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第61話 地下九階(2)ビッチと野獣

「だめ……。見つからない。ここには、いないわ……。

 どうしましょう……」


 ラシーカは眷属を使った全域捜索のため、激しく消耗し、その場にしゃがみこんでしまった。同時に複数の眷属を高速で操り情報収集する作業は、脳と体への負担がとてつもない。



                  ☆



 女吸血鬼の捜索により、地下九階内部には魔王一行はいないことが判明。

 地下十階に向かったのか、九階に開いた異界の洞窟へと進んだのか、現時点では分からなかった。

 ドラゴルフの騎士や、からくり人形の感知能力でも仲間の場所を掴むことが出来なかったため、ますます洞窟ルートが濃厚になってきた。


「ここで取り得る行動は二つです」

 ミノスはVサインをしてみせた。


「うむ。説明してくれ」

 腕組みをした隊長が頷いた。


「ここ地下九階から異界の洞窟に入る、もう一つは洞窟を無視して地下十階に行く、のいずれかでしょう」

「古文書の情報が正しければ、地下十階は最下層となります。そこでも見つからなければ、洞窟に侵入された、あるいは……」

「あるいは?」

「――全滅」


「「「「「ぜ、全滅!?」」」」」


 皆騒然となった。女吸血鬼を除いて。


「考えられないことじゃないわ。だって、今まで見たことも聞いたこともない生物が異界から入り込んでいるのよ。考えたくはないけど……」


「たしかに、全滅していれば、見つからないのも当然……いやいや、私がそんなことを考えてはいけませんよねえ……」

 モギナスは悔しそうに袖口を噛んだ。


「全滅などあるものか! 我等が神が同行しているのだ。そのような危機に瀕していたなら、この迷宮ごと焼き払われて我々とて燃えカスすら残ってはいないぞ!」

 拳を握って叫ぶウリブ。


「まあ……その説にも説得力はありますねえ……。というか、その説を根拠に、生きていると信じて捜索を続けましょう」


 モギナスの言に、全員がうなづいた。


「……としたら。あまり悠長にしている場合でもないですし、ここで二手に分かれて捜索しましょう」


「二手にですか、モギナス様」


「そうです。隊長、洞窟の中をちらっと覗いて、それから部隊分けを致しましょう。未知のエリアを捜索するにあたり、ケラソス卿は大戦力となります。ですが、中がグログロしいままなら、ご同行頂くことは叶いません。ですよね?」


 ラシーカは渋い顔でうなづいた。


「お掃除が終わってるだなんて、期待はしてないわ。どうせ奥に行けば行くほどヒドイことになってるんだし……。時間のムダだから、私は十階に行く。誰もいなければお供をそちらに戻すわ。それでいいんじゃない?」


「そうですか……分かりました。では、洞窟前に一人、置いていきましょう。場所は――」

 モギナスはその場で打ち合わせを始めた。



                  ☆



「エレベーターが生きていれば楽だったのだけど……まあ仕方ないわ」


 地下九階のエレベーター前でラシーカはため息をついた。

 鍵でドアを開けられなかったので、連れのウリブに破壊させたのだが……。


「ぐっちゃぐちゃだなコレ……。よくこの縦坑が保ってると逆に関心してしまうぞ」


 ラミハを脱出させる際、黒騎士卿が直通エレベーターを破壊してしまったため、下階である地下九階あたりは、すっかりガレキで埋まっていた。



 ――ラシーカは、移動速度の速いドラゴルフの騎士・ウリブだけを供に、一路地下十階を目指していた。



「どうするビッチ。階段にいくか?」

「実は……階段ってあんまり好きじゃないのよねえ……」

「疲れるから? そんな靴履いてるからだろ」


 チラと女吸血鬼の足下を見る。

 彼女のハイヒールは、ロングドレスに隠れて見えない。


「そうじゃないわ。八階から降りるとき、見たでしょ? あの……」

「卵とかの残骸?」

「破壊される前は、びっしりと上下左右にアレが生えていて……あああああ、思い出すだけでも寒気がするわ」

「……つまり、連中が産卵しやすい場所が階段、と」

「そのほか小部屋にも卵が多かったから、階段というより、狭い場所に、という方が適切かもしれないわ。なんにしても時間が惜しい。だから……」

「うむ」

「床に穴を開けてもらえるかしら?」

「へ? 穴?」


 ウリブは小首を傾げた。


「あー……、出来ないとか、時間がかかる、というのなら、ムリにとは言わないわ」

 無理強いはしないと言いつつ、挑戦的な表情とニュアンスで言葉を投げる。


「で、出来るに決まってるじゃないか。私に破壊出来ぬものなどない!」

「まあ頼もしい。さすがは黒騎士卿の部下ね」


「くッ。親衛隊やモギナス様の前だから自重していたが……。

 貴様のようないかがわしいビッチが軽々しくハーティノス様の名を語るな! 本来ならば、ここで消してハーティノス様に近づけぬようにしているところだぞ!」


「あらあら、せっかく貴女の武勲を魔王様にご報告しようと思っていたのに……。さぞやハーティノスも鼻が高かろうに、残念なことねぇ」


「ああああああ~~~~~~~~~~ッ、ムカつくムカつくムカつく!!!!

 お前なんか地上に出たら八つ裂きにして天日干しにしてやる!!!!」


「貴女こそ、串刺しにして速贄はやにえにして差し上げるわよ。ウフフフ」


 ウリブは剣を振り上げて吠えた。


「ビッチめ――コロス!!」

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