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第41話

昼食までの時間はずっとドレスのお直しの為に使われた。着替えをしている途中、パチンと指先に痛みを感じて、指先を見る。けれど何も無い。


「どうかされましたか?」


ソフィアに聞かれて私は首を振る。


「いえ、何でもありません。」




昼食を終え、私は国王様の元へ行く。ここ最近の国王様はご体調が回復して、日に一回、治癒をするだけで大丈夫だと仰るのでそうしている。国王様のお部屋に行くと国王様が笑顔で言う。


「挨拶などは良い。毎日顔を合わせているのだからな。リリアンナ、そなたはもう我が娘も同然なのだから、もっと砕けた態度で接してくれ。」


国王様のすぐ横に座るように促される。そこに座り、国王様の手に触れる。白い光が溢れ出し、その光が国王様を包む。国王様は目を閉じて言う。


「あぁ、本当にすごいのだな。先程まで溜まっていた疲れが無くなって行く。」


自分から溢れ出して来る白い光に感謝した。そして願う。


≪国王様のご体調がこのまま回復されますように。≫




昼下がり、諸事をこなしていた私にセバスチャンが言う。


「ソンブラが帰りました。」


手を止める。


「無事か?」


聞くとセバスチャンは笑顔で言う。


「もちろんでございます。」


セバスチャンがそう言った後、ノックが響き、入って来たのはソンブラだった。私は立ち上がり、ソンブラを迎える。


「良く戻った。首尾はどうだ?」


聞くとソンブラが懐から一枚の紙を取り出す。


「直接触れない方がよろしいかと。」


ソンブラも黒い手袋をしてその紙を持っている。すぐにセバスチャンが手袋を取り出し、私に渡してくれる。手袋をしてその紙を持つ。何も書かれていないように見える。


「どう見る?セバスチャン。」


セバスチャンも手袋をして、その紙を見る。


「ほぅ、なるほど。」


セバスチャンはそう言い、私を見て言う。


「少し準備して参ります、お待ちください。」


セバスチャンはその紙をソンブラ渡し、部屋を出て行く。


「潜入は首尾よく行ったか?」


聞くとソンブラが言う。


「潜入自体は容易いものです。ですが、得体の知れない何かを感じました。」


百戦錬磨のソンブラがそう言うのだ。


「例えるなら?」


聞くとソンブラが考えて言う。


「そうですね…“邪悪”“悪しきもの”」


邪悪、悪しきもの、か。クラーク卿がいかがわしい者たちとの繋がりがあるようだと言っていた事と辻褄が合う。部屋にセバスチャンが戻って来る。セバスチャンは大きなガラス製の皿を持っている。そのガラス製の皿を執務室の中央のテーブルに置くと言う。


「紙を。」


ソンブラが紙をセバスチャンに渡す。セバスチャンはその紙をガラス製の皿の上に置くと言う。


「ソンブラ、窓を開けてくれ。」


ソンブラが執務室の窓を開ける。それを確認したセバスチャンは懐から小瓶を取り出す。


「殿下、離れてください。」


セバスチャンにそう言われ、少し離れると、ソンブラが私の前に立つ。セバスチャンは小瓶の中の物をその紙に落とす。小瓶の中の物はどうやら何かの粉末らしい。粉末がパラパラと紙に落ちて紙に触れた瞬間、ブワッと煙が上がる。セバスチャンがその煙を扇いで部屋から追い出す。それを何度か繰り返し、紙が粉末で埋まる。セバスチャンが慎重に粉末の中から紙を取り出すと、文字が浮かんでいた。


「念の為、手袋は外さないよう、お願い致します。」


セバスチャンがそう言い、私に紙を渡してくれる。紙を見るとそこには何かの入手経路と流通経路、契約者の名が書かれている。紙は所々、煤けている。


「セバスチャン、一体、何をしたんだ?」


少し笑いながら聞くとセバスチャンは花瓶に生けてある花を取り出し、ガラスの皿を持ち上げて、その粉末を花瓶の中に流し込む。


「私がしたのは簡単な黒魔術の解除です。」


黒魔術と聞いて少し驚く。


「何故、分かった?」


聞くとセバスチャンが言う。


「その紙には、黒魔術の痕跡が見て取れました。長くこの仕事をしておりますと、色々な情報が入り、伝手が出来るものでございます。私の古い友人に黒魔術関連に強い者がおります。その者から簡単な解除法を聞いておりました。」


紙を見る。契約者にはやはり、モーリス伯爵の名がある。もう一つの名は煤けていて見えない。


「これが何の入手経路なのか、知る必要があるな。」


言うとソンブラが頷き言う。


「それに関しては俺が。」


セバスチャンに紙を渡す。


「今まで以上に慎重に動いてくれ。黒魔術が関わっているとなると厄介だ。」


そして気になって聞く。


「ソンブラ、何故、手袋をしろと?」


ソンブラが少し微笑んで言う。


「私はこの王都に来る前にリリー様から祝福を頂きました。この身にその祝福が宿っています。この紙は本物を反転させたもの、本物は伯爵邸にあります。そしてその本物に触れようとした際、私の指が弾かれました。」


ソンブラが自身の手を見て言う。


「指先に黒い粉が付いたのですが、その粉は白い光に包まれ、白く爆ぜたのち、白く変色してパラパラと剥がれて落ち、消えました。」


リリーからの祝福がソンブラを守ったのか。


「つまり、黒魔術がかけられているものは、神聖力と反発するという事か。」


ソンブラは自身の手を握り言う。


「恐らくは。」


腕を組んで考える。これは思っていたよりもリリーが我々を守ってくれる可能性が出て来たなと思う。


「殿下。」


セバスチャンに声を掛けられ、セバスチャンを見る。


「以前、リリー様が浄化をされたと聞きましたが。」


セバスチャンは花瓶を持っている。


「あぁ、ここへ来るまでの間で、病に苦しむ民を治癒した時に、滞留している空気を浄化したのでは無いかと、そう考えたが、それが?」


聞くとセバスチャンが微笑んで言う。


「では、リリー様に会いに参りましょう。ソンブラも新しく祝福を貰った方が身の為かと。」




ソフィアに社交界について色々話を聞いていた時、不意に感じる、嫌な雰囲気。何だろう?何か悪いものが近付いて来ているように感じる。


「リリー様?」


ソフィアに声を掛けられてソフィアを見る。


「どうかされましたか?」


聞かれて私はソフィアに言う。


「何だか分からないけれど、嫌な感じがするのです…」


ソフィアが心配そうに私を見る。


「大丈夫ですか?何かお持ちしましょうか。」


そう言ってソフィアが立ち上がった時、ノックが響いて、侍女が言う。


「フィリップ殿下がお見えになりました。」




フィリップ様はソンブラとセバスチャンを伴って、部屋に来た。


「リリー、悪いね。勉強中だったかな?」


フィリップ様はいつもと変わらない。ソンブラを見ると、ソンブラの右手に何やら黒いもやが見える。セバスチャンに至っては持っている花瓶から黒いもやが立ち上っていた。私は思わずソンブラに駆け寄ってソンブラの右手を取る。


「リリー様…」


ソンブラが驚いたような顔をする。ソンブラの右手を見る。見た限りは何も無い。


「何か、触りましたか?」


聞くとソンブラは驚いた顔のまま言う。


「はい、ほんの少しですが、黒魔術がかけられていたものに触れました。ですが、リリー様の祝福で弾かれ、俺自身は何も。」


そう言われてホッとする。私はソンブラの右手を自身の額に付け、願う。



≪ソンブラが無事でありますように…ソンブラをお守りください…≫




リリーの突然の行動に驚いた。普段は大人しく遠慮がちにしているのに、今のリリーは自ら進んでソンブラの手を取り、その手を自身の額に付け、祈りを捧げている。白い光がリリーから溢れ出し、ソンブラの右手に丸い玉を作り出す。その光の玉は膜を張ったようにそこに留まり、膨張して弾ける。キラキラと金色の粒が舞う。リリーが顔を上げてソンブラに言う。


「これからはもっと気を付けてください。あなたに何かあったら、フィリップ様が悲しみます。」


まるで小さな子を叱る母親のようだった。私は思わず吹き出す。叱られたソンブラはほんの少し顔を赤くして言う。


「心に留めておきます。」


そんな様子に笑っていると、今度はリリーが私に言う。


「フィリップ様も笑っていないで、ソンブラにちゃんと言ってください。」


怒っているリリーも可愛いなと思う。私は笑いながらソンブラの肩に手を置き、言う。


「だそうだ、もっと気を付けろ。」


ソンブラはふっと微笑み言う。


「分かりました。」


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