「一体どうやったんだ……」
魔王・晶は双子 (姉)の豹変に目を見張った。
移動を再開して最初の戦闘で、晶は思わず心の声を口にした。
休憩中に薬師・ラパナが何かを言った。
それからというもの、ウリブの戦闘中の振る舞いがガラっと変わって、PT内がスムーズに回るようになったのだ。
「知りたい?」
涼しい顔で前衛たちを見るラパナ。
「うん、知りたい。というか、ハーさんもサーちゃんもきっと知りたいだろう。お前がどんな魔法を使ったのかって」
「魔法じゃない。ただ、こう言っただけ。
『お前の振る舞いは美しくない。
敵を見て仲間を見て、三つ数えてから行動せよ』、と」
「はあ……なるほど、ね」
晶は顎に指を当て、ニヤリと笑った。
☆
足並みを揃えることを覚えたウリブのおかげで、PTの効率はグンとアップした。これまで半ば捨てていた、黒騎士やサリブの能力が効率よく使えるようになったうえ、彼等のメンタルもぐんと回復したからである。
――ところが。
「あれえ……。さっきまでサクサク倒せてたのに、下に降りた途端苦戦しとるぞ」
「それは敵が強くなっているからですじゃ、陛下」
ヒウチが答えた。
「そうなの?」
「ワシの自慢の魔導兵器もだんだん効きづらくなってきておる。この先、ワシらがお荷物になるのも時間の問題じゃろうて」
「なんだ、私がヘタクソだからじゃなかったんだ」
『ラミちゃん、むしろ上手くなってるニャン』
「それなのに苦戦するなんて……」
ラミハは手にした魔弾銃を見つめた。
「あまりムリせずに一旦戻って、体制を立て直した方がいいんだろうか? ハーさんはどう思う?」
黒騎士は腕組みをして、うーん、と唸った。
「編成や敵が変わった時、最初のうちは弱くなったように見えることもある。だが、単純に慣れの問題やもしれぬ。アキラがよければ、もう少し様子を見てはどうか」
「ハーさんがそう言うなら、異論はないよ」
「うむ。俺も彼等の邪魔にならぬよう加勢する」
「閣下が邪魔になんて……」
ウリブは両手で剣の柄を、胸のあたりでぎゅっと握った。
姉の様子が気になったサリブは、さりげなくフォローした。
「もちろんです。閣下がいれば怖い物なしです。ね、姉上?」
「あ、ああ、もちろんだ。もちろん」
そう言った姉の顔は、いつもの自信に溢れた彼女の顔ではなかった。
☆
休憩時間を見計らって、サリブが姉に声を掛けた。
「ねえ……大丈夫? お姉ちゃん、疲れてるんじゃ」
サリブが姉の肩に手を伸ばすと、ピシャリと払い除けられてしまった。
「うるさいな! 平気だよ!」
「でも……」
「お前こそ何だよ。閣下や陛下や竜神様たちとコソコソやって。何か文句あるならはっきり言いなよ」
「言っても聞きやしないくせに。ストレス溜まるからって逆ギレすんなよ」
「んだとコラ!」
激高したウリブが、サリブのマントの襟首を掴んだ。
「やめないかお前たち」
黒騎士が静止に入った。
「いいんです。止めないでください、閣下。お姉ちゃんさ、今まで自分がどれだけ無自覚に他人に迷惑かけてきたか、少しは分かった?」
「何がだよ」
「他人にリズムを狂わされることが、どれほどストレスを生むかってこと」
「――ッ!!」
ウリブの手の力が緩んだ。
サリブは襟元をこれ見よがしに直し、姉を睨んだ。
「自分だけ気持ち良くやろうなんて傲慢さが、私達を孤立させてきたんだよ?」
「孤立……」
「ここに入る前に、魔王陛下に約束したよね? 武勲を上げてみせるって。
でもそれってお姉ちゃんだけのことなわけ? まわりじゅうに被害だして、それで褒めてもらえると思ってんの?
バッカじゃない!! なに逆ギレしてんのさ!! あんたの尻ぬぐいはもうイヤなんだ!! いい加減に自覚しろ!!」
思いがけず妹の反撃に遭い、ウリブは呆然となった。
「そんなつもりじゃ……」
ウリブの双眸からは、今にも涙がこぼれ落ちそうだった。
「今はその辺にしておけ、俺に免じて」
サリブは黒騎士を無視し、ギッとウリブを睨め付けた。
「とにかくちゃんとやって。ここには魔王様も閣下も猊下もいらっしゃるんだよ。分かってる? 好き放題やらなけりゃ実力出せないんなら、もう帰れ」
「……ごめん」
魔王は黒騎士に耳打ちした。
「なあ、大丈夫なのか?」
「普段大人しいぶん、下の子がキレるとそれはそれでエラいことになる。今回はまだ腹に収めてる方だ……」
「……なんだろう。俺、試されてるのかな」
「かもしれん」
黒騎士は苦笑して晶の肩をポンと叩いた。