ソフィアと二人きりになる。
「何かお話が?」
聞くとソフィアが言う。
「リリー様の婚礼のお衣装を見たくて…」
そう言うソフィアが少し可愛く見える。きっと王妃教育で忙しくしているんだろうなと思う。
「リリー様。」
そう呼び掛けられてソフィアを見る。ソフィアは少し悲しそうに言う。
「私は確かに王妃になりましたが、リリー様にお仕えしていた事を忘れた訳ではありません。」
その表情を見て私は察する。きっとソフィアは自分の置かれている立場が変わった事で皆からの態度も対応も変わってしまって、それが悲しいのだろうと。
「ですからリリー様は私の中でリリー様なのです。」
私はソフィアの気持ちが良く分かる。私もここ、王都へ来て、前国王様に治癒をし、聖女として認定されて白百合乙女となって…その間、どんどん皆の態度が変わって行ったのだ。最初から優しかった人も居たけれど、明らかに私が白百合乙女になった事で変わった人も居る。
「でもソフィアは王妃様なの。」
私がそう言うとソフィアは私の手を取って言う。
「リリー様、どうかリリー様は今までと同じように…」
私は少し笑って言う。
「じゃあ、ソフィアの事はずっとソフィアと呼ぶようにします。」
ソフィアの顔に顔を近付けてコソコソと言う。
「でも正式な場ではそれは出来ないけれど、その時は心の中でソフィアと呼んでいると思ってね。」
ソフィアは笑顔になって頷く。きっと王妃教育をする毎日の中で、ソフィアも寂しい思いをしているのではないかと思った。自分を取り巻く環境が一気に変わり、皆の対応が変わってしまうのは仕方ないとしても。王妃となった事はとても喜ばしい事だし、ソフィア自身も自分が愛している人の伴侶となれたのはこの上ない喜びだろう。けれど立場が変わり、実際に自分が執り行わなければならない事、それがこの国を動かす事に繋がるという事は、計り知れない重圧もあるだろう。国を動かすという事はそれだけ重要で慎重でなければいけないのだから。それを人にそう思わせる事無く、こなしているフィリップ様は本当に素晴らしい人なのだと実感する。更にはフェイロン様も同じように広い視野と広い見識でフィリップ様を支えている。人として尊敬出来る御方たちだ。私はソフィアに言う。
「これからは私に祝福を貰うという事にして、時折、ここへ来るのはどうかしら。」
ソフィアは笑って頷く。
「それは良いアイデアですね。是非、そうさせてください。」
私たちは顔を見合わせて笑い合う。私が少しでもソフィアの心の拠り所になれれば良いなと思う。
「陛下、報告書にございます。」
セバスチャンがそう言って報告書を持って来る。
「ん、目を通そう。」
受け取って目を通す。
「リリー様のご加護が国中に広まっているようです。」
セバスチャンがそう言いながら、もう一部の報告書をフェイロンにも渡している。リリーは日々、怠る事無く、神殿で祈りを捧げていると聞く。報告書には我が国の東西南北の端にまでリリーの加護の力が広まっていると書かれている。
「やはり白百合乙女の加護は絶大だな。」
そう言うとフェイロンが微笑む。
「そうですね。」
そう言って微笑むフェイロンに言う。
「リリーの加護はひとえに、お前にもその功の一端がある。」
フェイロンは少し照れ臭そうにする。
「お前がリリーを心から愛し、心から慕い、支える事でリリーは更にその力を発揮するだろうからな。」
フェイロンが表情を引き締める。
「これからも変わらず、リリーを支えていくさ。」
そんなフェイロンに私は言う。
「あぁ、そうしてくれ。この国が未来永劫、繁栄し、平和である為に。」
私は白百合宮を出て、フィリップ様の執務室へ赴く。執務室の前でほんの少し待つと、扉が開いて、セバスチャンが微笑む。
「リリー様、どうぞ。」
中に入るとフィリップ様とフェイロン様がデスクで執務をなさっていた。
「執務中、失礼致します。」
そう言うと二人ともが顔を上げて笑顔になる。
「どうかしたかい?」
フィリップ様にそう聞かれ、私は言う。
「はい、ソフィアの事で少しお話が。」
そう言うとフィリップ様が手を止めて言う。
「聞こう。」
先程のソフィアとの事をフィリップ様に話す。フィリップ様は黙ってお話を聞き、聞き終わると少し息をつく。
「そうか、なるほど。」
フェイロン様が立ち上がり、私の横へ来る。
「ソフィアの事は承知した。私の方でも気に掛ける事にしよう。」
フィリップ様にそう言われて私は微笑む。
「そうして頂けると、ソフィアも安心すると思います。」
言うとフィリップ様が微笑んで言う。
「教えてくれてありがとう。これからも何かあればすぐに教えて貰えると助かるよ。」
フェイロン様が私を見下ろして微笑んでいる。
「フェイロン、リリーを。」
フィリップ様がそう言うとフェイロン様が言う。
「あぁ、もちろん。」
そう言って私をエスコートする。
フェイロン様にエスコートされて、白百合宮に戻る。
「フェイロン様、お仕事があるのでは?」
そう聞くとフェイロン様は微笑んで言う。
「大丈夫、心配しないで。兄上からもリリーを、と言われているからね。」
そんなフェイロン様に微笑む。確かにフィリップ様は私を、とそう仰った。白百合宮の中を歩きながらフェイロン様が聞く。
「婚礼の儀については、進んでいるかい?」
そう聞かれて私は微笑む。
「えぇ、それ程の規模では無いですし…」
そうは言っても決める事は多い。そのどれもが私の一存で動いてしまうのだ。そしてそれ以上にフェイロン様ご自身が決めている事も多いだろうと思う。
「フェイロン様も大変なのでは?」
そう聞くとフェイロン様が笑う。
「私は大変な思いはしていないよ。何を決めるにしても全てリリーとの事だからね。心が躍るよ。」
そう言ってしまえるフェイロン様を頼もしいと感じる。
「婚礼の儀が終わった後はガーデンパーティーで良いのかな?」
フェイロン様にそう聞かれて私は頷く。実はずっとガーデンパーティーをしたかった。そんな夢をここ、王宮で叶えられるなんて、こんな幸せな事は無い。
「ずっと夢だったんです…皆と一緒にガーデンパーティーするのが。」
そう言うとフェイロン様がクスっと笑う。
「そうか、リリーの夢が一つ叶えられるなんて嬉しいな。」
そして私の手の上にご自身の手を乗せて、言う。
「リリーの夢をもっと聞きたいな。」
フェイロン様を見上げる。フェイロン様は微笑んで言う。
「リリーの夢を一つ一つ、叶えて行こう。」
お部屋まで戻るとフェイロン様は執務にお戻りになった。キトリーがお部屋に入って来て言う。
「リリー様、お手紙が来ております。」
そう言って私に封筒を渡してくれる。差出人はお姉様だった。お姉様からお手紙が来るなんて。そう思い開けて読んでみる。