モギナスら救助隊一行は、疎開するダンジョン住民の流れをかき分けるように、逆方向へと進んでいった。
「隊長、いま何階ですか?」
階段を降りたところでモギナスが訊いた。
「は、ここからは地下五階です、モギナス様」
「たしか、うちの姪の件で一度撤退した階層が五階でしたねぇ……」
モギナスの眉根がわずかにひそめられる。
「五階には一体何があるのでしょうか……」
副隊長がモギナスに訊ねた。
宰相が時折見せる、ごくごく小さな変化を、彼は見逃さなかった。
「迷宮の地図は魔王様たちにお渡ししてしまったので、詳しいことは分かりませんが、姪からは、かなり『疲れる』階、と聞いています」
「マイセン様が、疲れると……」
「どういう意味だろうか」
リバが副官のミノスに尋ねた。
「恐らく……、トラップが多い、敵が多い、地形に難がある、魔法などによる何らかの妨害、などでしょうか」
「この先は注意して進みましょう、皆さん」
「「「「「はっ!」」」」」
『こノ階ハどアがオオい。ちゃンとツイてこイヨ』
と、熊。
「道案内、頼みますよ。魔王様や、あなた方のマスターが待っていますからね」
『しょウチしテいル』
熊とカエルがうなづくと、鳥が歩き出した。
☆
「しかし……本当に小部屋が多いですねぇ。お人形さんの言ったとおりです」
十分ほど歩いて、モギナスがぽつりと呟いた。
途中、ドアの開け閉めなどで、幾度となくダンジョンの住人とトラブルになりそうになったが、からくり人形たちが顔を出すと、おおむねは収まった。
いきなり外部の者が飛び込んで、トラブルなしで進めるだけでも、からくり人形たちの存在意義は非常に大きい。
「外に逃げ出す住人の数、ちょっと増えてきましたな。――お前達、連中が襲ってこないからと油断するなよ。彼等とて、災害に巻き込まれたようなもの。いつパニックで暴れ出すかわからんぞ」
リバが後続の親衛隊員たちに注意を促した。
さらに部屋を二つほど過ぎたあたりで、ミノスが立ち止まり、声を上げた。
「あれ……? おかしいな。熊たちがいないぞ……」
リバが手を挙げ、一行も立ち止まった。
「本当か? おーい、からくり共よー。どこにいるんだー?」
「困りましたねえ……。こう往来が多いと、一体どこにいるのか……。みなさん手分けして探してくださいな」
モギナスの命で、親衛隊総出でからくり人形たちを探し始めた。
「階段あたりまで戻ってみましたが、見当たりません」
「もう先に行ってしまったのではないでしょうか」
「両隣をくまなく調べましたが見つかりません」
隊員たちの報告は、いずれも失望させるものだった。
通り過ぎるダンジョンの住人に尋ねてみようにも、言葉の通じそうな者は少なく、一行は途方に暮れてしまった。
「仕方ありません……。迷うのを覚悟で先に進みましょう。底面の大きさは決まっているのです。いざとなれば壁をブチ破っても構いません」
「御意。誰か、カンタンでいい、図面を作れ。とにかく下へ行ければそれでいい」
「では私が」
「頼むぞ、ミノス。俺はどうもそういうのは苦手だからな……」
「よく存じておりますよ、隊長」
「すまんな」
リバは苦笑すると、少年のように指で鼻の下をこすった。
☆
『オヤ……共ガいなイぞ……』
地下六階に到着したところで、カエルが言った。
『なンだッテ? ……あ、ほントだ』
後ろを振り返った熊が、間抜け顔で応えた。
『ドウすル……』
『ドウすル……』
通路の隅で、二匹はしばし思案すると、カエルが先に口を開いた。
『おレたチはマスターをすクわねバなラナイ』
『イカにモ』
『マスターをすクうニワ、あノものドモがひツヨウだ』
『ウム』
『ワレわれダケマスターとごうリュウしテモいみハなイ』
『ウム』
『わレワレはヒりキだカラだ』
『ざンネんダガそノとおリだ』
『ひキかえソウ』
『クックウクケケケッココココ』
『『どうシタ?』』
『クッククコココククウックケケケケコココココケケケケケケコケケックククク』
『いキチがいにナルかモしレヌとモうすカ』
『イチりアル。まテバここデごウリュうでキルかモしれナイ』
『でハどウスルよ、カエル』
『そレハわかラヌ』
『トリよ、オレたチはどウスれバよイ?』
『クー………………』
『『…………』』
『……………………ックク!?』
『なニカおモイついタカ?』
『つイタか?』
からくり鳥は、こくこくとうなづいた。