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106話 回復

翌日、朝のニュースで放火事件の真犯人が捕まったと大々的に流された。犯人の顔写真も出ていたが、背格好だけは美馬によく似た若い男で世間を騒がせたかったと供述しているらしい。

防犯カメラの美馬の映像は犯人のでっちあげだったと発表があり、警察から正式に謝罪会見が行われている。

そのおかげで美馬は可哀想な被害者となり、悪い印象は払拭されたようだ。

むしろそのイケメンぶりに、あれは誰だと話題になって検索ワードで急上昇していると言うから世の中というのは分からないものだ。


「美馬のやつ、新しい写真使ってもらってるじゃないか」


「本当だ。この前のと違うね。大喜びなんじゃない?」


まあ恐れていたような芸能界への道が閉ざされたなんてことはなさそうでひとまずホッとした。


「まだ当分外出は無理だろうから退院したら二人で遊びに行ってやろうぜ」


「そうだね。それにしても最初の頃はあんなに美馬を嫌ってたのに」


「あーうん、嫌ってたって言うか。まあ、あいつ自身が嫌いなわけじゃなかったし」


「やきもち?」


「う……はい」


あいつはいい奴だと思う。だから余計にそんな事で冷たくしていた罪悪感があるのだ。


「あれ?誰か来たんじゃない?」


唐突に湯井沢がドアを指差す。確かに一部磨りガラスになっている場所に影が写っていた。


「本当だ。何で入って来ないんだ?」


不思議に思った俺がドアを開けるとそこには美馬が立っていた。噂をすれば影って本当なんだな……。


「美馬?どうしたんだ?」


「いや、湯井沢が入院してるって東堂課長に聞いて……。大丈夫か?」


「まあ災難だったけど。なんでドアの前でじっとしてたの?入ってくればいいのに」


「……このあいだ沢渡に無理言って泊まってもらったから、湯井沢が怒ってんじゃないかと思ったら怖くて」


さすが湯井沢の性格をよくご存知だ。


「は?僕そんなに心狭くないからな」


……あの日ものすごい勢いで責められたのはタリウムだけのせいだと思っておくことにしよう。


「ある程度は東堂課長に聞いたけど……災難だったな」


「まあ仕方ないよ。自分の家族だしね……」


「やっぱり実家の奴らが湯井沢に毒を盛ったのか?」


「多分ね。まだ分かんないけどそれ以外には考えられないから」


「本当に酷い奴らだな」


「まあ慣れてるよ」


それを聞いてこんな事に慣れてほしくないと思った。やはりきちんと方をつけないといけない。


「俺に出来ることがあったら声をかけてくれ。あとこれは見舞い」


美馬は湯井沢の大好物の果物籠を差し出した。


「……ありがとう」


だが、湯井沢の反応はイマイチだ。また食欲が戻らないからかなと思いながら、俺が代わりに受け取る。


「あんまり長居するのも悪いからもう帰るよ。お大事にな」


「うん、ありがとう」


そう言うと本当にさっさと病室を出て行ってしまった。あいつなら俺が代わりに看病するくらいは言いそうなのに。まだ気持ちも回復してないのかな。


そして彼の姿が見えなくなってから俺ははたと気がついた。


「美馬の無実が証明されて良かったなって言ってない!」


「あー確かに」


「まあいいか。退院したらあいつの家に押しかけてお祝いパーティでもしよう」


「……そうだね」


気のせいか歯切れが悪い気もするが、湯井沢もまだ本調子ではないせいだろう。


そのタイミングで看護師さんが朝ごはんを持って来てくれたので俺の意識は一気にそちらにシフトチェンジしてしまった。


「うわあ!美味しそう!目玉焼きにウインナー、サラダにヨーグルトとフルーツ?パンも焼きたてでふかふかだ!」


ついはしゃいでしまい去り際の看護師さんに笑われたんだがまあいいだろう。


「VIPの部屋だからか?それとも俺の入院してた時と時代が変わったから?」


「そんなん知らないよ」


「普通病棟でも昔からここのご飯は美味しかったんだよなあ。子供の好きなメニューも沢山あって毎日ご飯だけが楽しみだった」


「僕より楽しそうだけど健斗が泊まり込むことで迷惑かけてないって言ってたじゃん。ご飯まで用意してもらってるくせに」


「あ……それは。でもちゃんとお金は払ってるぞ」


「威張るな」


「ごめんなさい」


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