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第35話 地下七階(1)双子騎士の妹、キレる

「一体どうやったんだ……」


 魔王・晶は双子 (姉)の豹変に目を見張った。

 移動を再開して最初の戦闘で、晶は思わず心の声を口にした。


 休憩中に薬師・ラパナが何かを言った。

 それからというもの、ウリブの戦闘中の振る舞いがガラっと変わって、PT内がスムーズに回るようになったのだ。


「知りたい?」

 涼しい顔で前衛たちを見るラパナ。


「うん、知りたい。というか、ハーさんもサーちゃんもきっと知りたいだろう。お前がどんな魔法を使ったのかって」


「魔法じゃない。ただ、こう言っただけ。

『お前の振る舞いは美しくない。

 敵を見て仲間を見て、三つ数えてから行動せよ』、と」


「はあ……なるほど、ね」

 晶は顎に指を当て、ニヤリと笑った。


                  ☆


 足並みを揃えることを覚えたウリブのおかげで、PTの効率はグンとアップした。これまで半ば捨てていた、黒騎士やサリブの能力が効率よく使えるようになったうえ、彼等のメンタルもぐんと回復したからである。


 ――ところが。


「あれえ……。さっきまでサクサク倒せてたのに、下に降りた途端苦戦しとるぞ」

「それは敵が強くなっているからですじゃ、陛下」

 ヒウチが答えた。

「そうなの?」

「ワシの自慢の魔導兵器もだんだん効きづらくなってきておる。この先、ワシらがお荷物になるのも時間の問題じゃろうて」

「なんだ、私がヘタクソだからじゃなかったんだ」

『ラミちゃん、むしろ上手くなってるニャン』

「それなのに苦戦するなんて……」

 ラミハは手にした魔弾銃を見つめた。

「あまりムリせずに一旦戻って、体制を立て直した方がいいんだろうか? ハーさんはどう思う?」

 黒騎士は腕組みをして、うーん、と唸った。

「編成や敵が変わった時、最初のうちは弱くなったように見えることもある。だが、単純に慣れの問題やもしれぬ。アキラがよければ、もう少し様子を見てはどうか」

「ハーさんがそう言うなら、異論はないよ」

「うむ。俺も彼等の邪魔にならぬよう加勢する」

「閣下が邪魔になんて……」

 ウリブは両手で剣の柄を、胸のあたりでぎゅっと握った。

 姉の様子が気になったサリブは、さりげなくフォローした。

「もちろんです。閣下がいれば怖い物なしです。ね、姉上?」

「あ、ああ、もちろんだ。もちろん」

 そう言った姉の顔は、いつもの自信に溢れた彼女の顔ではなかった。


                  ☆


 休憩時間を見計らって、サリブが姉に声を掛けた。


「ねえ……大丈夫? お姉ちゃん、疲れてるんじゃ」


 サリブが姉の肩に手を伸ばすと、ピシャリと払い除けられてしまった。


「うるさいな! 平気だよ!」

「でも……」

「お前こそ何だよ。閣下や陛下や竜神様たちとコソコソやって。何か文句あるならはっきり言いなよ」

「言っても聞きやしないくせに。ストレス溜まるからって逆ギレすんなよ」

「んだとコラ!」

 激高したウリブが、サリブのマントの襟首を掴んだ。

「やめないかお前たち」

 黒騎士が静止に入った。

「いいんです。止めないでください、閣下。お姉ちゃんさ、今まで自分がどれだけ無自覚に他人に迷惑かけてきたか、少しは分かった?」

「何がだよ」

「他人にリズムを狂わされることが、どれほどストレスを生むかってこと」

「――ッ!!」


 ウリブの手の力が緩んだ。

 サリブは襟元をこれ見よがしに直し、姉を睨んだ。


「自分だけ気持ち良くやろうなんて傲慢さが、私達を孤立させてきたんだよ?」

「孤立……」

「ここに入る前に、魔王陛下に約束したよね? 武勲を上げてみせるって。

 でもそれってお姉ちゃんだけのことなわけ? まわりじゅうに被害だして、それで褒めてもらえると思ってんの?

 バッカじゃない!! なに逆ギレしてんのさ!! あんたの尻ぬぐいはもうイヤなんだ!! いい加減に自覚しろ!!」


 思いがけず妹の反撃に遭い、ウリブは呆然となった。


「そんなつもりじゃ……」


 ウリブの双眸からは、今にも涙がこぼれ落ちそうだった。


「今はその辺にしておけ、俺に免じて」


 サリブは黒騎士を無視し、ギッとウリブを睨め付けた。


「とにかくちゃんとやって。ここには魔王様も閣下も猊下もいらっしゃるんだよ。分かってる? 好き放題やらなけりゃ実力出せないんなら、もう帰れ」


「……ごめん」





 魔王は黒騎士に耳打ちした。


「なあ、大丈夫なのか?」

「普段大人しいぶん、下の子がキレるとそれはそれでエラいことになる。今回はまだ腹に収めてる方だ……」

「……なんだろう。俺、試されてるのかな」

「かもしれん」


 黒騎士は苦笑して晶の肩をポンと叩いた。

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