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第66話 異空間(1)捜索隊の足跡

 ラシーカの案内で、迷宮から異空間に侵入した一行は、宰相モギナスの足跡を探しつつ、迷宮に大量の卵を産み付けた侵略異生物を追った。


 空洞内には卵から生まれたと思しき異形のモンスターが多々生息してはいたものの、肝心のマザーはその痕跡だけを残して消えていた。


                  ☆


「前回この洞窟を覗いた時には、怪しい生物の一部が見えていたのだが……」

 黒騎士卿が小首を傾げながら言った。


「産卵するだけして引っ込んだのかな?」

 と魔王。


「だが、何故我々の世界まで来て卵を産んだのか。親は何故いなくなったのか。……さすがに異世界の生物ともなると常識が通用せぬ。考えるだけ無駄かもしれんな」

「俺なんかもっとわかんないよ……」

「そうか。お前は転ばないように足下に注意しろ。足が痛いのだろう?」

「すまんな、気遣わせて。名人のおかげでかなり回復したからダイジョブだよ」

「歩けなくなったら言え。お前一人を背負うぐらい造作もない」

「いやそれはさすがに……」

「なんだ? 俺では不服なのか?」

「……はずかしい」

「ここには身内しかおらん。気にするな」


 黒騎士はぎこちなく笑った。


「黒騎士卿……これは何でございましょう?」

「ん? 何か見つけたのか、セバスチャン」


 呼ばれたハーティノスは、かがんでいるセバスチャンに近寄った。


「見慣れない物ですが、あきらかに人為的に作られた物と存じます」

「これは――我が国で製造されたものだ!」


 皆が覗き込む中、黒騎士卿はそのブツを見えるよう掲げた。


「確かに。軍人や親衛隊に支給される携帯糧食の容器ですね、姉様」

「ああ、間違いない。よく倉庫からくすねて食った」

「そういうことしてたんですか! どおりで時々ヘンな目で見られると思ったら!」

「はいはい、姉妹ゲンカはそのへんにしとけ。つまり、ここをモギナスたちが通ったって考えていいわけだな」

 黒騎士卿が魔王にうなづいた。

「アキラの言うとおりだろう」

「道は合ってる。よし、急ごう」


 一行は、道を遮る怪物を瞬殺しながらどんどん進んでいく。


「……なあ、ハーさんよ」

「なんだアキラ」

「道……曲がりすぎくね? なんか方向的に戻ってる感あるんだけど」

「ふむ……。名人、魔導具では分からないだろうか?」


 ヒウチはお手上げの仕草をした。


「残念じゃが、この空間では位置を測定する類いの魔導具は役立たずのようじゃ」

「道なりに行くしかねーだろな。きっとモギナスたちもぐるぐる回ってるさ」


 ふと、薬師が天井を見上げた。


「どうかしたか、ルパナ。いや、今は竜神の方か?」

「……もしかして、徒歩で進むのは間違っているんじゃないかと思ってな」

「確かに。水平方向がボスに至る道の正解とは限らない。だが」

「だが?」

「それだと、モギナスたちと合流出来る可能性が減ってしまうだろう」

「ふむ……面倒な」

「このまま徒歩で進もう。いいかい?」

「よかろう」


 薬師は天井を見上げながら、名残惜しそうに歩を進めた。


                  ☆


「ハーティノス」

「なんだ、ラシーカ。もう疲れたのか?」

「そうじゃなくて……なんだかすごく暑いのだけど……」


 女吸血鬼は、手のひらで胸のあたりをパタパタと扇いでいる。


「そういえば……」


 黒騎士卿は双子騎士をちらと見た。


「どうも連中が元気だと思ったら……。そういうことか」


 その血の半ばをドラコニアンが占める、彼女たちドラゴルフは、気温は高ければ高いほど活動が活発になる。

 ひんやりとした迷宮の空気は、肌に合わなかったのだ。


「あ、なにか御用ですか? 閣下」

「ビッチ! 閣下から離れろビッチ!」

「なんでもない。それと、そろそろビッチはやめろ。これでも協力者なんだぞ」

「……わかりました。(チッ)」


 黒騎士は、はーっと大きくため息をついた。


「俺も、なんかみょーに喉が渇くと思ったら……。やっぱ暑いんだな。どうしよう、地底の溶岩流とかそういうのあったらヤバいだろ」

「空気中の毒物は今のところ感知しておらんでの、まだ大丈夫ですじゃ陛下」

「そうですか名人、ありがとう。引き続き様子を見ててください」

「承りましたぞ」


「ふふ」

 急にルパナが笑った。


「なによ、きもちわるいな」

「お前もこちらに来て随分と変わったものだと、感心しておっただけじゃ」

「そうなの?」

「やはりビルカの血を引く者。器が良ければ中身も変わるということか」

「そんなもんかねえ……」

「人の上に立つことを徐々に学習している」

「自覚ねえけどな」


 ムッとしながらも、魔王はまんざらでもなかった。

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