姉様のお顔には曇り一つ感じない。
「お姉様に会えて嬉しいです。」
私がそう言うとお姉様も微笑む。
「私も会えて嬉しいわ。光り輝いていて、本当に綺麗。」
そう言うお姉様の指にはきらりと光る指輪があった。それを見て微笑む。
「次はお姉様の番ですね。」
私がそう言うとお姉様は目を丸くし、そして頬を染めて俯く。そんなお姉様をウォルターが包み込むように見つめ、微笑んでいる。
「ウォルター、私の次はお前の番か?」
フェイロン様がわざとそう聞く。ウォルターはクスっと笑って言う。
「私としてはいつでも歓迎なのですが、エリーがリリー様のご成婚を見届けてから、と言うので…」
お姉様は慌ててそう言うウォルターの腕を掴む。
「それは内緒にしてと、言ったのに!」
そんなやり取りをしている二人を見て、笑う。本当に想い合っている二人なのだなと実感する。