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103話 体調不良の原因は

顔を覗き込もうとすると、恥ずかしいのか両手で俺の目を押さえにかかる。いたたたた。眼球潰れるからあんまり力入れないで。


「……帰ってこなかったから。唐揚げ作って待ってたのに。ケーキも買ってたのに」


「え?ごめん!美馬のとこ行ったんだけど、寂しいって言うから泊まって来た」


「美馬?」


「うん。連絡しただろ?」


「……帰らないってだけじゃ分かんないだろ」


「その後ちゃんと美馬の家に泊まるってメッセージしたんだけど届いてない?携帯は?」


そう聞くと湯井沢は気まずそうに「冷蔵庫の中」と答える。

あんなもん冷やしてどうすんだ。


「それで浮気してると思ったのか?」


俺は抱えていた湯井沢をぎゅっと抱きしめる。寂しい思いをさせてしまった。こんな大事な人なのに。


「馬鹿」


「うん、そうだな。本当にごめん」


俺がそう言うとまた湯井沢の頬に涙の滴が転がっていく。ひどく顔色が悪い。こんなに心配させてしまったなんて。


「もう二度と別行動はしないからな」


「……うん」


そっと顔を近づけてごめんなさいのキスをする。いい雰囲気に……そう思っていたら俺の腹の虫が盛大に鳴って湯井沢が泣きながら笑った。


「お腹空いてんの?ご飯あるよ」


「ありがたい。美馬のうちでポテトチップ食べただけなんだ」


「なんであえてのポテチなんだよ」


湯井沢は俺がそのくだりを説明するのを聞きながら、キッチンで手際よく料理を始めた。

……腕の中の温もりが無くなってしまったのは惜しいがまた笑顔が見られて本当に良かった。


「時間経ったから美味しくないかも」


そう言いながらテーブルにどんどん俺の好物ばかりが並べられていく。


「何言ってる。湯井沢の作るもんはいつでも何でも美味しいんだ」


「あはは、じゃあ全部食べろよ」


「全部??……分かった」


箸を持ち、大好きな唐揚げを頬張る。ああ、物凄く美味しい。愛情加算されてるから死ぬほど美味しい。


「湯井沢は食べないのか?」


「割っちゃった花瓶を片付けてからにする」


「危ないから後で俺がやる。今は一緒に食べよう?」


「ふふっ分かった。じゃあ少し落ち着いたら」


まだ顔色がよくない湯井沢はペットボトルの水を飲みながら眉間に皺を寄せる。


「どうした?もしかして体調悪い?」


「いや、何だろう。ちょっと気持ち悪いかも。あと昨日からお腹が少し痛い」


「風邪かな?」


そう言えば胃腸の風邪が流行っていると聞いた。そのせいかもしれない。


「俺、風邪薬持ってるからそれ飲んでちょっと寝てろよ。すぐ良くなるから」


「うん、分かった」


俺は部屋から持って来た錠剤を湯井沢に渡す。吐き気を堪えているのかそれを飲みにくそうに嚥下した湯井沢はため息をついてペットボトルの水に蓋をした。


「着替え手伝おうか?」


「大丈夫……」


けれどふらふらとおぼつかない足取りで寝室に向かう姿に俺は耐え切れず手を伸ばす。


「湯井沢、熱測ろう」


「多分それはないと思う……」


そう言うなり立っていられなくなったのか、湯井沢の体がぐらりと傾いた。


「やっぱりダメだ。救急車が嫌なら病院に行くぞ」


「……いいって」


もう目も開けていられないくせにどんだけ強がりなんだ。

幸い、東堂課長に借りた車がある。俺は嫌がる湯井沢を抱えるようにして駐車場まで急いだ。


休日診療をしている施設をスマホで探している間も、湯井沢はぐったりと車のシートに沈み込んでいた。

……これのどこが平気なんだよ。


混み合う診察室で待つこと数時間。外はすっかり暗闇に包まれている。

ようやく順番が来て診察を受けると「軽い風邪と過労、それにストレス」と言う診断が下される。


処置室で点滴を受ける湯井沢はずっと瞼を閉じていて、だいぶ具合が悪そうだ。

こんなになるまで我慢して……と思ったが、ストレスの原因は俺なんじゃないかと不安になった。


「……健斗」


「目覚めたか?」


「うん。随分と楽になった」


「それなら良かった」


手をぎゅっと握ると周りの目を気にしてか、そっと外される。だが代わりに簡易ベッドの上掛けの下で指を絡めて来る湯井沢は天使のように可愛い。


「もうすぐ終わるから一緒に帰ろうな」


「うん」


そうだ、東堂課長に車の件を伝えておかないと。取りに来たのに無いなんて申し訳ない。


「ちょっと東堂課長に車の件で電話入れて来る」


「分かった。待ってる」



後ろ髪を引かれる思いで処置室を後にして待合室で電話をかけると、ワンコール鳴り終わらない速さで繋がった。


「東堂課長、暇なんですか?」


『何だよ。突然かけて来て失礼だなー。そりゃ着信表示が健斗くんの名前ならすぐ出るでしょ』


「……ありがとうございます?あ、ところで借りた車の件なんですが、もう少しお借りしてていいですか?」


『勿論いいよ。どうしたの?ひろくんとドライブ?いいねぇ』


「いえ、湯井沢が体調崩して病院に来てるんです」


『え?大丈夫か?』


「はい。吐き気とお腹も痛いみたいで軽い風邪とストレスだろうって。最近色々ありましたし……」


『ちょっと待って、当麻が何か……ああ、うん。健斗くん、当麻が湯井沢家の報告書は読んだかって』


「いえ、まだです」


『まだだって。……うん……分かった。健斗くん、そっちの病院の帰り、うちの病院にも寄れないかな?』


「俺はいいんですけど、湯井沢の体調次第かと思いますが……急用ですか?」


『うん、ちよっとひろくんをうちで診察したい。急を要するからちょっと頑張って連れて来て貰える?』


「はい、分かりました」


一体何なんだろう。東堂病院は小児科が専門のはずだけど。

俺は不思議に思いながらも電話を切り、点滴が終わった湯井沢を連れて懐かしい病院を目指した。

湯井沢には寄り道を伝えたが、疲れているのか生あくびばかりして今も助手席でうとうとしている。


……もしかして何か別の病気?


俺は急いで通い慣れた道へと車を進めた。




「よく来たね!こっちだよ」


エントランスに入ると既に待機していたのか東堂課長が駆け寄って来た。

側には車椅子まで用意されていて、俺の心臓はドクンと嫌な音を立てる。


「病院では何の検査を?」


隣にいた年配の医者らしき人が俺に尋ねる。


「えっと……聴診器と血液検査、その結果は後日だそうでまだ出てません。……そのくらいですね」


「分かった。神崎くん、すぐCT検査の準備、あと超音波」


「はい」


声をかけられた看護師が手配に走りだした。当の湯井沢はきょとんとした顔で東堂課長を見ている。


「大袈裟なんだけど。一体なにごと?」


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