からくり人形たちを先頭に、モギナス一行が上層から下階へと降りていくと、パラパラとダンジョンの住人たちとすれ違った。
デミヒューマンからクリーチャーまで、それは雑多な種族が、ダンジョンの外を目指して歩いている。
彼等の中には時折、顔見知りなのか、からくり人形たちと少々言葉を交わす者もいたが、城から来た魔族には目もくれず、いそいそと立ち去っていった。
種族の遠い魔族にすら、彼等の恐怖や疲労が伝わってくる。この事実を目の当たりにして、モギナスは、事態の重さを上方修正せざるを得なかった。
☆
――地下四階。
このダンジョンの各種警報装置やトラップなどが仕掛けてある階層だ。
……しかし、現状で機能している仕掛けは、あまり多くない。
「徒歩で降りると結構時間がかかるものですねぇ……」
モギナスは、額の汗を手の甲で拭うと、傍らのリバにぼやいた。
「すこし休憩 しましょう、猊下」
リバはその場に立ち止まると手を挙げ、後続を静止した。
「モギナス様も、もう少し動きやすい出で立ちでお越しになれば、いま少しは疲れにくかったのではありませんか」
モギナスは、床を擦るような長いローブに、身の丈を超える長い杖、そして革の背嚢を背負っている。武官のリバでなくても、こんな神官然とした身なりを見れば、とても歩きやすいとは思わない。
「し、仕方ないじゃありませんか。少しでも急いで現地に赴こうとした結果です」
「その結果で移動速度が遅くなるようでは本末転倒かと」
「ぐぬぬ……。しかし、其方の申されることもごもっともですな。ふむ……」
モギナスはしばし思案すると、宝玉を嵌め込んだ杖を少し上に掲げ、ぶつぶつと呪文のようなものをつぶやき始めた。
宝玉は、ほのかに光を発し始め、徐々にその輝きを増していった。
一分ほどだろうか。
モギナスの呪文が急に途切れ、
「はっ!」
と一声叫ぶと、宝玉が数度、稲光のように強く瞬いた。
「うわッ!」
「何だ!」
「まぶし!!」
親衛隊員が口々に、突然の光に声を上げた。
「モギナス卿、何事ですかッ」
目がくらみ、壁に手を突いた親衛隊隊長・リバが訊ねた。
「ああ、みなさん、申し訳ありません。先に言えばよろしかったですかねぇ……」
台詞とは裏腹に、少しも悪びれることもなく、モギナスが言った。
「一体何をなさったのですか」
まだ目がくらんでいるのか、親衛隊長は眉をひそめて小さく頭を振っている。
「だって其方が言うから……ちょっと衣をですね」
「はあ………………。え!?」
視力を取り戻したリバの目に映ったのは、アサシンのような異国の装束を身に纏った宰相の姿だった。
「いかがですか。動きやすそうでしょ?」
「た、確かに……し、してそのナリは一体……」
ふふふ、と不気味に笑うとモギナスはその場でくるりとターンを決めた。
「クノイチ、という職業の装束です。原初の星に存在する、古式ゆかしい密偵の姿……と魔王様が仰ってました。ホホホ。どうです? 似合ってますか?」
「「「「「はあ……」」」」」
救助隊の士気が、30%低下した。
――――なぜなら宰相は、全身ピンク色だったのだ。
☆
階下への道を急ぐ一行は、長い一本道を進むことになった。
先に行くにつれ、すれ違う住人の数が徐々に増えていく。
そんな中、モギナス達は、からくり人形たちの知り合いと思われる、動くコインの群れに遭遇した。
「な、なんですか……これは。跳ね回って……不気味ですねぇ」
普段の癖で、手の甲で口元を隠すモギナス。
だがそこにローブの袖はなく、その様は、何か臭い物に出会った時のようだ。
『よウ、おマエたチも「ソカイ」すルのカ?』
鳥の背から熊がコインたちに声を掛けた。
コインたちは個々に小さな炎を吐き出し、互いの体を打ち合わせ、チャリチャリと甲高い音を鳴らした。
『なニ、おれラはダイジョうブだ。これカラ、マスターをタすケにイく。おマエたち、いセキかラはなレたばショにニゲろヨ』
コインたちは体をひらめかせると、ランタンの灯りでその身を一瞬、キラキラ輝かせ、からくり人形たちに別れを告げた。
……魔族たちは、そう感じた。
そこに如何なる意思疎通があったのか、熊に同行した魔族達には伺い知ることは出来なかった。
だが、案内人兼同胞である、からくり人形の