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第92話

建国祭の二日目。各地の聖女たちが一堂に会する。リリーを覗く九人の聖女たちが王宮の広間に集まっている。聖女たちそれぞれには既にリリーが白百合乙女である事は伝えてある。


「良く集まってくれた。建国祭という、この良き日に集まってくれた事、礼を言おう。」


私がそう言うと聖女たちがそれぞれに頭を下げる。セバスチャンが耳打ちする。


「陛下、リリー様がいらっしゃいました。」


扉が開く。フェイロンのエスコートでリリーが入って来る。今日のリリーはキラキラと金色の光を纏っていて、美しい。左右に分かれていた聖女たちが頭を下げている。リリーは私の前まで来ると、深々と頭を下げ言う。


「王国の太陽、国王陛下にご挨拶申し上げます。」


優雅な所作だった。初めて出会った時とは大違いだ。


「リリー、ここに集まってくれているのが聖女たちだ。」


そう言うとリリーが皆の方を向く。皆、リリーに見惚れているかのようだ。きっと神聖力を持つ者同士、感じ入るものがあるのだろう。


「リリー、いや、白百合乙女から皆に祝福を。」


私がそう言うとリリーは頷いて、皆の方を向き、祈り始める。リリーから金色の光が溢れ出し、瞬く間に光が広がり、キラキラと金色の粒が舞う。そこに居る聖女たちから感嘆の声が漏れる。それを見ていて何だか誇らしい気持ちになる。リリーは私にとって本当に妹のような存在なのだなと実感する。




広間に集まった聖女たちに祝福をしているリリー様を見て、俺は微笑む。出立の前にリリー様に会いに行き、祝福を頂いた。そして各地に居る聖女たちが集まるというこの場を見てから、出立しようと思ったのだ。キラキラ輝いているリリー様。その隣にはリリー様を愛おし気に見つめるフェイロン。そしてその様子を見て誇らしげにしているフィリップ国王陛下。その隣には微笑んでいらっしゃるソフィア王妃殿下。全てが完璧に、美しく整っていた。その様子を見て微笑み、俺は旅立つ。歩き出した俺にロッソとネーロがついて来る。


「お前たち、ダメだ。俺は遠く離れた所に行くんだ。」


フクロウのロッソが俺の肩に止まる。足に何かが巻き付いている。広げてみるとそれは手紙だった。


【ソンブラ

   この二羽をお前に預ける。必ず戻るように。  フィリップ・エゼルバルド】


それを読んで微笑む。フィリップ国王陛下の心遣いに感謝する。




各地の聖女たちと歓談する時間が設けられた。亜麻色の髪をした女性が私に言う。


「私は南部から参りました。白百合乙女様にご挨拶申し上げます。」


どこかぎこちないその所作を見て、何だか懐かしく感じる。ついこの間まで私も同じように挨拶さえもままならなかったのだ。


「ご挨拶ありがとう。緊張せずに楽にして貰って構いません。」


そう言うとその女性が少しほっとした表情をする。


「私は聖女という認定を受けていますが、私の力では病は癒せません。白百合乙女様のリリー様は病も癒せるとお聞きしました。」


そう言われて微笑むとその女性が言う。


「やはり私たちのような者とは違って、リリー様はその存在自体が光り輝いて見えます。」


そう言われて思い出す。王都へ来る前、小さな村の男の子にキラキラしていると、そう言われた事。


「ありがとう。」


そう返事をすると、すぐ横に居た女性が言う。


「私は北部から参りました。」


その女性は豊かなブラウンの髪を揺らして言う。


「以前、国王陛下が王太子様だった頃に一度、治癒をさせて頂きましたが、私の力では癒す事が出来ませんでした。」


そう言われてソフィアに聞いた話を思い出す。確か、治癒をした後、二日ほど、寝込んだ聖女が居た、と。


「あなただったのですね、お話は聞いています。」


そう言うとその女性は少し悲しそうに言う。


「お恥ずかしながら私は神聖力を使うと、寝込んでしまいます。」


私はそんな彼女の肩に触れる。触れた途端に私の手から光が溢れ出し、彼女を包む。


「恥ずかしい事ではありません。その力は誇って良いものです。」


そう言いながら私は自分も自身の力について誇って良いのかすら分からなかった事を思い出す。彼女を包んだ光は彼女の中に溶け込んで行く。


「場所を移そう。」


そう言ったのは歓談の様子を見ていたフィリップ様だった。


「席を用意してある。」




広間からの移動中、私をエスコートしていたフェイロン様に言う。


「ソンブラが私の所に来ました。」


フェイロン様は少し寂しそうに微笑んで言う。


「あぁ、故郷へ向かったと聞いた。」


そんな表情を見て私も心が締め付けられる。きっとフェイロン様とソンブラは互いに支え合って来た大切な仲間なのだろうと察する。


「必ず戻るとそう言っていました。」


そう言うとフェイロン様が私を見て微笑む。


「あぁ、そう聞いている。アイツの事だ。約束は違えないさ。」




窓から外を眺めながら、私は考える。自分はどうしたいのだろう。何をしたいか?なんて考えた事も無かった。


「エリアンナ様。」


声を掛けられ振り向く。ディアス卿が微笑んで言う。


「今日は各地に居る聖女様方がお集まりになっているそうですよ。」


そう言われて苦笑いする。私もここ王都では聖女として名を馳せた時期があった。自分の神聖力について、疑いもしていなかった。そしてそんな特別な力が使える自分に酔いしれていたのだ。


事の顛末を聞いた時に、私の使えていた力はリリーからの転移だと聞いた。リリーと共にお母様のお腹の中に居た時間が長かった事で、力が転移したのだと。それは一時的なものだという事も。


自分の手を見つめる。ほんの少し集中してみても自分の中から湧き出て来るような力は無い。以前は湧き出て来るような、そんな力を感じていたのに。


「エリアンナ様。」


呼び掛けられてディアス卿を見る。ディアス卿は少し微笑んで言う。


「よろしければ、お話でも致しましょう。」


そう言ってディアス卿は私をソファーへ座るように促す。その時にはもう私は諦めにも似た感情が沸き起こっていた。座るとディアス卿が聞く。


「エリアンナ様はどのような幼少期を?」


そう聞かれて私は笑う。


「私は幼い頃からお父様やお母様に可愛がられて来ました。」


そう、私は両親に可愛がられて来た。蝶よ花よと育てられたのだ。だからこそ、自分では何も出来ない。人並みに貴族子女のたしなみは出来るが、それだけだ。


「エリアンナ様のご興味は何に向いているのでしょう?」


そう聞かれ考え、そして少し笑う。


「私の関心事と言えば、今までは自身の身の振り方でした。それ以外にはほとんど何にも興味を向けて来なかったと思います。」


貴族子女のたしなみを人並みにこなし、聖女という肩書に依存し、その肩書を武器に少しでも高位の方とお近づきになれたら、とそんな事を思っていた気がする。ディアス卿が少し笑って言う。


「そうですか、でしたらそのご興味を私に向けてはどうですか?」


ディアス卿を見る。ディアス卿は少し胸を張り言う。


「私は何を隠そう、伯爵家の嫡男なのです。」


伯爵家…そう聞いて少し驚く。


「伯爵家の嫡男なのですか?」


聞き返すとディアス卿は微笑んで言う。


「えぇ、そうです。ですので家格も釣り合うかと。」


そう言うディアス卿に笑う。


「おかしな人ですね。」


言うとディアス卿も笑う。


「私は昔から変わっていると人に言われて来ました。伯爵家という出自でありながら黒い騎士になった変わり者でもあります。」



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