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第67話 異空間(2)あの道の向こう

 魔王一行が、道を蛇行したり昇ったり降りたりループしたりしつつ、汗をかきながら進んだ先が――パッとひらけた。


 みな急に明るい場所に出て目がくらんだが、しばらくして視覚が戻ると、眼前に異様な光景が広がっているのに驚いた。

 出口はどこかの高台の上にあり、ある程度は遠くまで見通せた。


「ここは……地下空洞、なのか?」


 上を見上げて魔王が言った。

 かつて観た、地底探検映画を思い出したのだ。


 空はどこまでも赤く、湿った空気と暑さで押し潰されそうだ、と魔王は感じた。


「アキラは地底世界を見たことがあるのか?」

 ハーティノスが訊ねた。


「本物ではないよ。あくまで、想像上の絵物語のはなしさ」

「そうなのか……」


「空は赤とか橙、明るくても黄色で、熱帯雨林の樹木が生い茂り、気温と湿度がとても高く、火山があちこちで煙を吹き出し……そして巨大なトカゲ、恐竜という生物が我が物顔で歩き回っている。

 何億年も前の地球、いや原初の星の姿がほぼそのまま保存されたような世界。そんな風に、物語の作者たちは地底世界を妄想したんだ」


「……ま、まんまだな。

 ここでも火山は噴火し、煙を噴き上げている。違うのは、巨大なトカゲが見当たらぬことぐらいか。しかし、地底ではなさそうだぞ」

「なんで?」

「あそこに、月のようなものが見える。つまり、これは天井ではなく空だ」

「あー、確かに」

「アキラの言う、キョウリュウのいた時代。我々の国にもその痕跡があるやもしれぬな。一万年前までは、同じ時を紡いでいたのだから」

「まあ、そういうことになるんだろうな。――で」

「ん?」

「問題は、ここなんだけどさ」

「ああ」

「ここ、魔王国のある星でも、原初の星でも……ないよな?」

「えっと……」

 自信の無い黒騎士卿は、ちらと薬師を見た。

「ああ、ここは違う世界じゃ」

 薬師は彼等の疑問に答えた。


「いまのところ、空気は大丈夫なようじゃが……なんせ気温が高くてしんどいぞ」

 ヒウチは太い眉毛をハの字に曲げて、暑さに耐えていた。

「しかし弱ったのう……。こんな広い場所に出てしまっては、最早どうやって宰相殿を探せばよいか、分からなくなってしまったわい」


「あー……そりゃこまったな。どうしよう、ハーさん」

「お、俺に言われても……。キョウリュウとやらが出てきたら役に立てるだろうが」


 後ろの方で双子騎士がひそひそ話を始めた。


「キョウリュウってドラゴンみたいなものか?」

「うう……やりにくいよ姉様」

「それはこっちも同じだよぉ……」

「「うう~」」


「それはそうと……この辺には、人間は住んでいないのかしら。もしくは越境してきた怪物だとか……。生物らしいものをほとんど見かけないのだけど」

「そうだなあ。ちょっと上空から見てみよう」

「そうね」

 ラシーカとウリブは翅を出して、すっと上空に飛び上がった。


「あ! 姉様! なにビッチとツーショットなんか!」

 サリブも慌てて飛び上がった。


「おー、なんか見えるか~」

 魔王が見上げて声をかけた。


「ぱっと見、あんまかわらないです~陛下」

「です~」

「なんか空気悪いわよねえ~。あんまり飛んでいたくないわ~」

 ラシーカは、けほけほと小さく咳き込んだ。

「ビッチ吸血鬼なのに外出て平気なのかよ」

「普段なら傘を差すけど、この世界の光は肌が焼けないのよね。不思議だわ」


「参ったなあ、手がかりなしかよ」

 魔王・晶は地面にカップを置き、水魔法を使ってチョロチョロと飲み水を注いでいる。あまりの水量の少なさが、節水中の水道のようである。


『やヌシよ、ワレにモミズをかケテくれまイカ』

 ヒウチのカバンから、からくり人形たちが出て来て、魔王から水をせびっている。


「ん? いくらナリがカエルだからって、水なんかかけて平気なのかい?」

『かなリよゴレてしマッタのダ』

「まあ……確かに。なあ、名人、こいつに水かけても大丈夫かい?」

「あとで拭けば大丈夫ですじゃ」

「そっか。じゃあ、こっち来いよ」


 カエルはペコリと頭を下げると、トコトコと魔王の元に近づいてきた。

 すると、


『あ、ズルイゾ』

『クッククク』


 残りの二匹もやってきた。


「まー、お前らも汚れてるな。よし、洗ってやろう」


『ヤッター』

『クックー』


 仲良く三匹を水洗いしていると、幽霊執事とヒウチがなにやら作業をはじめた。


「セバと名人、なにしてるの?」

「今日はここにキャンプを作ろうという話になりましたので、その準備をば始めたところでございます、陛下」

「黒騎士卿と竜神様も闇雲に動くよりは、と申されてのう」

「なるほど」

「それに――」

「それに、なんだい? セバ」

「ここで我々が逗留すれば、敵をおびき寄せることが出来るだろう、とも」

「げッ!」

「ご安心を。私がお守り致しますので、夜はごゆっくりお休み下さいませ、陛下」

「そ、そっか。セバは幽霊だから寝なくても大丈夫なのか」

「左様でございます、陛下」

「しょっちゅう昼寝してるからくり共とはえらい違いだな」


『ショッちゅうトハなンダ! イドうチュうぐライだゾ、やヌシ』

『ソーダソーダ』

『クルッククク』


「へいへい。じゃ、お前等もセバと一緒に寝ずの番な」


『『『………………』』』


「やっぱ寝たいんじゃん」

 魔王はからくり人形の洗浄を終えると、布巾で水滴を拭った。


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